またファンタジーです。今日の舞台は誰も太陽を知らない国。
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彼がやっとの思いで手に入れたファリナスの暗視鏡は、その対価に見合うだけの働きを十分に果たしていた。
永久に太陽の昇らぬ夜の国。常人であれば己が今どこにいるのかさえ分からなくなってしまうような常闇の中にあってなお、彼の足が街道を外れることは無い。その歩みに迷いはなく、既に国境から一里の距離を踏破していた。
時間で言えば、最後の太陽に背を向けてから既に二日が経っているのだが、道を間違えたわけでは無い。
ただ、とぐろを巻いた薔薇や、足の生えた紫陽花のような、これまで彼が目にしたためしのない景色を目の当たりにして、十分おきに足を止めてしまっていたというだけのことだ。
暗視鏡を外せばただ一面に黒が広がるだけの世界だが、今の彼にとっては何もかもが新鮮で、発見の連続だった。気付けば口角は常に上がり、少年のような笑顔がずっと絶えなかったおかげで、頬が筋肉痛になってしまうくらいだった。
そんな彼がその建物を目にしたのは、味気ない携帯糧食にいささか飽きが来ていた頃だった。
「……うん?」
暗視鏡越しの視界の中に、ぼうっと白抜けができていた。それが、久しく見ていなかった「光」だと気付いた彼は、暗視鏡の縁に手をかけて、慎重に――なにしろ、このファリナスの伝統工芸品はひどく値が張るのだから――額へとずらした。
久々の、といってもせいぜい数日ぶりに裸眼で捉えた光は、街道の先にぽつんと四角く浮かんでいた。それはこの夜の国には場違いな、彼が故郷でよく見かけたもの。家屋の窓から漏れ出るランプの灯りに違いなかった。
誘われるように、一歩足が前に出る。ざり、と砂を踏む音がして、はっと彼は我に返った。こんなところで転んで、暗視鏡が割れでもしたら一大事だ。彼はしっかりと暗視鏡をかけ直し、締め紐を結び直してから、光に向かって歩を進めていった。
やがて、彼の目の前に見慣れた様式の建物が闇の中から浮かび上がってくる。屋根も、壁も、戸板の作りも、国境を越える前に何度も目にしたものに酷似していた。
ほんの数日前までは散々見飽きていたというのに、今では妙に懐かしく、愛おしい。気付けば、ラマ牛革の手袋に覆われた彼の手が、黒樫の戸板を押していた。
扉が開く。光が溢れる。暗視鏡の向こう側が白く染まって、彼の足が乗った床板が、ぎっと小さく音を立てた。
「いらっしゃいませ」
流暢な北方共用語が、彼を出迎えた。己の足音、風の音、虫とも獣ともつかぬ夜の国の生き物の声。そんな音ばかり耳にしていたせいか、ただそれだけでじんわりと胸が熱くなる。後ろ手に扉を閉めた彼は、ゆっくりと暗視鏡を外した。
強い光が、彼の目に刺ささる。薄暗いと何度も不満を抱いた普及品のランプの灯も、今の彼には眩く見えた。それでも、夜の国の住人ではない彼は、ほんの数秒で目が慣れてしまう。
小さなテーブルが二つと、カウンター。それからすこし背の高い丸椅子は、落ち着いた色合いで統一されていた。床板と壁もそれらに合わせた黒樫でできていて、カウンターの向こう側には様々な形と色の瓶が肩を並べている。
どれもこれも、見覚えのある景色だ。だがそれゆえに、壁にかけられた夜の国の装飾品が異彩を放って見えた。それになにより、彼に歓迎の言葉を投げた店主らしき人物の姿だ。タキシードに身を包み、遮光ゴーグルをかけた三腕三足の異形が、カウンターの中に佇んでいた。
「……っ」
ちいさく喉が鳴る音が、骨を通じてかすかに彼の鼓膜を震わせた。初めて目にする夜の国の住人の姿に、思わず息を飲んでいた。強い感情が彼の全身を一瞬にして駆け抜け、動作と思考を絶ち止めていた。それは見慣れないものに対する漠然とした恐怖……ではなく、未知に対する好奇心だった。
店の様式に馴染みがあるだけ、余計にその中の異形が存在感を強めている。何故、わざわざ夜の国で、昼のある国の店を真似ているのか。湧き上がる興味が、彼の中で急激に膨らんでいった。
「闇絶ちの国のお客様を迎えられること、光栄の極み。さあ、どうぞ遠慮なさらず」
ぬたりと持ち上がった関節の無い腕が、異形の正面の席を指し示す。彼が答えを迷う前に、重さを無くした足が持ち上がっていた。とんとんとん、と軽い足音が響いて、あっという間に扉が遠ざかる。
カウンター席のひとつに腰を下ろした彼の前で、遮光ゴーグルに覆われた異形の頭が揺れるように動いた。どうやら、頷いたらしい。
