【名前】
ロー、べポ、ペンギン、シャチが『ハートの海賊団』を旗揚げし、スワロー島を出航したのは、数日前のこと。
ボタンやバルブでいっぱいの潜水艦の操縦にも慣れ始め、時間的に余裕が出はじめていた。
海にはまだまだ知らないことが多く、ローは船長として勉強の日々だ。
立ち寄った島で買った本を、食堂の広いテーブルに広げて読みふける。
一緒に勉強していたべポは早々に眠ってしまい、頭はローの膝の上。
少し重たいが、心地よい暖かさがそこにあった。
昼が近づき、べポを起こそうとすると、ちょうどペンギンとシャチも食堂にやってきた。
彼らはずいぶん上機嫌な様子でローに近づき、開口一番に言った。
「ローさんローさん!」
「お願いがあるんですけど!」
「おれたちに」
「名前を付けてください!」
ローは頭の中でその言葉をコロコロ転がし、かみ砕いて、飲みこもうとして、結局わけがわからず「は?」と呆れた声を出した。
彼らが言うには、こうだ。
スワロー島には、生まれた子どもに海の生き物の名前を付ける風習がある。
冷たい海で生きる命は強いから、それにあやかり子どもも強く育ちますようにという願いを込めて付けられるのだ。
ただしこれは、子どものころだけの仮の名前。
無事に大人になったら違う名前を親からもらい、強い名前は下の世代に譲るのだという。
ペンギンとシャチも例にもれず、北の海の強い命の名前をそれぞれの親からもらった。
しかし二人の両親はずっと昔に他界してしまい、次の保護者はまともじゃなかった。
だからずっと子どもの名前のまま、今まで過ごしてきたのだ。
「おれたち海賊になったし、大人になったわけじゃん」
「だからここで心機一転して、大人の名前をもらいたいな~と思って」
「まさかローさんがこの風習を知らなかったなんて、盲点だったな」
「な」
ローは二人の親ではないが、親分歴3年、船長歴数日。
多少の違いはあるが、まあだいたい親だろう。
となると、責任重大である。
かわりばんこにテンポよく説明した彼らの傍ら、ローは言葉に詰まってしまった。
「なに、二人してローさんから何かもらうの?」
話声で起きたべポが、寝ぼけた頭で二人に問いかける。
「名前だよ。大人の名前」
「いいなあ、おれも欲しい」
「でも、お前はべポだろ?」
「べポだけど、ずるいよ」
「ずるくない。おれたちのは、まだ本当の名前じゃないんだからな」
「え~」
ゆるゆる話す彼らの声を聞きながら、ローは「うーん」とひとつ唸って、やっと結論を出した。
「お前らはペンギンとシャチだ。おれから名前はやらねェ」
「なんで!? ひどい!」
「おれたちのこと、捨てるんですか!?」
「誰が捨てるか」
ペンギンとシャチは二人そろって大げさに泣きまねを始め、その横ではべポが勝ち誇ったようにガッツポーズをした。
急に情報量が多くなった空気が煩わしくて、ローはため息をひとつ吐く。
「そんな風習しらねェし」
「いま説明したじゃん!」
「されたけども、だ」
ペンギンとシャチを交互に見て、小さく頷き。
「やっぱり、ペンギンとシャチだ」
もう一度、ゆっくりとくり返し、ふたりに言い含めた。
「うんうん、おれもそう思う」
「悪いが少し黙っててくれ、べポ」
「アイアーイ」
元気に返事してすり寄るべポをなでながら、頭にハテナを浮かべる二人に少しヒントを出してやる。
「子どもの時だけの仮の名前だとしても、それは今、お前ら自身の持ち物だろ」
「そうですけど、ウーン」
「でも、やっぱり仮は仮だし」
二人はまだピンとこない様子で口ごもる。
ローはそんな彼らをもどかしく思い、さらに続けた。
「お前ら、他にあるのか。実の親にもらったもの」
ペンギンとシャチは口をポカンとまん丸にして、たった一文字「あ」と、かすれた声をもらした。
ローはすっかり動きを止めてしまった二人の肩にポンと手を置いた。
「大事にしとけ」
それだけ言って、べポとその場をあとにした。
新しい名前なんかより、昼メシに美味い魚でも焼いてやろう。
そればっかり考えて。
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お芋さん太郎
今日はこれで終了です!ありがとうございました!
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初公開日: 2025年06月14日
最終更新日: 2025年06月19日
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コメント
ハートの海賊団、旗揚げ組のSS。
出航して間もなくな時間軸。
スワロー島の風習捏造あり。