紹介されてされるという話
 現金が手に入った事が一番嬉しかった事とするなら、次点は「一度でも持ち込んだものなら何度でも買えるようになる」事だろう。何が言いたいかというと、便利な黄色いビー玉が狙って買い込めるようになった。やったぜ。
 ……天然石ビーズ含め、若干割高なのは仕方ない。うん。現金が入ったからと言って、いきなり買物の量が増えればバレる確率も上がるから、その分の手数料だと思えば。
 まぁそれが分かったのは、実際に翌日ギルドの本体空間に移動してからの事なのだが。
「で、何故マスターが?」
「うちのアイドルを紹介してなかったからな」
「……アイドル?」
「何か文句あんのかあ゛あ゛?」
「イエナニモ」
 知らないのと「冒険者」という言葉からは想像し辛かったから聞き返したのだが、割と本気の声で凄まれればそう返すしかない。しかしマスターがアイドル……マスターに合わせてなのか類は友を呼ぶという事なのか、全員が全員ゴツいおっさ……おじさま達というメンバーの『アベンチャーエール』で、アイドル……?
 ……看板娘的な? と一応の納得をしたところで、とたたた、と軽い足音が聞こえて来た。うん、これは違うわ。だってマスター達はのしのしかずんずんだからな。
「遅れてごめん! 新しい人が入ったって!?」
「おぉおぉ、走るな、こけたらどうする!」
「大丈夫だよぅ。子供じゃあるまいし」
「十分子供だ!」
 そしてマスターのこの反応も、付き合いは浅いが新鮮だ。昨日のやり手冒険者な貫禄はどこ行った、マスター。
 さてそれはそれとして、くるっとこちらを回り込むようにして、後ろにある入り口の扉からやって来たのは、可愛らしい少女だった。膝丈半袖ドレス風ワンピースの上からケープを着けて、靴はひざ下までの編み込みブーツに長手袋。
 その全てがリボンとフリルで飾られたピンク下地にクリーム色。幅広いリボンがお腹から腰辺りまで、帯のように覆って結ばれていて、ベルト替わりなのか、そこに大粒の水晶? をはめ込んだ、白い杖をさしている。
「初めまして! 私は『アベンチャーエール』の看板娘にしてメインヒーラーのスピカキャッツです! よろしくお願いします!」
「どうも」
 髪は明るい茶髪をツインテールにしていて……その顔は、白猫の仮面できっちり隠されていた。恐らくはそれに合わせて、猫耳カチューシャを乗せている。……猫耳だけで2組になっているがいいんだろうか。
「うちの看板娘でメインヒーラーでアイドルだ。呼ぶときはスピカキャッツちゃんとしっかりちゃん付けするように゛っ!?」
「普通に呼び捨てで! スピカって呼んでね!」
 謎の威圧付きでマスターはそう言っていたが、ドゴッ、となかなかいい音を立ててスピカキャッツ……スピカの拳が脇腹へ突き刺さっていた。あれは痛い。ヒーラーとは言うが、戦えない訳ではないようだ。
 悶絶して黙ってしまったマスターは近くにいた他の冒険者に引きずって行かれ、1人残ったスピカはこちらを見てうんうんと頷いている。
「ようやくパ……マスターとは違うタイプの人が入ってくれたわ……。しかも待ち望んだ遠距離魔法系……」
 何か言いかけたし随分実感の籠ったしみじみだなぁ……というのはそっとしまっておくことにした。藪をつついて蛇を出す趣味は無い。
 そのまましばらく眺めまわされるに任せていたが、やがてスピカは首を傾げた。
「……姿を隠すのは良いんだけど、かなり徹底してるわね?」
「まぁ、基本、狙撃だから? 1人だったし」
「納得したわ」
 そう答えると、大きく頷くスピカ。伝わって何よりだ。
 ……しかしさっきの発言からすると、どうやら『アベンチャーエール』にはマスターと同じ系統、つまり近接物理系しかいないようだ。バランスが悪い。
 よくやってこれたなぁ、と山のような紙が貼り付けられた掲示板に目を向けた。のが伝わったのか、スピカは一つ息を吐いた。
「今までは、何とか、他のギルドと協力したりしてたのよ。それに魔法や魔術が使える人が居ない訳じゃ無いし……。道具でもその辺りは工夫できるし。マスターだって、遠距離手段は持ってるわ。……一応」
「一応」
「一回ね。鳥しかいない『スポット』が出現しちゃって、その時にもう大苦戦したものだから……」
「あぁ……」
 なるほど確かに。近づきようがない相手はどうしようもないな。「ハマった」というやつか。逆方向だが。……こっちからすればどこでもいいから当てて落とせば勝手に倒れそうだから、大変魅力的な相手だが。いいなぁ。
「そんな訳で! あなたにはすごく、すっごく期待しちゃってるわ! 新人さん!」
「……まぁ、出来る範囲で?」
「怪我しそうにないのも個人的にはポイントが高いの!」
 まぁヒーラーからすればそうだろうな……。と思う。全員が物理前衛が基本なら、ダメージ管理が大変だろう。メインヒーラー、と言うからにはサブもいるのだろうが、大体の場合は1人で回復を担当しているのだろうし。
 と、そこまで話したところで、復活したらしいマスターが戻って来た。
「気が合ったみてぇで何よりだ……が! 手は出すんじゃねぇぞ!!」
 ドゴッッ、と、二発目が入った。さっきより威力が上がっている気もする。
 ……今度は対策でも打ったのか、どうにか耐えたらしい。
「で、だ……。新人の、冒険者名を、考えるのも、あって……とりあえず3人で、『スポット』に、行ってみねぇか、と、言おうと、だな……」
「それはそうね。いつまでも「新人さん」じゃ格好つかないし」
「……それは確かに、助かる……?」
 多分、周囲の反応とスピカの態度から、いつもの事なのだろう。これからはあまり気にしないようにしよう。
 さてそれはともかく、名前を考えてくれるというなら、ネーミングセンスが死んでいる身としては大変助かる。実際どう名乗ったものか悩んでいたところだ。……直球でスナイパーとかしか思いつかなかったんだよな。
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文字通り世界の皺寄せを受ける話 8
初公開日: 2020年04月25日
最終更新日: 2020年04月25日
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コメント
これは多分現代ファンタジーな感じ。
7の続き。
心の底から清々してます!! 12
乙女ゲーム世界への転生を果たした悪役令嬢。多分他には転生者も転移者もいない……筈なのに! 同タイトル…
竜野マナ
心の底から清々してます!! 11
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