ここ最近、偵察から帰ったクルーに、船長のローが妙なことを聞く。
「祭りはやってるか?」
島に着くたびに、だ。
一度や二度だったらまだわかるが、何度もとなるとさすがのべポも首をかしげる。
ローはもともと、賑やかな行事にさほど興味を示さないタイプだ。
なおさら意図が分からず、クルーの誰もが不思議に思っていた。
初めてローが祭りの有無を聞き始めてからじつに7つ目の島で、ついに祭りにぶち当たった。
島で一番栄えた港町に、離れた村々から人が集まり、昼間は祭典、夜は宴。
芝生の広場には屋台の列が並び、島の歌がそこかしこから聞こえてくる。
そのリズムは、港から少し離れた岬に船を停めたハートの海賊団にも感じられるほどだった。
「お祭りやってるって、キャプテン」
「そうらしいな。ちょっと出てくる」
「アイアイ、気を付けて」
こんな賑わいなら、どうせ買い出しだってまともにできないだろう。
海賊はこういう華やかな誘惑にとても弱いから。
ローが外出するのを見送って、クルーたちも船番だけをジャンケンで決めて、それぞれ祭りへと繰り出した。
べポはなんとなくローの様子が気がかりで、船番を買って出た。
グランドラインではめったにないくらい楽し気な島なのに、自分からそうしたのだ。
ペンギンとシャチにお土産だけ頼んで、ローの帰りをジッと待つ。
一時間も経たないころだ。
ふいに、船の中に気配がした。
船長室の方である。
船番として、べポは確認に向かった。
侵入者かと思いきや、気配の正体はローだった。
おそらくオペオペの実の能力で帰ってきたのだろう。
彼は両手に一つずつアイスを持って、船長室の前に立っていた。
両手がふさがってるのでドアを開けられないでいる。
舌打ちをして、慌てるように再びシャンブルズで部屋に入っていった。
やっぱり、ちょっとおかしい。
初めから直接部屋にシャンブルズすればよかっただろうに、キャプテンにしては不思議なミスだ。
アイスが二つなのも、慌てた様子も。
悪いなと思いながら、べポはドアにそっと近づき、耳をピルピル動かした。
数日前のことである。
ローが上着を取ろうと船長室のクローゼットを開けると、一人の女児が入っていた。
この事態にローが一瞬息を飲み、鬼哭を手に取る。
船はずいぶん前に出航していて、しかも今は潜水中。
潜伏も侵入も不可能なはずだ。
夢か、幻覚か、それとも質の悪い能力者の攻撃か。
後者であれば、かなり悪趣味である。
女児の見た目は、すでに亡くなったはずのローの妹、ラミそのものだったからだ。
「殺されたくなければ正直に答えろ。お前はいったい何者だ」
もともと険しい顔をもっと恐ろしくして、ローが凄む。
ところが女児は、花がほころぶように笑ってみせた。
向けられた刃なんて、まるで存在しないみたいに。
安心しきった顔で言うのだ。
「お兄さま!」
ローは鬼哭をそのままに、しかし額に汗を浮かべて問う。
「目的はなんだ。なぜここにいる」
「おまつりのアイス食べたいの」
「そういう意味じゃない。ちゃんと答えろ。お前はいったい、なんだ」
女児は敵意も何もなく、怯えてるわけでもなく、ニコニコ笑ってローを見上げる。
「お母さまがね、お兄さまにお願いしなさいって。ラミ、おまつりのアイスがほしいなあ」
「まつりの……アイス?」
「たべたかったから」
「祭りに行きたいのか?」
「ここにいろって言ったの、お兄さまじゃない。いけないよ。ここでずっと待ってるの。でもどうしてもアイスがたべたくって」
ついに、ローがしゃがみこむ。
危ない武器はわきに置き、片膝をついて目線を同じくした。
彼女のあの頃と同じ綺麗な両目が、ローのそれとピタリと合う。
思い出した。
ローはこの眼差しに、いっとう弱かったのだ。
「それで、おれのところに来たのか」
「ひとりで来たの。えらいでしょ」
「ああ、よくやった」
「おまつりのアイス、くれる?」
「約束する」
それからやっとたどり着いた7つ目の島では、盛大な祭りが行われていた。
昼間から色のついた煙の花火をポンポン打ち上げて、人々の賑わいが船にまで聞こえてくる。
きっとアイスも売ってるだろう。
後のことは仲間たちに任せ、ローは足早に祭りをまわった。
目的を果たして、すぐにシャンブルズで船に戻る。
白いアイスを両手に持った兄の姿に、幼い妹は狭いクローゼットの中で飛び跳ねて喜んだ。
ローとラミが、二人並んでアイスを食べる。
ラミは足だけクローゼットの外に出して腰かけ、ローは地べたに座った。
潜水艦の椅子はすべて固定されてるため、そうするより他なかったのだ。
「お行儀わるいんだ。お母さまにおこられちゃうよ」
「ああ、それもいいな」
「おこられたいなんて、変なの」
「そうだな」
母は優しかったから怒られた記憶などほとんどない。
でも、もう一度でも会えるのなら、怒られるのも悪くない。
「美味いか」
ローがラミに聞いた。
故郷のアイスとは味が違うはずだ。
「おいしいよ。好きな味」
「よかった」
少しだけ心地よい沈黙がおりた。
ローは自分のぶんを早々に食べ終えて、ラミがちいさな口で一生懸命食べるのを見守る。
「アイスを食べたあとは、どうする?」
「お父さまと、お母さまが待ってるの」
「お別れか」
「お兄さまも、いく?」
ラミが無邪気な顔をして問う。
ローは彼女の口の端に付いたアイスをそっとぬぐった。
「おれは、まだ友達と……新しい家族といるよ」
「ふうん。アイス、もういらない」
「……お前な」
一口ぶんだけ残したアイスをコーンごと渡され、しょうがねェなと息を吐く。
「あはは、お兄さま変な顔!」
「じゃあお前は変な顔の妹か」
「え~、やだー!」
そう言って、ラミが服のすき間に隠れていく。
明るく軽い笑い声が、遠ざかる。
ローは何か声をかけようとして、なにも浮かばず、ふいに思ったことが口をついて出た。
「ラミ――歯ァ磨けよ」
幽霊相手に、おれはなんて馬鹿なことを。
そう思って少しだけ赤面していると、彼女の声がかすかに届く。
「お兄さま、お父さまみたいね」
クローゼットがひとりでに閉まり、もとどおり。
溶けたアイスが引っかかったコーンだけが、ローの手に残されたのだった。
いいなあ。
船長室でたったひとり震える気配に、べポはこっそりそう思った。
別に話を聞いていたわけじゃないが、ローの雰囲気となんとなく響く優しい声色は、まさしく『兄』を連想させた。
白い毛むくじゃらの、頼れる背中を思い出す。
スワロー島で彼らと出会ってからというもの、一瞬だって寂しさを感じる暇はなかったが、べポはいつだって大好きな兄の背中から目を逸らせないでいる。
兄が、妹のおねだりを見過ごせないように。
キャプテンが部屋から出てきたら、お祭りに誘ってみようか。
おれもアイスをねだってみよう。
思い出した互いのすき間を、ほんのちょっぴり埋めるように。
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20:47
お芋さん太郎
今回はここまで!
54:05
お芋さん太郎
今回はここまでです!ありがとうございました!
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向き
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おねだり
初公開日: 2025年06月27日
最終更新日: 2025年06月29日
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