あの戦いのあと。
わたしたち――つまり、わたしとマチュ、そしてハロとコンチは地球でしばらく暮らすことにした。
マチュはまだ、あのときここでないどこか他の世界に消えていったシュウちゃんを探すつもりだという。なら、わたしもそれに協力する。
マチュの後見人だとかいう、シャリア・ブルって人が、わたしたちの家を用意してくれた。ただし、マチュもわたしもお尋ね者で、保護観察下と言えば聞こえはいいけど要するに四六時中監視されている上に、まっとうな連絡手段もない。もっとも、最初から身寄りのないには関係のないことだったけど。
じゃあマチュはというと、お母さんとお父さんに一度連絡したっきり親元に連絡している様子はない。でも、縁を切られたとかそういうのじゃなくて、連絡しなくても大丈夫、ってことらしい。わたしはそれは少しうらやましい。
でも、わたしには一緒に暮らしてくれるマチュがいる。マチュは大切な友達。それに、マチュが探しているシュウちゃんは、わたしにとっても友達だ。わたしはひとりじゃない。それがうれしい。
そんなことをわたしはひとり、窓から見える海を眺めながら思う。
マチュはアルバイトに出かけていった。わたしたちは交代で働いて生活費と、シュウちゃんを探す旅に出るための資金を稼いでいる。どうも生活費に関してはシャリア・ブル……さんが、全面的に面倒を見るって言ってたらしいんだけど、マチュは聞き入れなかったらしい。今度はクランバトルみたいな危ない仕事じゃなくて、まっとうな仕事で真っ当なお金を稼ぐんだって言ってた。マチュらしい。
でも、こうして一人でマチュの帰りを待っているとき、わたしは不意に、このまま今日の夜になっても、明日になっても、この家のドアが開くことはないんじゃないか。そんな考えが頭をよぎるのを止められない。
「……そんなこと、あるわけないのにね」
そういってわたしは、コンチの頭をつついた。
コンチは、出会ったときからシュウちゃんが連れていたロボットだ。シュウちゃんの忘れ形見……なんていい方をするともうシュウちゃんに会えないみたいな気持ちになるから、わたしは勝手にシュウちゃんからこの子を預かっていることにしている。
マチュが外に出ている間、わたしは家でもっぱらコンチを相手に過ごしている。マチュはときどき一人で買い物や遊びに行くこともあるけど、わたしはあんまりそういうことはしない。もちろん、わたしたちは基本的にあんまり大っぴらに外を出歩けない身分だっていうのもあるけど――わたしは、外の世界が怖いのかも知れない。
わたしは――直接ではないとはいえ、大勢の人を殺した……らしい。らしい、というずるい言い方をしてるのは、わたしにはその実感がない……ううん、それを実感するのが怖いからだ。街で買い物をしているときに出会った誰かが、あのとき――イオマグヌッソの光の中に消えていった誰かの家族や恋人だったら……それを考えると、マチュ以外の人の顔を見るのが怖くてたまらなかった。
でも、コンチには顔がない。コンチは人間じゃないから、安心して触れられる。
わたしは絨毯の上をもぞもぞ動いているコンチを抱えあげて、ソファに深く座った。
コンチは非力なわたしでも楽に抱えあげられるくらい軽い。その軽さが、わたしにはうれしかった。
「君のご主人様は、今頃どこにいるんだろうね……」
プラスチック製の足をつまんでぷらぷらさせてやると、コンチはわたしの腕の中でぱたぱた暴れる。ふふ、かわいい。
ひとりでいるとどんどん悪い考えの沼に沈んでいきそうなわたしを、コンチはいつも助けてくれる。本人(?)は、そんな自覚はないんだろうけど。
「コンチも、シュウちゃんに会いたい?」
そう話しかけると、コンチはピリピリと電子音で答えた。
「そうだよね、会いたいよね……」
以前からわたしはコンチの言葉(?)が正確にわかる。どうやらシュウちゃんも同じようにわかるけど、マチュはそうじゃないみたい。
だから……マチュがいないこの時間は、大好きな人がそばにいないさみしい時間だけど、同時にわたしとコンチの秘密の時間でもある。