帽子を押さえて顔を上げたときには、ヒモロギナナフシはすでに肢を振り上げていた。すんでのところで飛び退き、ローブの端を破られるにとどまったが安心などできない。
悪態をつく暇も惜しんで、私は残ったマジック・ボムをありったけ地面に突き刺さった長大な肢の関節部分めがけて投げつけた。瘴気と煙まみれでロクに見えない上の方から、ギチギチというおぞましい悲鳴が聞こえる。
ヒモロギナナフシの甲皮は、脱皮殻でさえ強酸性の薬品の容器に使えるほど強固だ。しかし、その甲皮に覆われていない関節部分は脆い。
ブチブチという嫌な音とともに、体重を支えきれなくなった肢が関節からへし折れる。巨体が転倒し、でたらめに振り回される肢が頭上をかすめた。
もうもうと巻き上がる瘴気を吸わないように口元を押さえ、私は全速力でその場を走り去る。今の装備では肢の一本をもぎ取るだけで精一杯、あんな怪物と真正面からやり合える火力などない。背中にビリビリと伝わる咆哮に追い立てられるように森の中を走る。マスクの隙間から瘴気を吸い込んでしまったか、肺が痛むがかまってはいられない。
瘴気の影響で涙が滲む視界で、なんとかビーコンの位置を特定し、そこに向かって走り続ける。しかし、背後からは相変わらずズシンズシンという重い音とともにヒモロギナナフシが迫ってくる。
私とヤツとでは歩幅が違いすぎるし、なによりこっちはか弱い乙女だ。無尽蔵の体力があるわけでもなければ空が飛べるわけでもない。
なら――どうする?
ビーコンの位置は分かっているが、そこまでたどり着けば助かるわけでもない。だが、このままではどの道助からない。
頭の中から自分の喘鳴を追い出しながら、できることを確認する。
マジックボムはすべて使い切ってしまった。採取した素材の中には、即座に武器として使えるようなものはない。