備えと対策と招かれざる客
そうしてライト君にお任せして、私はひとまず家に帰る事にしたのだけれど……えぇ、何か騒がしいわね? もう、昨日の大仕事で私はお休みだっていうのに、どうしてこうなるのかしら。休ませて頂戴な。
と、口に出したところで厄介事が無くなる訳ではないから、緩く息を吐くにとどめるのだけど。さて、警戒だけは切らさないようにしながら何が起こっているか確認しましょうか。場合によっては街の中であっても戦闘になる可能性がある以上は。
……そうなのよ。街の中だからと言って、別に無条件で安全という訳じゃないのよ。だからこそ私は、私が信頼できる安全地帯として、自分の家を持っている訳だし。その安全地帯を守る為には一切の手抜きをしていない訳でね?
「薄々分かってはいたけれど……」
ほんのりと憂鬱になりながら騒ぎの方向へ向かうと、やっぱりというか何というか、そこは私の家の目の前だったわ。どうしてこうなるのかしら。というか、私の家へ、多分船乗りかしら? 筋肉を見せつける事が目的とも言えそうな格好のおじさま達が、多分怒鳴りこもうとしているのよね。
何故多分かって? それはもちろん、彼らが集団でまごまごしているからよ。何だか「お前行けよ」「いやお前が行けよ」みたいな声も聞こえるし、威圧したいのか下手に出たいのかよく分からないわね。たぶん、どちらかというと威圧したいんでしょうけど。
……それにしても、この街に定期的に来る船の人達は私の事を知っている筈なのよね。だから、間違っても威圧しようなんて思わない筈なんだけど……。あぁ、厄介事の気配しかしないわ。
「ちょっと、人の家の前で何を固まっているの? 退いて頂戴」
「あん? 何言ってんだ。俺達は仲間が攫われたから助けに来ただけだぜ。どっか行くのはそっちだ」
「……悪いのは耳と頭のどっちかしらね。そこ、私の家よ。あと人攫いなんてしてないわ、人聞きの悪い」
しっし、と手で追い払う仕草をしてくる海のおじさまに、ため息しか出ないわ。それでなくてもむさくるしいおじさまの集団で、海の仕事をしているせいか魚臭い臭いが周囲一帯に充満してるっていうのに。
……呆れ顔で付け加えた説明に、はっ、と鼻で笑って見せるおじさま。もうため息も出ないわ。人の話を聞く気が無いのかしら。いえ、聞く気が無いのね。
ならまぁ、手荒な手段になっても仕方ないわねぇ?
「ライト君、まだ居るかしら」
お父様に指示を仰ぐ、と言っていたから居ない可能性もあるけど、その時は普通の受付嬢さんにお願いしましょう。
何の事かって? うふふ。こういう治安が今一はっきりしない、開拓最前線の町ではね。大体の場合は、冒険者ギルドがその役を担うのよ。つまり……おまわりさんこっちです、という事ね。
まぁいくら腕力と体力が自慢と言っても、冒険者のそれにかなうほどでは無いもの。海のおじさま達はあっさりと取り押さえられて引きずられていったわ。当事者として話も聞かれたけど、詳しい事情なんて私の方が聞きたいわよ。
取り押さえられた時の言い分もよく分からないままだったし、何なのかしらね? 人攫いなんて人聞きの悪い。心当たりがない事もないけど、あの子は自分の意思で、かつそれが悪意であったから捕まったのに。誰かに放り込まれたとかだったら、私の家の防犯は反応しないわよ。
で、よく分からないままとりあえず周りが静かになったから、家に戻ったのだけれど……あら。土だるまが追加されてるわ。
「あぁ。既に被害者が出ていたから押し付け合いになっていたのね」
入り口すぐの所に、それは大きな土だるまが転がっているのを見つけて納得。門を修理しなきゃいけないわね。一応警告として、強めの衝撃が走るようになっている筈なのだけど……まぁ、頭に血が上っていたら気づかないかしら。あくまで警告だから、そこまで強い物でもないでしょうし。
けど、どうしましょうねぇ。仲間が連れていかれた所を見たからか、その上で放置されているからか、随分怯えた目をしているのだけど。何で私が悪い感じになっているのかしらね? むしろ被害者よ? 泥棒に入られた挙句に押し込み強盗の被害に遭っているのよ? まぁ、未遂だけれど。
「……まぁ転がしておいても邪魔だし、ギルドに連れて行きましょうか」
家の敷地内だから見逃されたのかもしれないけど、置いて行かれても困るのよねぇ……。
という事で杖を一振り。形状変化、ゴーレム化っと。土だるまに足が生えたけど、もちろん中身何て無いわ? 土の足よ。流石に引きずって移動は出来ないわね。……前は文字通り転がしていたのだけど、道中が酷い有様になったからこうやって運ぶことにしているの。ちょっと面倒ではあるけれど、仕方ないわね。
それにしても、不審人物の運搬なんて特殊極まる状況には慣れたくなかったわね。そんなに私は「楽な相手」に見えるのかしら。
「この開拓最前線で自前の家を持っていて、そして何年も普通に暮らしているのだから、普通に考えればその難易度はお察しの筈よねぇ。……自分だけが、はじめてそのことに気付いた、なんて心底思える、単純でおめでたい頭の持ち主は、その実結構多いのかしら?」
本当に。
少しは頭を使った方がいいと思うわよ? ……使わないから、他人から奪ってしまえ、なんて思考になるのかもしれないけれど。