泥棒とギルドと厄介事の気配
 分からない事は相談しましょう。という事でまだ休みのつもりだけど装備一式を身に着けて、と。土だるまの子供は目立たない位置に転がしておいて、施錠を含めた防犯対策のチェック。ううん、そうね、一応土だるまには見えなくする魔法を掛けておきましょうか、認識阻害、知覚阻害、気配遮断っと。
 これで他に泥棒が追加されても大丈夫。身柄を確保しに来ても友釣り状態ね。……あれは確か、縄張り争いの習性を利用するんだったかしら?
「まぁどうでもいい事ね。……あら、今日はライト君なのね」
「姉さんでなくて残念でした? こんにちは、ザクロさん」
「えぇ、こんにちは。ちょっとした相談事だから問題無いわ」
 向かったギルドの受付に居たのは、ペクトさんの双子の弟ライト君。こちらは看板受付嬢ならぬ看板受付少年ね。美人の私からしても可愛いのよ。本人は格好いいって言われたいみたいで、あんまり笑ったりしないでクールに無表情でいるのよね。笑えば本当に可愛いのに勿体ない。
 まぁ男の子にとって可愛いは誉め言葉ではないらしいから、仕方ないかしら? でもこの子が昼間から飲んだくれている冒険者みたいになるのは見たくないわね……。成長するにしても、美少年からイケメンへ、そしてダンディへと成っていってくれればとても嬉しいのだけど。
 とりあえず、ライト君の未来はこの先の楽しみに取っておくとして。今日来た用事を済ませましょう。
「昨日の昼に、どうも泥棒が入っていたみたいなのよ。もう捕まえて被害は無いのだけど、その泥棒が子供なのよね」
「またですかザクロさん。相手が子供と言うのは初めてですけど」
「もう、私だって泥棒に入られないなら入られないに越したことは無いのよ?」
「凄腕冒険者な上に若くて美しい女性の1人暮らしですからね。人から奪えばいいという短絡的な頭をしている輩にとっては良い獲物に見えるんでしょう」
「あらやだ。誉めても手作りスコーンと飴玉ぐらいしか出ないわよ?」
「それだけ出れば普通は十分です」
 ペクトさんかライト君にお裾分けしようと思って持ってきていたスコーンと、非常食として持ち歩いている飴玉をプレゼント。誉め言葉は良いわよね。例えお菓子目当てでもちゃんと自分を見てくれているものならなおさら。流石に上っ面だけの明後日を見ながらな言葉は白けてしまうけれど。
 それにしても、また、なのよねぇ。私の家の防犯レベルが高い事はよく知れ渡っている筈なのに、どうしてか定期的に泥棒が入るのよね。何故かしら。まぁ大抵は食い詰めた冒険者もどきだったり、行き場をなくして流れて来た密航者だったりするんだけど。
 だから大抵は冒険者ギルドに引き渡せば、まぁ労働力として上手に使ってくれるのよね。私にも人材斡旋という形になって金一封が入るし。あらやだ、人身売買なんて物騒な事は言わないで頂戴。奴隷取引はこの最果ての地であっても重罪よ?
「ただ、子供ですか……」
「そうなのよねぇ。たぶん中型の樽でもすっぽり入ってしまうんじゃないかしら」
「困りましたね。流石にそれほど幼いとできる仕事がほとんどありませんし……」
 うーん、と考えながら何か資料らしい紙の束をめくっていくライト君。出来る受付少年なのよね。そしてそんなライト君でも扱いに困る子供の泥棒。さて、どうしましょう。
「ザクロさんが雇うというのは?」
「教育している手間暇が無いわね。どのレベルから教えるべきかも分からないし」
「ですよね。しかし、流石に冒険者登録をする訳にもいきません。子供、ううん……」
 たぶんあの資料の束、仕事の一覧か何かかしら。でもここは最果ての地、開拓最前線。子供は居ても身元がしっかりしている生活基盤がしっかりある大人の家族か、もう既に大人以上に仕事が出来るようになっている一人前ぐらいだもの。身元も能力も不明な子供が出来る事は、残念ながらほぼ無いと言っていいでしょう。
 だって子供が来るべき場所ではないもの。というか、保護が必要な子供が単独で居るという事自体が既に違和感なのよね。一番あり得るのは孤児が密航してきたっていう可能性だけど、どれほど幸運が必要になることか。
「……そうなのよねぇ。そもそも、何処から来たのかも分からなければ誰なのかも分からない。それでも多分磨けば光る程度の素質は既に見えているし、厄介事の気配もするのよねぇ」
「ザクロさんが厄介事と言うときは大抵当たりますからね。そんなに面倒そうなんですか?」
「えぇ。だって、私の魔法で土だるまにしたのを、一度自力で打ち破っているのよ」
 どう考えても普通の子供ではない要因、怪力か対魔力かその他かは分からないけど、普通はあり得ない「やらかし」を口に出すと、ライト君は目を丸くしてしまったわ。えぇ、そうなのよ。驚いたわ。
 ギルドに所属する人間として、ライト君は私の魔法の腕前をよく理解している筈なの。その私の魔法が破られたという事実は、そのまま脅威度として伝わるでしょう。下手をしなくても昨日攻略したダンジョンよりずっと厄介よ。
 ううん、と更に考え込む姿勢になったライト君。えぇそうなの。だから相談に来たのよ。どうしましょうね?
「……ちょっと僕では判断できませんね。父に相談してみます。ザクロさん、結論が出るまで身柄の確保をお願いしてもいいでしょうか?」
「えぇ、分かったわ。元々私の家に入った泥棒だもの。死なない程度に面倒を見ておくわね」
 ちなみに、ライト君(とペクトさん)のお父様は、この開拓最前線のギルド支部の支部長さん。そう、つまりこの最果ての地で、ほぼ一番偉い人よ。大事になってしまうけれど、えぇ、そうね、知らないままに取り返しのつかないやらかしをやってしまうよりは、まぁ、まだマシかしら。
 それにほかならぬライト君の判断だもの。そこは尊重してありがたく指示を待ちましょうか。
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心の底から清々してます!! 11
初公開日: 2020年09月29日
最終更新日: 2020年09月29日
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コメント
乙女ゲーム世界への転生を果たした悪役令嬢。
多分他には転生者も転移者もいない……筈なのに!
同タイトル10の続き
心の底から清々してます!! 12
乙女ゲーム世界への転生を果たした悪役令嬢。多分他には転生者も転移者もいない……筈なのに! 同タイトル…
竜野マナ
心の底から清々してます!! 10
乙女ゲーム世界への転生を果たした悪役令嬢。多分他には転生者も転移者もいない……筈なのに! 同タイトル…
竜野マナ
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