「初めてのお客様に、サービスです」
するりと伸ばされた腕、あるいは触手と呼ぶべきかもしれないものが、カウンターにグラスを置いた。なめらかに透き通った氷がその中へと落とされ、次いでボトルから水が注がれる。
氷を鳴らしながら水が満たされていく音は、夜の国でも変わらない。これから何を注文してもいいように、まず味付けの無い水を出すところも、彼の故郷の習慣とまったく同じものだった。
彼の顔に笑みが浮かんだ。異国の地で、異形の店主を前にしているというのに、行きつけの店の座り慣れた席に腰を落ち着けたような気分だった。
「ありがとう」
一言添えて手を伸ばし、冷えたグラスを傾けて、水を喉へと一口流す。一息ついてグラスを置けば、満を持しての店主の言葉。
「ご注文は?」
ここが酒や料理を供する店であるということは、足を踏み入れた瞬間にもうわかっていた。で、あるからには当然、オーダーを問う言葉が投げかけられることも彼には予想が付いていた。予想が付いていたくらいだから、もちろん、既に答えは決めてある。
待ってましたとばかりに、彼は鷹揚に口を開いた。
「カツカレーひとつ」
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はい、えーというわけで、この行より上までは事前に用意していたもののコピペです。ワンライとは関係あるようで関係ないような、テーマには関係あるけどワンライには関係ない、という表現が適切でしょうか、まあそんな感じです。
ぶっちゃけこれがアリなのかどうか自分でもよくわかりませんが、とりあえずこれで小説はクリアしたということで。早速本題に入っていきたいと思います。
形式的には、小説ではなくエッセイのような、フリースタイルの駄文になるかと思います。暇つぶしにでもお付き合いいただけると幸いです。
前置きは、このくらいにして。
さてこれから何を話すかですが、ワンライ企画に乗っかっているわけですから、当然テーマに則った話になります。「バー」です。
それも棒とか動物の鳴き声とかではなく、パブみたいなスタイルのお酒を飲む店のことです。そこはちゃんと企画に従おうと思ってます。
ところで、バーといえば、まず何が思い浮かぶでしょうか。私の場合は、これは実際に今回のワンライ企画のお題を見たときに思い浮かんだものですが、「BARギコ」が真っ先に思い浮かびました。
平成も終わり、令和の時代となった今では、もはや「ギコ」という名前すら古臭く感じられますが(SNSを利用している学生達のほとんどが、ギコ猫よりも若いという衝撃の事実)、BARギコなんて言ったらもう本当に化石みたいなものです。というか、実際既に死んでいますし。
……さて、BARギコとそこに関連する諸々について話す前に、そもそもBARギコとは何か、ということについてさらっと書いておきます。これは、古の時代(と言っても精々十数年前とかそこらですが)に生まれたチャットツールでした。
ブラウザ上で、Flash(当時はまだあどびーじゃなくてまくろめでぃあでしたっけ)で動作するタイプの、アバターを用いたチャットでした。似たようなものだと、もなちゃとなんてものもありましたね。使用感はかなり違うのですが、まあ似たようなものと呼んで差し支えないでしょう。
あめぞう生まれ……じゃなくてあやしいわーるど生まれのキャラクター、「ギコ猫」のアバターを使って、MMORPGのような雰囲気でチャットを楽しむサイト、それがBARギコ、でした。
2010年代初頭に閉鎖し、今では跡地が残るだけ……あれ、跡地も無くなったんでしたっけ? ちょっと曖昧ですが、まあとにかくその昔BARギコというサイトが存在していたわけです。「バー」というお題を見たときに、真っ先に私が思い出したのがこのBARギコでした。
……というわけでもないんですよこれが。
いえ、実際に「バー」という題を見た瞬間に、もう私の頭の中にはギコハハハと笑う猫の姿がちらついていましたが、BARギコはBARギコでも、私が思い出したのは本家本元のBARギコONLINEではなかったのです。
ご存知の方にはもうお分かりのことでしょう。そう。私が思い出していたのは、「BARギコっぽいONLINE」でした。これは先述のBARギコのクローンサイトなのですが、なんとびっくりこちらは今も生きています。生きてるんです。現存しているんです! この令和の時代に! Twitterどころか、スマートフォンもまだ存在していなかった時代のチャットサイトが!
