クレイフォーサイトの遺体は彼の遺言に従って火葬された。
死刑となった彼の遺体を引き取るようにガロの元へと連絡が来たのは昨日の昼のことだった。街中、いや国中が彼の死を喜び、まるで祭かのように盛り上がっているのをガロは静かに刑務所に向かうバスの中から見ていた。少し冷たい窓枠は頬に残る熱の跡を冷ましてくれた。
刑務所に着くと、すぐに手続きの書類を渡され速やかにサインすることを求められた。いつもはある程度微温的な刑務所内が嫌に殺気立っていて、クレイ・フォーサイトの遺体に何かある前に引き取ってほしい、という彼らの心情がありありと浮かんでいるようだった。ガロはそんな職員の目線の元、事務処理を始めた。
朝早くの火葬場。大罪人はいつだって特別だ。青年は青々とした空へとゆっくりと昇る煙を見上げる。昨日の今日でもう灰になった。もろく、容易く。
「死んじまったんだな」
誰もいない駐車場でポツリと溢す。室内からでは見えない煙が底抜けに明るい空と同化するまで離れられないでいた。
「こちらが、心臓のあたりの骨です」
骨太な彼の肋骨の下に心臓はいたそうだ。火葬場の担当者がそう紹介するのを静かに聞いていた。心臓さえも燃えて灰になった。これだけキチンと守られてたのに彼の心臓は役目を終える前に勝手に止められてしまった。
「長いので折らせていただきますね」
「あ、はい」
担当者が少し力を入れればすぐにその骨は折れてしまった。あっけなかった。彼女の言葉に従い、骨たちをゆっくりと白い陶器に納めていく。自分ひとりでする作業はきっと大勢で行うはずのものなのだろう。全て混ざってしまった骨たちはもう二度と正常な場所へと収まることはない。皮膚の下、肉の下。あるはずの場所に足りないもの。虚でなく、代わりに灰となった。21gよりも重い灰が持たないのはぬくもりだけだろうか。
「これは?」
箱の横に置かれた一包みの塩。使い方のわからないそれは何かと聞く。
「家に入る前に自身にかけてください。浄めるんですよ」
「浄める?」
「浄めると言っても死者の霊に対してではありません。死を運んできた災いに対してです」
マニュアルよりも優しそうな顔で言う彼女はきっとこの仕事が好きなんだろう。霊、とか災い、といった非科学的な考えを彼は嫌っていただろうか。
「分かりました」
肯くと、彼女は白い陶器の蓋を閉めた。
待っていて下さいと言われてから、ほんの数分で紫色の綺麗な木の化粧箱が手渡された。
「軽くなっちまったな、クレイ」
容易に振り回せるほどの重さしかない骨の詰まった箱をバイクへと括り付ける。
「お気をつけて」
送る式場のスタッフたちに一礼し、ガロはハンドルを握った。
街の外に出、約3時間。その場所は駐車場さえも無く、一見すると辺境にあるただの住宅のようだった。ヘルメットとゴーグルを外し、後部席に梱った箱を持ち上げる。小さなその店の扉を叩く。
「ごめんくださーい」
「はーい」
のんびりとした声と足音が聞こえた後に、鍵を回す音が聞こえた。
「予約してたティモスです」
「あ、どうも」
扉を開けた店主はニコリと笑った。
「水、どうぞ」
渡されたコップを受け取り、一気に飲み干す。長時間の砂漠での運転で乾ききった体に冷たい水が染み渡る。店内は外観と変わらず、まるで誰かの家にお邪魔したかのようだった。ファミリーテーブルが一台、それに備え付けられた椅子が四脚、壁際に置かれたいくつかの本棚はどれもサイズの異なる本で溢れていた。
「よく飲むね」
「ずっと走りっぱなしだったんで」
「何時間?」
「多分、3時間ぐらいかと」
「そんな体力あるんだ。すごいね」
私だったらすぐヘタっちゃうよ。
「じゃあ、預かりますね」
「一回開けた?」
固結びの紐と格闘しながら、店主は言う。
「バイクに乗せてたら緩んできちゃって」
「きれいな花型の結びは再現できないよな」
紐を綺麗に解くと、店主は箱から一歩離れて体の前で十字を切った。
「移し変えますね」
