めっちゃくちゃ眠い。
昨日、久しぶりにお酒を飲んで、そのままの流れで睡眠に移行して中途覚醒をしてしまい、そこから半端な睡眠しかとれていない故に、今めちゃくちゃ眠い。
このまま眠ってしまってもよかったのだけれど、今日更新する予定のものを書かないで、そのまま寝るのは癪に障る、というか、寝るにも寝れないという感じなので、とりあえず書きます。
まずはお話を見返してくるところから。五分以内に戻ってきます。
僕たちだけの秘密基地 50話「仲直り」
◆
人の本質を知ることはできない。いつだって外見だけでしか判断はつかない。実際に考えていることなんてわかりはしないし、どこかの誰かは正当なことを述べながら裏腹を抱えている、とか、そういうことだってあるかもしれない。
信用なんて難しい話だと思う。だから僕は人に踏み込むことが怖くて、その上で人との関わりを遠ざけていた。……きっと、遠ざける以前の問題かもしれないけれど、だが、それでも深瀬とのかかわりあいでも、いつだって恐怖心が付きまとっていた。
「僕は深瀬さんのことをよく知らないし、松原のこともよく知らない。だから、確証を持って言える話ではもちろんない。けれど、けれどもさ」
けれど、僕は彼らを信じたい。
深瀬がここまで松原のことを遠ざけるように、忌避するように視線をそらしているのは、罪悪感が彼女の中に残っているからだ。罪悪感が残っていなければ、そもそも気まずい空気になったりしない。松原についてを覚えていたりしない。話したくないこと、と語った彼女だからこそ、きちんとその呵責が心の中にあることを僕は知っている。だから、深瀬はいい人だと、僕はそう思っている。
松原だってそうだ。不器用なところはある。日中だって婉曲しながら僕に関わろうとする姿があった。素直になればいいのに、相手からの言葉を待って自分で踏み出せない性格。そんな性格は不器用ではあるけれど、別に悪いものでもない。そういう特性がある、それだけの話でしかなく、松原だって悪い人間ではないはずだ。……きっとそうだ。
「僕たちは、仲良くなれると思うんだ」
だからこそ、手を取り合える関係性が目の前にあってほしい。
息苦しさを感じるほどの気まずさ、心臓が張り詰めるような鼓動の窮屈さ、視線をどこに向ければいいのかわからないしどろもどろとした雰囲気。そんな苦しい空気を、この秘密基地に持ち込みたくない。
こんな流れであるとはいえ、それでも松原はこの秘密基地を知ってしまった。そんな彼を遠ざけるようなことをしてしまえば、きっと同じことの二の舞だろう。深瀬だって、より強く禍根を心に残すことに繋がってしまうことになるだろう。松原だって何とも言えない気持ちを抱えてそれで終いだろう。
そんなの、嫌じゃないか。
そんな結末を辿るのは、嫌じゃないか。
「だからさ、まずは全部吐き出してみようよ。松原は言いたくないだろう過去を語ってくれた。感情を教えてくれた。僕もそうだ、深瀬さんとも仲良くしたい気持ちがあるし、松原とだって仲良くしたい。そんな仲良くしたい二人が、ここまで窮屈な空気になるのって、僕は、その、……なんか嫌なんだよ」
だから、だからさ、と子どものように言葉を続ける。
「もう全部吐き出して楽になろう。松原についての気持ちも、今抱えている感情も吐き出してしまおう。苦しい気持ちを抱えるよりかは、そんな気持ちを共有して分散させてしまおうよ。それが正解だ、とは断言できないけれど、少なくとも──」
互いに気持ちのいい関係が作れると、そう思うから。
そう、僕は言葉を吐きだした。
◆
僕が言葉を吐きだしても、深瀬はしばらく無言だった。
僕の声が聞こえていなかったわけではないと思う。視線をこちらに向けては、すぐに僕からの視線を交わすようにしていた。こちらの様子、松原の雰囲気を確かめるような、そんな空気が彼女の所作から感じられた。
まだ、怯えるように背中は震えている。それを言葉だけで解消できていないのはもどかしい。けれど、それは僕が何を言ったところで変わりはしなかっただろう。彼女自身で行動を選択しなければ、何一つとして清算されることなどないのだから。
「……えっと」
そうして長い数分にも感じた数十秒を過ごした後に、深瀬はようやく言葉を吐いた。
声音は背中の震えに重なって、か細く上ずっている。視線はこちらに向いてはすぐに逸れていく。だが、それでもその言葉はこちらに向けて、松原に向けて吐きだされたものだった。
「……なんていえばいいのか、正直わからない。去年のこと、あまり思い出したくないことだってずっと思ってた、考えないようにしてたから、思い出はそんなに残ってないんだ」