もはや生きた化石ですね。正直なところ、もう私はこの「っぽい」も、とっくに消滅したか、あるいはすっかり過疎っているものだと思っていました。が、しっかりまだ動いてました。もなちゃとにはもうほとんど人がいないというのに。
ちょっと感動しました。時代の流れに押し流されてしまったと思い込んでいたものが、まだそこにあった。たったそれだけのことと言ってしまえばそれまでですが、とても貴重なものだと思えました。
しかし、そんな「っぽい」も、来年までの命です。Flashが終わる、という話は、インターネットを習慣的に利用している方であれば、一度ならず目にしたことはあるのではないでしょうか。2020年末で、Flashのサービス提供が終了するとかしないとか、それに合わせて各ブラウザもFlash対応を止めていくそうですね。
昔は、「この先一生ネットのおもちゃ」なんて言葉もありましたが、インターネットに一度流れた情報は、永遠に生き続けるのだと、残り続けるものだと思っていました。
しかし、一昔前の創作系サイトを読み漁っていた人たちの心に深い傷を残した事件が、ちょっと前にもありましたね。Infoseekのwebサービスが終了したり、ジオシティーズも終了したり。あのとき確かにあったはずのものが、いとも簡単に消え去ってしまいました。
アドレスがわからなければ、ウェブアーカイブから探し出すことは至難の業です。ネット上の情報は容易く消滅する。あの時、多くの個人サイトの終焉と共に、私はそのことを思い知りました。
そんな中で、まだ生き残っていたんです。BARギコっぽいONLINE。遠からずなくなってしまうものだとしても、それでもなくなってしまう前に、今、もう一度その存在を思い出して、アクセスできたことがどれだけ幸運なことなのか。
インターネットは広大です。いつでもどこでも誰でも手軽に、世界中のデータにアクセスすることができます。でも、とても手軽だからこそ、その貴重さがわかりにくくなってはいないでしょうか。
あるいは容易く消えてしまうような、そんなデータばかりなんです。いつでも手軽にアクセスできる。そう思えてしまいますが、実は明日も同じデータを拾えるなんて、そんな保証はどこにもないのです。
一期一会。インターネットにこそ、この言葉が当てはまるのではないでしょうか。物質として残らないのですから、紙に書かれた文章よりも、今あなたが見ているこのテキストの方が、実はずっと儚いのです。
閑話休題。
2ちゃんねる、今では5ちゃんねるですが、当時は2ちゃんねるだったあの場所の住人達に「BARといえば」と訊ねた場合、その回答はだいたい二つに分かれます。
ひとつは先述した「BARギコ」、もうひとつは、「BARモナー壱番屋」です(ごく個人的には、例外としてここに「BARタカラギコ」も加えたいところですが)。
マスターに無茶な注文をするスレ、というスレッドはこのBARモナー壱番屋を舞台にしていました。たぶん。たしか。ちょっと記憶が曖昧ですが、せっかくなのでちょっとGoogle先生にでも聞いてみてください。現存するかどうかは知りませんが、昔の、十年以上前のねらーたちが、どんなふうにして遊んでいたのか、ちょっとだけ見えてくると思います。
そう。ちょっとだけ、なんです。
2ちゃんねるのログのまとめサイトというのは、もうそれこそ最盛期はとんでもない数が存在しました。イミフやハム速に代表されるようなまとめブログが有名ですが、その他に盛り上がったスレの保管サイトが無数に存在していました。
それも、今ではほとんど、見る影もありません。
更新が止まっているサイトはまだましです。大抵の保管サイトは、消滅してしまいました。
昔はスレタイをそのままGoogle先生に投げてみれば、どこかしらに保管されている過去ログが引っ掛かったものですが、今ではそんなことはできません。いったいどれだけの過去ログが失われたのか。その大半はきっと無数の無駄レス糞レスで埋め尽くされているわけですが、その中に混じってきらりと光る良レスのことを思うと、非常に残念でなりません。
こんな思いをするのなら、あの時ちゃんと保存しておけばよかった! そう思っても、後の祭りです。
ですから、私は言いたいのです。良い物は、ちゃんと保存しておきましょう、と。
このテキストライブというサービスも、最近ぐっと盛り上がってきたようですが、当然永遠に残るわけではありません。素晴らしい作品に出合えたら、しっかりコピーして保存しておきましょう。
あとわりと忘れがちなんですが、自分で書いたものもちゃんととっておいたほうがいいです。無駄に歳を食ってしまったインターネット老人会からの、ちょっとしたおせっかいですが、いや本当に消えてからダメージがドカンと来るんですよこれが。
あのサイトとかあのサイトとかあのサイトとか、いったいどこに行ってしまったんだ! と。
ネットの出会いは一期一会。バーで偶然隣り合った人と同じく、いつ出会えるかも、また出会えるかも誰にもわかりません。ただ確かにリアルと違うのは、ネットでは簡単にコピーと保存ができてしまうということです。
出会いを大事に。同じくらい、バックアップも大切に。ついつい忘れがちですが、肝に銘じておきたいものですね。
おわり。