地下クラブの入口は、廃墟となった雑居ビルの横にある地下通路だった。左右の壁には塗料が剥がれかけて原型をとどめていないグラフィティアートの成れの果てがベッタリと張り付いている。解けた塗料が混じり合ってできた奇怪な模様が、まるで知らない世界の文字のようだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 暗いんだからさっさと先に行かないで!」
「怖いなら入口で待っていてもらっても構いませんが」
「だからわたしもついていくって言ってるでしょ! ……あと、敬語使わなくていいよ、なんか落ち着かないし」
「そうかい。じゃあそうさせてもらおうか」
「……」
あっさりとタメ口に切り替えられてそれはそれで面白くなさそうな顔をしつつも、ルビはキツネの肩越しにライトが照らし出す地下通路の暗闇を覗き込みながら進んでいく。
「ねえ……ゼロ地区って本当に怪物がいるのかな?」
「警察や公安……ひいては政府が隠してる情報なんていくらでもある。今頃、どこかの廃墟の地下で怪物が作られてるのかもな」
「なにそれ、バカみたい」
そう言った自分の声がほんの少し震えているのを自覚しながら、ルビはキツネの背中を追って地下クラブへの階段を降りていく。
階段の終わりには、べったりと溶けたペンキが塗りたくられた鉄扉が待っていた。扉の表面に刻まれている細長い傷は、どうやって着けられたのだろうか。
キツネが鉄扉に体を押し付けて体重をかけると、悲鳴のような甲高い軋みととともに鉄扉が開いた。隙間から体を滑り込ませて中に入ると、座面が破れたスツールや足が折れたテーブルが、死体のようにいくつも折り重なった暗闇が二人を迎えた。
ライトを左右に降ると、まだ酒瓶が並んでいるカウンターや半壊したジュークボックスが見える。
「これ……ワインかなにかの染みだよね……?」
ふるえた声でルビが指差す先には、床に染み付いた赤黒い染みがあった。ライトで照らすと、光の加減かその染みは、まだぬらぬらと光っているように見える。