――ああこれは夢だな、という夢をよく見る。特に、彼と出会ってからは頻繁に。
「ねぇちょっと聞いてるの」
 真っ白い空間に私は行き倒れている。彼は私の目の前でさかさまに浮いていた。
 普通人間は宙に浮いたりしないのだけど、第一にしてこれは夢だ。それに彼は人間ではないので、物理法則のひとつやふたつ簡単に捻じ曲げられるのだろう。それにここは彼の領域だ、だったらそれこそ何でもできてしまうのかもしれない。そんな場所でも私は行き倒れているのかと思えば、乾いた笑いしか出てこないのだけど。
「君さ、また寝落ちしたでしょ」
「あっバレました……?」
「バレるよ。ていうか君忘れてるかもしれないけど、君の体調って僕にも影響するんだからね。元気でいてもらわないと困るんだけど」
 思わず「おかあさん」と呟けば「君みたいなおっきい娘いたことないんだけど」と返された。辛辣だ。
 彼、望月満さんは私の隣人である。小さなアパートの角部屋に住んでいるのが満さんで、その隣の部屋に住んでいるのが私だった。いや引っ越したわけじゃないので過去にはなっていないのだけど、今となってはメインの関係性はそっちじゃなくなった。
 その部屋に住んで数か月、一度も顔を見たことがなかった隣のお兄さんが人間ではないと知ったのは偶然だったかもしれないし必然だったのかもしれない。そこはどうでもいいことだ。確かなことは夢魔――本人に言わせれば「近いもの」であってそのものではないらしいが――である満さんの専属の餌になります、という契約を私が受け入れたことだけである。
 ようするに食べる側と食べられる側なのである。そりゃ、どうせ食べるならより健康な人間の精気――よりわかりやすい言い方をするなら感情エネルギーのことらしい――の方がおいしいだろうなとは思う。思うのだけど。
「辞めたら? その仕事」
 結局行きつくところはそこなのである。
 何度言われただろう、何度同じ言い訳をしただろう。満さんだって散々お仕事に文句言ってるじゃないですか――と言った時だけ、彼は言葉に詰まるのだけど。
「君じゃなくてもいい仕事のために、君が自分を擦り減らすのはすごくもったいないなーって僕は思うんだけど」
「でも……」
「でもは聞き飽きたよ、だっても駄目だからね」
 先手を打たれて黙り込む。
 彼は派手にため息をつくと、私の頭に手を置いた。
「やめちゃえばいいのに」
 独り言のように呟く。何を、とは彼は言わなかった。
「でも、君が毎日頑張ってるから出会えたんだろうなぁ」
 ぐい、と髪を引っ張る。本人としては梳いたつもりなのかもしれない。こういうところの力加減は、彼は絶妙に下手だ。
「満さん」
「なに」
「怒ってます?」
「どうだろうね?」
 質問に質問で返されても全面的に私が悪いので黙るしかない。
 暇なのか彼は私の髪を三つ編みにし始めた。起きたらここだけ寝癖になってそうで嫌だ。
「君はさ、自分が大事にしてるものをけなされたらどう思う?」
「嫌だなとは思います……」
 会社が明らかに黒いなあと思ってても何もできない私のことなので、多分行動には移せないだろうけど。
「うん、だから大事にしてよ」
 それ、どういうことですか。聞くより先に夢の国から追い出されて、自分の部屋の床の上で目を覚ました。
※満さんに関してはもう一話(ヒロインちゃんの出てこない閑話休題的なやつ)と後書きで補足したいなって思ってます
※この話だとだいぶふんわり
※少なくともヒロインちゃんは満さんのこと恋愛的な意味で好きだけど、満さんはどうだろうね? って話
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フォロワッサンシチュ彼化②
初公開日: 2020年04月19日
最終更新日: 2020年04月19日
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コメント
素敵な眼鏡のお兄さん