はじめに
3年ほど前の自分が書き残していた下書きを発掘したので、それをもとに小説を書いていくよ。
午前中いっぱいくらい作業する予定だけど、私が飽きたらそこで終了。
ぼちぼちやるぜいっ
とべない天使のオーニソプター
 宇宙そらへとつながる暗く深い青の下を、どこまでも白が続いている。世界をあまねく覆う雲海は、ゆったりと陽光を浴びて輝き、星とともに夜を揺蕩い、やがてまた朝を迎える。地上の喧噪とは隔絶された場所で限りなく繰り返される景色のなかに、ぽつりと浮かぶひとつの島があった。
 岩石と土で構成された陸塊の上には草に覆われたなだらかな丘があり、森があり、渓流があり、まるでまわりの雲海が本物の海であるかのようにして、雲をまとって平然と空に佇んでいる。島の中央には巨大な錬鉄の門がそびえ立ち、門を囲うようにして、いくつもの建物が空中に浮かんでいる。その間を、天使の群れが喇叭らっぱを片手に飛び交っていた。
 天使の翼が、島の片隅に影を落とす。ほんの一瞬、陽光が遮られたことに気付いて、ユーリはついと空を見上げた。彼もまた天使であり、翼を出せるように大きく背中が開いているトゥニカを着ている。だが、空を舞うための翼は畳まれたまま、両足を島の地表に下ろしていた。
 黒い前髪の隙間から、じっと空をにらむ。本当なら、飛び交う同胞たちとともに、彼も喇叭を手にしているはずだった。
 ユーリは静かに目を閉じた。ゆっくりと深い呼吸を繰り返しながら、トゥニカには似合わない黒革のベルトに手を添える。腰に巻かれた太いベルトの背中側には、彼の腕ほどの長さのある六枚羽根のプロペラが付いた機械が繋げられていた。
 目を閉じたまま、指先で形を確かめる。ベルトと、フレームと、プロペラと、それらを繋ぐ無数の部品と起動スイッチとなる小さなレバー。全てが彼の構想の通りに完成している、はずだった。
「……よし」
 右腰のスイッチを握り込み、ユーリは瞼を上げた。島の片隅、草に覆われた緩やかな丘の頂上に立ったユーリの前には、ゆるい下り坂が続いている。そのずっと先に広がる雲海を見据えて、左足を踏み込んだ。
 ざわざわと草が鳴る。都合のいい追い風。レバーを引き、足を動かす。ベルトが震え、回転音が徐々にピッチを上げ、駆け出したユーリの背を押した。十二歩進む間に、震動と音が一定に落ち着く。最高速度への到達も予想通りで、そして、待望の浮遊感。
 ユーリの十三歩目が土を踏むことはなかった。風に揺れる草の先端を蹴り飛ばして、そのまま離れていく。
「飛ん――」
 が、そこまでだった。ふわりと浮いたユーリの体は、数歩だけ宙を駆けた後、やはりふわりと地に落ちた。そして、ふたたび土を蹴れば、またまたふわりと浮き上がる。そしてまた、着地。
「――跳んだ、かな」
 跳躍とは呼べても、とても飛行と呼べるものではなかった。ユーリは何度か普段よりも軽い体を試した後、そっとレバーを押し戻した。
 プロペラが力を失い、ゆっくりと回転数を落としていく。
 ユーリはため息をひとつ落とし、それから、ぐっと上空を見上げた。
 この島の上に雲はない。ここが雲海の上なのだから。だから、空を見れば視界に映るのは、宇宙と空が混ざり合った青。それと、空に浮かぶ建物と、飛び交う天使たちの影だけ。
 本当なら、ユーリもあの中に交ざり、己の翼で空を駆けているはずだった。
「ふんっ」
 ばさりと音を立てて、ユーリの背中の翼が開く。両腕を広げた幅の、さらに倍以上。純白の羽根に覆われた翼は力強く羽ばたき、しかし、それだけ。
 ユーリの体は、ちっとも浮き上がりはしなかった。
「……次は、プロペラやめっかな」
 空を睨む。自在に飛べる連中が羨ましくて、恨めしくて睨んだわけではない。彼にとって空はどうしようもなく眩しかった。ただ、それだけのことだった。
 天使たちは、その島を「天国の入り口」と呼んでいた。森林限界という概念を無視した植生に覆われた島の緑や川のせせらぎは、上空の浮遊建造物群の間で働く天使たちの目を楽しませ、彼らの無聊を慰めるのに一役買っていた。小さな虫や鳥の類も暮らしていて、夏になると存外賑やかになるものだった。
 その片隅に、くすんだ幌布で囲まれた粗末なテントがあった。支柱に使われている木材はどれもこれも不揃いで、幌布もあちこち継ぎ接ぎだらけ。テントが手狭になる度に新たな支柱を立てて布を張り、手作業で継ぎ足しながら広げていったことが窺える。はっきり言ってボロ布の塊のようなものだったが、その不揃いさがかえって自然との調和をもたらしいて、巨大な門の他には自然しか無いこの島にあっても、ほとんど違和感を生んでいなかった。
 そんなテントの中では、幌布越しに降ってくる薄暗い光が――使われている材料がまばらなため、まだら模様に光が透けている――あたりに転がるガラクタをぼんやりと浮かび上がらせていた。いったい何に使うつもりで集めたのか、木の枝や蔓草、石の類が転がっている。かと思えば、ネジや歯車のような機械部品もあり、どこから拾ってきたのかわからない紙束やビン・カンの類まである。そしてガラクタの山に混じって、忙しなく手を動かしている天使がひとり。
