ポーラータング号を浮上させ、ハッチを開けたら快晴だった。
突然の強い日差しに、ジャンバールは目を細め、小さくうめく。
「大丈夫か、ジャンバール。ちょっと通してくれ」
「ああ、すまない」
後ろをバケツとブラシを持ったペンギンが通る。
その様子はどこか慌ただしく、ジャンバールは首をかしげた。
「掃除か? ずいぶん急いでいるな」
「今日は甲板で宴の日だからな。もし手ェ空いてたら手伝ってくれよ」
「それはかまわないが、宴? 何かの日だったか?」
「ああ、そういえばお前は初めてだったな」
本日7月15日は、ローの命の恩人の誕生日なのだそうだ。
何年も前に亡くなっているが、彼を偲んで毎年この日は浮上して宴をやっているらしい。
恩人は悪魔の実の能力者だったから、海上での宴にしたいとキャプテンたっての願いとのこと。
「だから晴れてくれて助かったよ。天気が悪かったら、なんとなく盛り上がらねェからな」
「それもそうだ」
二人でブラシを動かしていると、他のクルーたちも手伝いに来た。
新人のジャンバールよりも彼らはずっと手際が良くて、掃除なんてあっという間に終わる。
料理やドリンクが次々に運び込まれ、そんなこんなで宴の準備は整った。
ジョッキを持ったローが立ち上がり、口上を述べる。
「よし、乾杯」
口上なんて無かった。
すぐさまクルーたちからブーイングがあがる。
「もっとなんか喋ってくださいよ!」
「思い出話とかさあ!」
「聞きたいな~、キャプテンのエピソード!」
「何のために宴やってると思ってるんですか!」
「知るか。もともとおれが一人で偲んでたところにお前らが来て、宴し始めたのが始まりだろうが。勝手に酒の肴にするんじゃねェよ」
毎年恒例のイベントと聞いていたが、クルーたちの押しかけから始まったらしい。
なんともこの船らしい成り立ちだ。
しかしこのやり取りも、毎年のお約束らしい。
ブーイングは程よいところで笑い声に変わり、いつもの宴に早変わりだ。
「ンン、エヘン、ジャンバール君、ちょっと」
「どうかしたのか、シャチ」
変な咳払いをして変な態度のシャチがジャンバールに声をかけてきた。
ほんのり頬を赤らめて、きっと彼は酔ってるのだ。
「キャプテンとお話でもどうだい?」
「おれがか? 特別話さなければならないことは無いが……今はコラさんという人の思い出に浸っているのでは?」
「いや、なんというか、その、ウーン。率直に言おう。あそこにおにぎりが見えるかね」
「キャプテンの目の前の皿の? ああ、見えるが」
「あれを食べてきてほしいのだよ」
「なぜだ」
「エート、そこまで考えてなかったな……まあ、新人クルーの恒例任務ってことで」
「キャラは」
偉そうなキャラを貫くことをすっかり忘れて、シャチがジャンバールの腕をポンとたたく。
なんだか要領を得ない話だが、とにかくおにぎりを食べればいいらしい。
このままシャチに絡まれ続けるのもゴメンなので、ジャンバールはさっさとキャプテンのもとに向かった。
「キャプテン」
「今年はお前か、ジャンバール」
「そのおにぎりを食べればいいのか?」
「ああ助かる。こいつの具は梅干しなんだ」
はてな。
長期保存のきく貴重なビタミン源だから、クルーの健康のために梅干しは船に乗せている。
しかし船長は大の梅干し嫌い。
間違って食べそうな場所に、わざわざ梅入りのおにぎりを置いていたのは少々不可解だ。
そんなジャンバールの様子を察し、ローがぼつぼつ話し始める。
「梅干しはコラさんの好物なんだ。こんな酸っぱいもの、おれは人間の食い物とは到底思えねェが、あの人はよく食べていた」
「そうだったのか」
「この日は毎年、梅干しと鮭のおにぎりをひとつずつ作る。鮭のはおれが食べて、梅のはあの人のだ。デカい人だったから、おにぎりもデカく作る」
たしかにおにぎりは普通の倍の大きさはあった。
ジャンバールも体格が大きいので、むしろ大きい方がいいのだが。
「だが問題はその後だ。おれは梅干し嫌いだし、食料は無駄にはできねェ。だから、食ってもらえたら助かる」
「そうか。そういうことなら、いただこう」
おそらくいつも、クルーの誰かが食べていたのだろう。
それが今年は新人のジャンバールにまわってきたというわけだ。
先ほどのシャチのもの言いと、チラチラこちらに向けられるクルーたちの視線は気になるが、ジャンバールは遠慮なくおにぎりにかぶりつき。
「ンぶっ!? な、なんだこのおにぎりは……?」
思っていた味と全然ちがう。
米はモサモサして口当たりが悪いし、梅干しはべちゃべちゃしていて味がない。
そのマズさに驚いて、危なく吹きだすところだった。
「ぎゃはは、引っかかったなジャンバール!」
「いやー、いい反応してくれちゃって!」
「いいぞ新人!」
「なんなんだ、いったい……!」
ジャンバールの反応にクルーたちは大いに盛り上がり、ローまでもがかみ殺したような笑いをもらしていた。
恥ずかしさで耳をまっ赤に染めたジャンバールを、クリオネが小突く。
「騙すようなマネして悪かったよ。それ食う人、いつもはジャンケンで決めるんだけどさ、新人は何も知らねェからつい、な」
「これは普通のおにぎりじゃないのか?」
「普通のだよ。いつも通りの米をいつも通りの炊き方して、いつも通りの梅干しを使ってる」
「味が全然違うぞ」
「そうなんだよ。それが問題だ」
ウニが割り込んでくる。
彼は口直しにと、海王類の肉のから揚げをひとつ口に入れてくれた。
「その『コラさんおにぎり』だけ、毎年なぜか宴してるあいだにそんな味になるんだ。まるで――コラさんが美味しさだけを吸い取ったみたいに」
ジャンバールの背筋がスッと冷えた。
ローを見て、手に持った食べかけのおにぎりを見て、もう一度ローを見た。
ローはどこか誇らしげにコクリとひとつ頷いたが、ジャンバールにはちょっと意味がわからなかった。
イッカクがふりかけを持って現れた。
「味つけた方が食べやすいよ」
そういう問題でもないのだが。
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お芋さん太郎
終わります!ありがとうございました!
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コラさんおにぎり
初公開日: 2025年07月15日
最終更新日: 2025年07月15日
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コメント
コラさん誕生日話を書きます。
本人不在(亡くなってる時間軸)で、ハートの海賊団ジャンバール視点。
ロシナンテ生存IF⑫
ロシナンテ生存IF⑫ゆっくり書いていきます
お芋さん太郎
約束はどこかの世界で果たされる
パラレル世界線。フランキーが親友とバーでしっとりと飲む話。
お芋さん太郎
僕の正義
戦争後、落ち込むコビーが決意する話を目指す
お芋さん太郎
寄稿文
一次創作の二次創作
きょむい〜ぬ