力が抜けた体がのしかかってくる。
まるで、石のようだ。
石の様な物体。
人間の死体の重さを感じたのは、随分と久しぶりだった。
久しぶりに、本当に久しぶりに――あるいは初めて、人を殺した実感が、両手の指先から伝わってくる。
渾身の力で紐を握っていた拳が、凝り固まったように開かない。童貞を捨てたばかりのガキじゃあるまいし、と胸中で毒づいても、拳は開かない。
それにしても、重い。この肥満体が。さっきまであれだけ暴れてたくせに、今はもう自分で動くことすらでしない。
重い。
まるで、石のようだ。
人間の死体は、これほど重いものだったか。
軽かったはずだ。文字通り、吹けば飛ぶほどのものでしかなかったはずだ。
引き金を引けば死体の山。ナイフを薙げば死体の山。拳をふるえば死体の山。死体は手下どもに処理させればいい。ゴミと同じだ。死体の重さなど感じたことはない。命の重さなど気にしたことはない。
ないはずなのに。
なぜこの死体は、こんなにも重い?
まるで、石のようだ。
邪魔だ。押しのけようとする。できない。手が、まだ紐を握ったかたちのまま固まっている。
死体を蹴り転がして、首から紐を抜く。
死体の頭がごろりと転がり、こちらを向いた。
目が合う。
そこで初めて、自分が素顔なのに気がついた。常にかけているサングラスが、いつの間にか外れている。
目が合う。死体と目が合う。
今、自分がどんな顔をしているのか想像できない。自分の表情がわからない。顔の皮が削がれた気分が腹の底から湧き上がってきて喉を焼く。
すさまじい違和感を吐瀉物とともに床に吐き捨てる。まだ固まったままの両拳を、指を噛んで引き剥がす。
長い時間をかけて両手の指を開いているあいだ、死体はずっとこちらを見ていた。サングラス越しでない、裸の目を見ていた。
視線が重い。まるで、石のようだ。
その視線の重さで、膝を伸ばせない。地面に縛り付けられそうだ。
ようやく自由を取り戻した両手で地面を探り、サングラスを探り当てる。
視線を隠す。死体の視線から逃れる。
呪縛が解けたように、体が軽くなった。ふらつきながらも立ち上がる。
立ち上がった自分の身体が、重い。
まるで、石のようだ。
望んでいたことは果たした。大ボスは死体となって転がり、組織のトップの座は自分のものだ。自分が王だ。
だが――重い。まるで石のようだ。自分の体が、石のようだ。
石のようだ――死体のようだ。
ここには、死体がふたつある。
バカな。
転がった死体の頭を蹴り転がして、頭を埋め尽くしそうになった妄想を追い出す。
俺がトップだ。俺がトップだ。何度も言い聞かせる。
足が、重い。死体に掴まれている気がして、何度も死体を蹴った。
硬い。重い。死体の感触。
まるで、石のようだ。