王と宰相
「お前までついてくることはなかったのぞ」
「老い先短い私が残っていてもしかたないでしょう」
療養という名の幽閉のために辺境に向かう馬車に乗りこんだのは、王の右腕と称された宰相だった。
「老い先とはのう。どの口が」
宰相はまだ四十歳を過ぎたばかり、老いという言葉はまだまだ似合わない年齢だった。
王は五十を過ぎており、二十年以上王に君臨していた。
王位を継承した際に、若干二十二歳だったアルベルトを宰相に採用した時、多くの者が反対した。
それを押し切ってアルベルトに宰相の地位を与え、それから二十年、国は潤い続けた。
しかし、ここ数年、王の奇行が目立つように家臣たちが不安を覚え始めた。
決定的だったのは、王太子の妻である妃に横恋慕して奪おうしたことだった。
これは王太子を激怒させ、彼に行動を起こさせた。
王は退位に追い込まれ、今、辺境地に送られようとしている。
ちなみに、王は独身であり、王太子は歳の離れた弟であった。
「陛下。どうしてそこまでして退位したかったのです?」
「……何を言っているのだ。アルベルト」
のんびり辺境に向かう馬車の中、アルベルトが前国王に問う。
「突然責務を放りだして、売春宿にいったり、売春婦を招いたり、最後にはユリア様を手籠めにされようとしたり……何をしたかったのですか?」
「何をって、まあ、私も男であるからな」
前国王は豪快に笑う。
「そうですか。まだ隠すつもりですか?陛下、いえ、ジェルマーノ様」
アルベルトは前国王の膝に手を乗せる。
「やっとこの時がきました。私の想いをあなたに伝えられる時が。奇行に走り始めた時、不安にもなりましたが、全部裏を取りましたから。あなたはシロです。ユリア様に限っては、あなたならよかったのに、怖気づかれてしまい、残念だったとお言葉もいただいてます」
「ユリアが、そんなことを」
前国王、ジェルマーノは右手で額を覆って、溜息をついた。
「二十年前、あなたに見いだされ、宰相に抜擢された時から、お慕いして申してました。どうか、私の手をとっていただけませんか?」
「……わしはもう老人だ。お前の想いはわかっていた。だからこそ、諦めてほしかったのだ」
「私は絶対にあきらめませんよ。体を動かなくなったら、どうにか事を成そうと思ってましたから」
「アルベルト!」
ジェルマーノは顔を真っ赤にして叱咤する。
「大丈夫です。あなたの意志は尊重します。少しずつ慣らしていきます。あなたのことならなんでも知ってますから。ジェルマーノ」
アルベルトはそれ以上ジェルマーノと距離を詰めようとしなかった。
けれども、元宰相の妖艶な微笑みに、前国王は囚われてしまい、心の距離はすでに詰められてしまっていた。
(終)