慣れ親しんだプールの水の感触の中に、不思議と人肌に近い温度を感じる。学校に……ううん、このプールで「彼女」といるとき以外は決して感じない安らぎだった。
「彼女」はなにも言わずに、25メールプールいっぱいの体で、わたしを包んでくれていた。ときおりプールの水面がさざなみみたいに波打って、わたしの肌をくすぐる。まるで「彼女」に触れられているみたいだ……ううん、ほんとうに触れられているんだ。
「アなた、にンげん、すごくふシぎ」
「そう……? わたしからみれば、あなたのほうがよっぽど不思議よ」
そう言ってわたしが小さく笑うと、「彼女」も合わせてちゃぷちゃぷ笑った。
「あナタ、ワタし、かラだ、ぜんぜんチガう」
「彼女」が手を伸ばして、わたしの頬にそっと触れた。……こんなふうに誰かに触れてもらうのなんて、初めてだった。
なんだか妙に恥ずかしくなって、わたしは逃げるようにしてプールサイドに泳いでいった。プールサイドに腰掛けると、「彼女」はちゃぷんと水しぶきを立てて水の中に消えたかと思うと、プールサイドからにゅっと伸びてきて女の子の姿になって、わたしの隣に座った。
「彼女」は、なにも言わず、うっすらと微笑んだままこっちを見ている。気恥ずかしくなって視線をそらそうとしたけど、でも、寂しがりのわたしの手が、勝手に「彼女」の手を握っていた。
「彼女」は少しだけ笑みを深くして、わたしに顔を近づけてきた。鼻がくっつきそうな近さから、金色の瞳がわたしをじっと見ている。
「ふシぎ。やっパり、ぜんゼンちがう」
そう言って「彼女」は、わたしの顔から身体に、じっと視線を注いだ。
「あ、あんまり見られると、その、は、恥ずかしいよ……」
「恥ずかしい」という感覚があまりわからないのか、「彼女」はきょとんとした顔でわたしを見ている。
「ネ、さわっテいい?」
「え?」
不意に「彼女」がそんなことを言うので、今度はわたしのほうがきょとんとしてしまった。
「そレ」
「それってなんのこと……ひゃあああんっ?」
思わず悲鳴を上げてしまった。「彼女」はいきなり手を伸ばしたかと思うと、わたしの胸に両手で触れたからだ。
それだけじゃない。「彼女」が伸ばしてきた手は、すぐに形をなくして、そして――水着を通り抜けて、水が染み込むみたいに、わたしの、わたしの体の中に――入ってきた。
「あ、あ――」
いきなりの出来事に、わたしはまともな声も出せないでいた。でも「彼女」は、そんなわたしの困惑をよそに、わたしの体の中を、探るようにして――。
「こレ、フシぎ。サワってみたカった」
そんなことをされた経験なんてないけど、はっきりと分かった。
わたしの体の中に染み込んだ「彼女」の手が――わたしの心臓を、触ってた。
「あっ、は、あ――」
わたしの喉が勝手に中途半端な吐息を漏らす。苦しくも痛くもないけれど、今まで味わったことがない感覚が、わたしを困惑させていた。
「彼女」の顔が、わたしのすぐ近くで、優しく微笑んでいる。
「トくん、とくン、うごいてル」
その表情に、わたしはどうしてか……泣きそうになってしまった。
「なンだか、かワいい」
その瞬間、自分でも自分の心臓が跳ね上がったのを感じた。そしてそのことは、「彼女」にもはっきり伝わってしまったようだった。
いつもうっすら微笑みを浮かべている「彼女」の表情が、珍しく少しだけ驚いた顔になっていた。
「わたしも……」
そのつぶやきは、夜のプールの中にむなしく消えていく。どうせ誰にも届かないだろうと思って、わたしは続けた。
「わたしも……あなたと同じだったらよかったのに」