「……よし」
 ユーリはひとつ頷くと、その場に立ち上がって大きく伸びをした。チュニカの背で畳まれたままの翼がブルブルと震え、頭上にのばされた右の拳が天井の幌布に当たる。その幌布が震えたことに気付いて、かれはテントの入り口へと目を向けた。
「よう」
 布の合わせ目の間から半分だけ体を入れた一人の天使が、支柱を叩いて揺さぶっていた。ユーリと目が合うとテントの中へと足を踏み入れ、慣れた様子でガラクタを避けながらユーリのもとへと歩み寄る。かれの背中越しに、入り口から差し込む光がさっとテントの中を照らし出した。
「相変わらず暇してるようだな、ユーリ」
 天使が口元ににやりと笑みを浮かべる。細く柔らかな金色のくせっ毛に囲まれた彼の顔は、掘りの浅いほっそりとした、中性的なつくりをしていた。
「暇とは心外だな。俺は俺にできることをやっているだけだ」
 ユーリは、わざとらしくしかめ面を作ってみせた。つやのある黒髪を後ろに長してひとつ結びにしている彼は、尋ねてきた友とは対照的に顔の彫りが深く強面だったが、中性的な顔立ちであることは共通していた。
 天使には、性別はない。みな、男とも女ともつかない顔をしている。
「神様の仕事以外に、私たちがすべきことはないんだよ」
「ああ、まったくだ。できる仕事があるなら、俺だって是非そうしたいところさ。で、わざわざこんなところまで何の用だ?」
「その仕事を持ってきた」
「……なんだって?」
 ユーリの眉間に皺が寄った。
「迷子がひとりやってきてね。その子の相手をしてほしいんだ」
「迷子……地上からか?」
「ああ」
「つまり」ユーリの眉間から皺がほぐれる。「子守をしろってことか?」眉根がへにゃりと下がった。「向いてない、と、思うんだがなあ」
「たしかにきみは天使にあるまじき、もとい珍しい強面だが、他に天使手がいないのだからしかたない。それに――」かれはテントの入り口を振り返った。「――人間には、上よりもこの島の方が過ごしやすいだろう」
「……そうだな」
 ユーリは小さく頷いた。
「まったく、人間たちの医学の進歩にも困ったものだ。昔ならさっさと門をくぐらせれば良かったものを、まだ蘇生の目があるときた」
「何日だ?」
「一週間ほどではっきりするだろうよ。たいした負担でもないだろう?」
 たいした負担でないのなら、本職の連中にやらせればいい。喉まで出かかったその言葉を、ユーリはぐっと飲み込んだ。友がここへとやって来た理由が、空を飛べないがために仕事ができないユーリを気遣ってのものであることに、とっくに気付いていたからだ。
「すまない」
「うん? ななななんのことかな?」
 天使は嘘が下手だった。
「上にはもう長期滞在中の子羊たちがいて、既にけっこうな忙しさのようだったよ。彼らを助けてやってくれ、ユーリ」
「ああ」
「さ、行こう」
 テントの入り口から、滑るようにして天使が出ていく。その後について、ユーリは日の当たる場所へと進み出た。
 ふと、その顔に影がかかる。
「……くそっ」
 頭上を、喇叭を携えた天使たちが飛んで行く。思わず見上げてしまったユーリは、目に焼き付いた光景を振り払うように頭を振った。
作業おしまい
シーン2つでここまで。
だいたいこんな調子で10シーンくらいになる予定。(下書きがそのくらいだった)
登場人物の名前の由来が思い出せない……。一応現代日本が舞台のはずなのになんで主人公の名前がこんななんだろう。
テキストライブ久々にやったけど、わりとあっという間だったなあ。1時間半くらいは書いてたのか。
ちょっと設定(テキストライブまわりの)とか見直してから配信終了しまーす。
お付き合いいただきありがとうございましたー。
終了ッ!
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ななし@39b356
がんばえ〜
02:53
ヤギチュール
がんばうー
50:29
ななし@85aab1
小休止〜〜
64:39
ななし@85aab1
ヤギさんのこういう柔らかい地の文の書き方好きやな
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向き
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「とべない天使のオーニソプター」執筆作業
初公開日: 2025年06月01日
最終更新日: 2025年06月01日
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コメント
3年前の自分が書き残していた下書きを見ながら小説を書くよ。
47「清掃」
頭に浮かんだことばをひたすら書いていく。自由連想文ってやつをやります。目安の時間は10分。今回のはじ…
ヤギチュール
【3/2は臣綴の日】厨房の2人、 ★
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