か細く、上ずりながら、すすり泣くような雰囲気。それでも、途切れることなく、彼女から声は放たれる。
「でも、でもね……? だからこそ、かな、松原くんのことはずっと頭の中に残っていて、今でも、その、正直、怖い。佐久間くんについてもそうだけれど、傍観者でしかなかった私を、松原くんは恨んでるんじゃないかって、それで……」
「……それは、仕方ないだろ、……って、俺は思ってる」
深瀬の言葉をフォローするように、松原は息を吐いた。
「実際、俺も同じような状況なら見て見ぬふりをすると思うよ。さっきも言った通りにな。だって、そんな漫画みたいに正義感なんて持てるわけがないし、勇気だって出せるわけもない。俺だって助けを求める声をあげられたわけじゃない。
みんな、勇気がないんだよ。俺も、深瀬さんも、みんなも。だから、俺は気にしてないんだ、本当に、本当にな」
「……でも」
深瀬は松原の言葉を受け止めながら、言葉を続ける。
「もっと、やれることはあったと思ってる。直接的に助けることとかは絶対にできなかったと思う。私、そもそも友達、いなかったし、あと、佐久間くんは男の人だったし。でも、傍観者は傍観者なりに、先生に相談する、とかできたのかな、ってずっと思ってた。……結局、それさえ勇気を出せなかったけれど」
「……」
松原は、深瀬の言葉に沈黙する。
「……本当に今更な話になっちゃうし、これは私が勝手に清算したいだけの言葉にしかならないから、あまり口にしたくなかった。……けれど、松原くんがそれを許容してくれるなら、言いたいことがあるんだ」
「……どうぞ?」
僕は彼らの空気に挟まることはできず、中心点にいながら、彼らの一挙一動を眺めてみる。
背中を向けていた深瀬、そんな彼女がゆっくりと立ち上がっていく。その行動を視界に収めながら沈黙をする松原、その視線には確かに彼女の行動をきちんと受け止めようとする優しさがあるような気がする。
立ち上がって、深瀬は松原に向き直る。間にいる僕を通り越すように、的確に松原へと見定めて、ゆっくりと呼吸をする。すー、はー、とこちらにも聞こえる呼吸の具合に、どこか彼女らしいな、という雰囲気を覚える。
そして──。
「──本当に、ごめんなさい」
──深瀬は、松原にそう言いながら、深々と頭を下げたのだった。
◇
「まあ、実際、俺は深瀬のこととか、周囲の誰かについてなんて気にしていなかったんだけどな」
俺たちが出会った時のことを言葉に並べた後、感想を語るようにして松原はそう息を吐いた。
「……本当に?」
「本当だ。……本当というか、実際には佐久間にしか意識がなくて、周囲のことなんて考えられなかった、という方が正しいかも知らんがな」
俺の言葉に苦笑しながら、松原は、くっく、と喉で笑い声をあげる。懐かしむような松原の態度ではあるが、僕もそれに同調するように息を吐いて笑い合ってみる。
「でも、今になって俺は思うよ」と松原は声をあげる。「何が?」と俺が言葉を返すと「浩也のことさ」と答えを返した。
「まさか、心の底から嫌いだったあいつと仲良くなるだなんて、当時の俺たちには想像もつかなかっただろう?」
「それは、本当にそう」
俺は松原の声に同意した。同意した後に、俺は「でも、それ以上に驚いたこともあったけどね」と付け足してみる。僕のそんな言葉に松原は、ん? とわからないような声音をあげるけれど、僕はほくそ笑みながらその答えを返す。
◆
そうして松原と深瀬の関係は修復した、というか、ようやく構築できるような関係性ができあがった、と言えるかもしれない。
深瀬の、ごめんなさい、という声音に食い込むように、松原は「いいよ」と返していて、その速さに僕は少々の、いや、だいぶの驚きを隠すことができなくて笑ってしまった。
よかった、と僕は思った。これで、二人とは特に壁がなくかかわれること、そして秘密基地を一緒に共有できる仲間が増えた(増えてしまった?)ことに、心の底から安堵感を覚えた。
「今度から俺もここを使っていいのか?」と松原は僕に聞いてくる。僕は深瀬の方を覗きながら、もうどうせ知られているのだから、とその言葉に肯定を返そうとした。
「もちろ──」
「──いや、それはきつい、です」
僕の言葉に割り込むように、なんなら言葉を上書きするように、間髪入れずに深瀬はそう答えた。
……いや、松原が許してくれるときの返答よりも数倍早かったけれど?
そんな返事をされてしまった松原の驚愕顔があまりにも面白過ぎて、いまだに忘れることができない思い出として記憶に残っている。
まあ、これもひとつの笑い話で過去の話。それから僕たちはなんだかんだ秘密基地を共有することになっているのだから、ひとまず落ち着いた、ということでいいのだと、僕はそう思っている。