「えっ、こんなサプライズ初めて」
紗彩は明寧の思わぬ誘いに目を瞬かせた。年末年始の休みに、初詣へ行こうと誘われた紗彩は荷造りをしている真っただ中だ。そんな時、サプライズのお誘いがあったのである。誰だって驚くに決まっている。
対する明寧はしたり顔でこちらを見ている。悪戯が成功した顔――というよりは、計画的犯行が予定通りに実行されて満足しているという感じだった。
「さーや、どうせ出かけるじゃん?」
「そうだね」
「だったらさ、少し早く出かけても良いと思わない?」
「確かにそうだけど……早朝だよ?」
初日の出を飛行機の中で見よう、というだけあって飛行機の搭乗時間は相当早いだろう。数時間の為に飛行機に乗る。そして、その後別の飛行機へ。
想像するだけでも忙しそうだ。
「時間は大丈夫。ちゃんと計算してあるから」
「さすが明寧。じゃあ、初日の出を機内で見たら、また別の飛行機に乗って出雲へ――って感じ?」
「うん」
「どうりで飛行機を推すと思った!」
新幹線でゆっくりと行くことだってできるようになったのに、わざわざ飛行機を選ぶなんて。 明寧のこだわりには何かあると思っていたが、それがこんな事だとは。
明寧は用意しておいたらしいパンフレットをどこからか取り出し、プレゼンを始めた。フライトは五時から七時半くらいを想定、チェックインは四時からで、解散は八時頃になる見込みらしい。
そして、紗彩達が元々乗ろうと考えていた飛行機は十時少し前の回。確かに、アクシデントが何も発生しなければ、問題なく乗り換え――と言って良いのか怪しいが――できるタイミングである。
元々元旦に移動して、翌日の朝に初詣をしようという話になっていた。早朝の移動で大変ではあるが、最初の移動がタイトなスケジュールになるだけで、大きな問題はなさそうだった。
「それにしても、初日の出フライトかぁ……」
「だって、さーや。こういうの好きでしょ?」
「うん。だーい好き」
紗彩は正直に言った。浩和と付き合っていた頃も、彼からサプライズをされるのを楽しみにしていた。彼のサプライズと明寧からのサプライズを比較するのはあり得ないし、意味のないものであると分かっているが、二人とも喜ばせようとしてくれるのは確かだった。
そういう点で言えば似ているが、サプライズの内容は全く方向性が違う。浩和は「こういうの好きだろ?」が全面に押し出されたサプライズで、明寧の方は「想定外の事があるって楽しいでしょ?」という悪戯心に近い――しかし計画性の高いサプライズだ。
大切にされているという事実を大切に抱きしめ、紗彩は笑った。
「明寧は神社とかって詳しかったっけ?」
「ううん。神社とお寺が違うってことくらいのレベル」
「それはなんかすごいね」
紗彩は明寧に出雲大社に初詣へ行こうと誘った理由を、今すぐ明かしたくなった。だが、まだその時ではない。紗彩はそっと視線を手元へ落とし、荷造りを再開する。
明寧の視線が自分に向けられたままであるのを自覚しながら、淡々と着替えをキャリーバッグへと詰め込んだ。
「あ、分かった」
「え?」
「出雲大社、選んだ理由があるんだ」
「あ、うん。そうなの。でも今は秘密」
せっかくだから、現物を目の前にしてうんちくを語りたい。そして、明寧が照れくさそうに笑う姿が見たい。何もかも紗彩の自己満足だが、自分がしたいし、相手も多分嫌な気持ちにはならないのだから良いのだ。
紗彩は明寧の方を見てしまったら、すぐにでも話をしてしまいそうで、半ば意地のような感じで荷造りに意識を向ける。
「秘密、かぁ……教えてくれるの、楽しみにしてるよ」
「うん。まずは明後日にちゃんと空港に辿り着けるように準備しなきゃね」
紗彩は近くに置いてあったお泊りセットを手に取った。
「まあ、私はもう終わってるんだけどね」
「だよねぇ……だって、ずっと私の身支度を見てるんだもん」
「ははは、何もしていなかったら今頃大慌てだよ」
明寧は紗彩の頭に軽く口づけを落としてすっと背を向けた
「お風呂の用意してくるから、早く荷造りしちゃってよね」
「あ、ありがと!」
「なぁに、私の方が一足先に連休入ったんだから当然だよ。ほら、頑張って」
「はーい」
ひらひらと揺れる手を見送り、紗彩は荷造りに集中する。可愛い格好でいたいし、でも荷物は少なめにしたい。
「でも、初日の出フライトかぁ……太陽が近いって事だよね? どんな感じなんだろう。楽しみ」
まだ見ぬご来光を想像して遠くを見つめる。特別で、初めての体験。これからも明寧と積み重ねていく事ができるのだろう。
紗彩は口元をほころばせると、近くにあったブランケットを掴み、隙間を埋めるかのように突っ込んだ。
紗彩、明寧のお話
初日の出フライトからの出雲大社に初詣のプラン