金属製の箱へガラガラと移し入れる。また混ざり合う。天地も無く、左右も無いままで。
「結構太いね」
そのまま重量計に乗せる。数字が表示されるはずのスクリーンは真っ黒のままに電子音が響いた。
「見たところ、中が詰まってるから結構大きくなりそうだ」
タブレットを渡され、そこに表示された料金表を見る。
「大体これくらいのサイズで、料金はこれくらい」
指をさされるままに目で追う。
「支払いは作業が完了してからで」
店主がタブレットを弄る。
「原石のままでいいんだよね」
「はい」
ペンダントの加工は石が出来てから数日かかるということだったので
「旧型のコンピューターだから遅いんだよね」
多分、3〜4時間かかるけど。という店主に頷いて、
「待ちます」と言った。
「じゃあ、作業場の方に行きます?」
「え」
「結構見たい人多いけど、どうする」
「それじゃあお願いします」
「まあ、私がやるところなんて機械に入れてくところだけなんだけどね」
通路を抜け、裏手側のプレハブ小屋に入る。
暗闇に飲み込まれていった。
機械を操作しながら、店主が口を開く。
「質問していい?」
「はい」
「火葬場で骨折った?」
「肋骨と脚を。折らなきゃ入らなかったので」
「何歳だったの?」
「37でした」
「ずいぶん若いねぇ」
そうだ、彼は若かった。寿命なんて遠かった。
「誰?」
「オレにとっての家族です」
「兄弟じゃなくてかい?」
「はい。家族です」
「そう」
あとは待つだけ。
そう言われても離れ辛くて、
壁一面の写真はどれも太陽を映したものばかりだった。
その中でもひときわガロの目を引くものがあった。澄みきった朝焼けの空に眩しさと温かさをもって登っていく太陽。
「どこ行ったら見れますか、これ」
「さっきの部屋に写真集あるから見ていいよ」
「ありがとうございます」
カチリコチリと進む置き時計の隣で椅子に座った青年は
戻ってきた店主
「コーヒー、どうぞ」
「どこ行ったことあるんですか?」
「石が出るならどこにでも」
「加工も製造もしてるよ」
「石が好きだからねぇ」
「旅に行こうかと思ってて」
「ダイヤモンドは透明だよ。どんな光も美しいものに変える。美しく魅せてくれる。美しく映す。空も陽も夜の色さえも美しく映す。綺麗でないものでさえも、綺麗に見せてしまう」
「まあ、私は詩人でもないからチープなことしか言えないけど」
帰り際、店主はヘルメットを付けている青年に声をかけた。
「朝日でも夕日でも太陽が見たいなら海がいいよ」
「水平線の向こう側まで光で満ちて気持ちいいんだ」
「その人も好きなの?」
「たぶんですけどね」
とがったそれを両手で包む。クレイの心臓の一番近くで彼を守っていた骨。ひと息に口に入れる。断面の凹凸は少なく見えたのに、そんなことはなかった。噛み砕くことも出来ず、そのまま飲み込めば喉奥で傷を作る。いたい、と思った。残りはどうしようかと箱を覗くが、全てを飲み込んでしまうことなど出来やしないのは明白だったからそのまま紐を結び直した。
その晩、眠る前に枕元に置いた小さな箱を開けた。
鈍く光るペンダントを手のひらに乗せていると彼の声が聞こえる気がした。
窓から射し込む月夜を反射して輝く光が静かにガロの瞳を照らす。
ざらりと舌の上に残っていたやけどが熱を持つ。Ⅰ次熱傷はすぐ冷やさなかったから未だに痛みが引いていない。カドの刺さった喉の奥が熱を持つ。土へと帰ることのないその身体を口に含んだ。クレイの身体で傷つけた粘膜が炎症を起こしている。
「痛い、痛いよ。クレイ」
瞳の中の熱さえも写すように
少年は独り静かに泣き伏せる。
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ガロクレの死ネタ 解釈で殴れ
初公開日: 2020年04月19日
最終更新日: 2020年04月19日
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ガロクレ 1時まで