「なんてことだ」
屋敷から連絡を受け、戻ってきたルイソンの父は妻と息子が攫われた話を聞き、ショックを隠せなかった。
「すみません。父上。私が倒せていればよかったのですが」
ルイソンは元の女性の姿のまま、父に状況を説明する。
「あと三か月で私は強くなる必要があります。父上、ご指導お願いします」
「わかった。おそらく体力を向上させることが一番重要だ。騎士団で基礎体力をまず上げる訓練をする。容赦はしない。悪いけどな」
「わかっています」
魔王が現れるまでは、剣聖の剣には極力触れたくない。
鍛錬など絶対にしたくないと思っていたが、母と弟が囚われてしまった以上、そんなことは言ってられなかった。
「父上、騎士団には男として一時入団させてください。常に剣を身に着けるようにします。ただ着替えと水浴びだけは考慮させてください」
「私の甥として紹介しよう。私の部屋で寝起きをするといい」
「ありがとうございます」
そうして、ルイソンは騎士団に一時的に入団することになった。
また魔王のことは隠しておけない。
緊急呼び出しの件もそうであったので、ルイソンであることは隠し、ほとんど本当のことを話し事にした。
剣聖の力を使える甥と魔王は戦いたがっている。
三か月で魔王を超える力を身に着けるために、騎士団に入団した。
人質として、妻と子供二人が囚われたと、ルイソンのことも魔王に攫われた存在として報告をあげた。
不在の理由が説明しやすいからだ。
ルイソンの変身した姿は男性体ではあるが、精悍な体つきではない。
なので、多くの騎士たちが彼女の強さを疑った。
なので訓練の合間に彼女に戦いを挑んでくるものが多かった。
剣聖は喜び、ルイソンはいやいやながらも、得る事もあるだろうと相手にした。
父が歯が立たない強さを最初から持っているため、騎士は誰一人彼女に敵わなかった。
何名もの騎士が飽きもせず彼女に挑む。
何度も戦っているうちに、友情も生まれ、騎士との間に仲間意識も生まれる。
『やはり騎士団はいいな』
剣聖は大喜びだったが、ルイソンは戸惑う気持ちが大きい。
彼女は女性であり、一応貴族子女だ。男くさい世界に投げ込まれ、毎日が戸惑いの連続、うんざりすることも多かった。
そんな中、彼女は憧れの存在を間近でみることができることがだけが、楽しみだった。
汗くさい男たちの中にいて、彼だけは異彩に見えた。
思わず見とれてして、目が合ってしまった時は睨まれてしまった。
それから、ルイソンは隠れて彼を見るようになったのだが、それでも気づかれているらしく、よく睨まれる。
他の騎士たちとは謎の連帯感が生まれ、友情を築きつつあったが、彼の距離はまったく縮まらなかった。
「模擬戦を頼む」
入団して一か月後、初めて彼に話しかけられた。
鋭い視線でそう請われ、ルイソンは悲しい気持ちになりながら、受けた。
手加減はできない。
魔王に勝つために入団したのだ。
だから全力で戦い、ルイソンは彼に勝利した。
悔しそうに彼はしていて、胸が痛んだ。
「なんでそんなに強いのに、ルイソン様を魔王から守れなかったんだ」
彼の漏らした言葉を聞き、ルイソンは驚く。
(私のこと、気にしてくれた?)
『物凄い気にしているな。それが原因じゃないか?』
「母、伯母上や従兄弟たちを守れなかったことを、私も後悔している。だから強くなるためにここにきているんだ」
ルイソンは勇気を出して、彼にそう言ってみた。
「わかってる。すまなかったな。ルイソン様が魔王の元にいると思うと、いてもたってもいられなかったんだ。馬鹿だよな、俺」
「ヘクター、は、従兄弟たちの面識があったのか?」
「いや、あんまり。だけど、ルイソン様とはよくお会いした。可愛らしい方だった。えっと、変な意味ではないからな」
「わかってるって」
ルイソンは自分の表情が緩まないように必死だった。
一方的な思いだとずっと思っていたが、ヘクターは何かしら自分に感情を抱いている。その事実は彼女をとても有頂天にさせた。
「ラウル?」
「え、いや」
怪訝そうな顔で名を呼ばれ、ルイソンは慌てて明後日の方向をみた。
ちなみにラウルはルイソンのここでの偽名だ。
「私はあと二か月で魔王より強くなる。安心しろ」
「ああ、よろしく頼むな」
手を差し出され、ルイソンはドキドキしながら、その手を握り返した。
そうして、二か月間、ルイソンは自分の限界に挑戦した。
剣にずっと触れているわけにもいかないので、部屋に戻ると剣を手放し、ルイソンは自分本来の姿に戻った。その時、お腹周りや腕に筋肉が付き始めていることに気が付いたが、ルイソンは気づかない振りをした。
魔王を倒したら、また女性らしくなるように努めようと心に決める。
一度本音を話されてから、ヘクターとの関係はよくなった。
訓練にもよく付き合ってくれるようになった。
やはりかっこいいなあと思いながらも、ルイソンは道を外さないように鍛錬に集中した。
そうして、その日がやってきた。