ノックもせずに無遠慮に扉を開けたのはガープだ。
部屋の中にいたセンゴクは、いつものことながら怒鳴り散らす。
「いきなり開けるんじゃないガープ! 何しに来た」
「おかきの新味もってきた。茶を出せ」
「知るか、勝手に飲め」
センゴクがそっけなく言った。
ところがガープはまったく気にせず、センゴクから椅子ひとつぶん開けて勢いのまま座る。
クッションの薄い椅子が、彼が座った瞬間にギシリと苦し気な音を立てた。
部屋はかなり殺風景で、そんなに広くないのに大きな机が鎮座している。
壁際には木箱や段ボール箱が積み重なっており、圧迫感が強い。
この部屋は隣にある広めの会議室で使う物資を保管する、物置部屋のようなものなのだ。
ガープはもってきたおかきの袋を二人の間に置いた。
机の上にはもうすでに米菓の空の小袋がいくつか散っていて、気づいたガープはニヤニヤしてセンゴクを見る。
「なんじゃ、もう食っとったんか。ずいぶんとヒマしていたようじゃな」
「冷やかしなら帰れ」
「せんべいの方がよかったか」
「お前な……!」
センゴクの声はわずかに怒気を含み、でも手はちゃんとガープのおかきへと伸びる。
ガープはやれやれと頭の後ろを掻いた。
「ばかめ。そんなに気になるなら聞きに行ったらいいじゃろう」
「そんなことできるか」
センゴクには専用の執務室があるのに、こんなこぢんまりした部屋で一人おかきを食べていたのには理由がある。
この部屋の隣で今まさに行われている、七武海会議が気になるのだ。
頂上戦争後、センゴクは海軍元帥を退き、その後釜にはサカズキがおさまった。
海軍は本部を移し、新体制に。
同時に七武海のメンバーにも動きがあった。
問題は新メンバーのひとり、最悪の世代のトラファルガー・ローである。
彼は北の海出身で、ハートの海賊団の船長。
十数年前、海軍が取り引きに失敗し、跡形もなく姿を消した〝オペオペの実〟の能力者だ。
オペオペの実をめぐって、センゴクの大切な息子は命を落とした。
そのできごとに関して情報はほとんどなかった。
加えて極秘の潜入捜査中だったため、彼が死に至った経緯をうかつに調べることもできない。
陰謀うずまくあの場所で、あの日、何が起こったのか。
なぜ彼は、死なねばならなかったのか。
客観的にみて十中八九〝オペオペの実〟が関係しているだろう。
となると、あの年若い海賊が関与しているはずなのだ。
すぐ手の届く場所に、望むものがある。
しかし大目付という立場が、それを許さない。
軽く殴っただけで壊れてしまいそうな、うすい壁一枚がもどかしい。
「相手は何を考えてるのかもわからん、イカれた海賊。今の海軍はまだ万全とはいえん」
「難儀なやつめ」
「なんとでも言え」
ロシナンテはあの時、珀鉛病の子どもと一緒だと言っていた。
あの海賊がその子どもなのか。
それともまったく無関係の偶然なのか。
あいつがロシナンテを殺して実を奪った可能性もある。
ドフラミンゴの差し金かもしれない。
そうやっていくつもの根拠のない可能性を、頭でただグルグル回すだけの十数年だった。
センゴクはゆっくりと、熱く震える息をはいた。
部屋にはガープがおかきを噛む音だけが響いて、それがひどく耳に障る。
「お前、どこかに行け。ガープ」
「ヤじゃ。元帥から降りたお前の命令なんて聞く義理無いぞ、センゴク」
ガープはそう言って大口開けて笑い、「茶を忘れてたわい。どれ、淹れてくる」と席を立った。
彼が後ろを向いてすぐ、小さな雫が賑やかなアロハシャツを点々と濡らし、しかしそれがバレないように鼻をすするのをグッとこらえた。
ああ、本当に嫌になる。
たった一枚のうすい壁も、察しの良すぎる同僚も。