「こんな手配書、けしからん! 賞金稼ぎよりも求婚者の方が集まってきてしまう!」
ナミの手配書が更新されるたび、ゲンゾウが海軍本部へ抗議の電伝虫をしていたのを、ノジコは知っている。
その時はよもや現実になるなんて思わず、「またやってるよ」なんて苦笑のひとつで流していた。
ところがその日は、突然やってきた。
「泥棒猫ナミさんの故郷がこちらだと聞いて来ました!」
「ああ、あなたがお姉さんですね」
「なんと! 姉妹そろってお美しい!」
「手配書のナミさんに一目ぼれしてしまいまして……」
「今日が誕生日だとうかがいました」
「ぜひプレゼントをお渡ししたく」
「私のを」
「僕のを」
「おれのを」
「受け取ってください!!」
十数人の若い男女がナミの実家、つまりノジコの家に列をなす。
彼らの手には、大小さまざまなプレゼント。
ノジコはそれを見てかすれた唸り声を上げ、頭を抱えた。
「……あンのバカ妹」
騒ぎを聞きつけてやってきたゲンゾウが、ノジコには救いの神に思えた。
なにしろ彼の顔は恐いので、多少の威嚇になるだろう。
帽子の風車が無くなったただの駐在は、求婚者を一人ひとり家に招き入れ、プレゼントを受け取りつつ。
「では、出身と志望動機を」
「は、はい!」
面接などしている。
落とす気しかないくせに。
ノジコは初めこそそれを眺めていたが、長くかかりそうだったので畑に出た。
ちょうどいい働き手が並んでいたので、そいつらを数人引き連れて。
夕刻。
カラスが鳴くのと一緒に家に帰ると、ゲンゾウは一人で茶をすすっていて、プレゼントの山だけがそこにあった。
ノジコがみかんのカゴをおろし、ゲンゾウに問う。
「あいつら、みんな帰ったんだ」
「まったく今の若者ときたら、骨のないやつばかりだ。あれしきでナミに求婚しようなどと」
「ゲンさんたら、誰だって気に入らないくせに」
ゲンゾウはバツが悪そうに目をそらし、その先にはちょうどプレゼントの山がある。
「もらえるものは、もらっておいた」
「そうやってすぐ話をそらす」
「そう言うな。ホラ、この時計なんて、きっと値が張るぞ」
これではまるでタチの悪い追剥ぎだ。
ノジコはすっかり呆れて、ゲンゾウがプレゼントを物色するのを見守った。
さすが故郷や誕生日まで調べて訪れた輩たちである。
ブランド物のバッグや食器、貴金属、宝石。
どれもナミが好きそうな、高級品ばかりだ。
「ま、いらないけどね」
「有事のためにとっておきなさい。ナミもそれを望むだろう」
相手が誰であれ、ナミだったら確かにもらえるものは何でももらうだろう。
むしろ相手がくれなくても、勝手に『いただく』はず。
彼女は昔から、そういうところが強かだ。
欲に忠実で見境ない。
だけど筋が通っていて、お金の正しい使い方を知っている。
血まみれになってお金を集める小さなナミの姿が、頭の中によみがえった。
彼女であればどうするだろう。
ノジコが思いついたひとつのアイディアを、記憶の中のナミに話す。
すると彼女は笑顔を満面に「そうして」と朗らかに言った。
「それ、ゲンさんにあげる。全部」
「え!? 私にか?」
「うん。やっぱりいらないし」
「いやしかし、私がもらってもどうしようも……」
汗を散らして狼狽えるゲンゾウが可笑しくて、ノジコがプッと吹きだす。
「そんなに焦らないでよ。ゲンさんにあげるから、どこかの街で換金してさ、寄付してよ。アーロンの件でまだ復興が大変なところに」
「あ、そ、そうか……。でもいいのか? こんなにあるのに」
「もちろん。あの子だったらさ」
きっと、そうする。
ノジコがそう言うと、ゲンゾウはピタと黙った。
わずかにズレた帽子をかぶり直し、やれやれといった様子で。
「まったく。お前らときたら、年々『あいつ』に似てくるな」
『あいつ』が誰なのか、言われなくてもすぐわかる。
ナミもノジコも、血の繋がりはなくたって『あの人』の子だ。
「ナミにとって、その言葉が最高のプレゼントだよ」
ノジコは今日もこの場所を守り続ける。
『あの人』がかつていた場所、そしてあの子が帰ってくる場所だから。
この島のみかんの評判が、グランドラインにも届くといい。
それだけでわかってくれる。
あの子なら、きっと。