<企画概要>
・30分の間に即興で、「お題ガチャ~執筆」までして行こうかと思います!
・お題は、ランダムに「単語がちゃ」してくれるサイトを利用してます。
それでは、よ~い、どん!
<お題>
①ぐにゃぐにゃ
②キャンパス
<小説>
ぐにゃぐにゃさんの、背がまた伸びた。
千葉にあるキャンパスのロッカーを開けると、ぐにゃぐにゃさんは身じろぎして窮屈そうだ。
わたしは、ロッカーの中にある教科書やら衣服を引っ張り出して、
少しでも中を広くしようとする。
しかしそれだけでは可哀そうなほどに、
ぐにゃぐにゃさんの背は高くなってきている。
どうして、ぐにゃぐにゃさんをロッカーで飼うことになったのか、説明は難しい。
その頃のわたしは、同じ研究室の仲間と、
深夜のキャンパスに忍び込んで、宴会を開くという遊びに嵌まっていた。
どうやらわたしは酔っぱらうと収集癖があるのだが、
トイレに行くついでに、拾った小枝や石や男子のパンツなどをロッカーに押し込むようなのだ。
いつものように、キャンパスで宴会をして夜を明かした後、
実験で使う白衣を取りに行くと、わたしのロッカーにがぐにゃぐにゃさんがいた。
ぐにゃぐにゃさんという名前は、わたしがつけたものだ。
丸い目玉が二つに、細くて長い胴体。その胴体を起立させて、ぐにゃぐにゃと動いている。
鳴き声を聞いたことはない。
でもなんだか、わたしはぐにゃぐにゃさんの声を知っているような気もする。
「及川はさ、どこのインターンも行ってないの?」
同じ研究室の矢野くんが、休み時間に聞いてきた。
来年には、わたしたちも就職活動をする学年だ。
「べつにー。やりたいことないし。どっかしらは受かるでしょ」
「いいな、その余裕!」
そういう矢野くんは、大手メーカーのインターンに受かっていることを知っている。
すごいとも思うけど、羨ましいとも思っていない。
そもそも就職活動なんて、したくないし。
「及川! 今日、飲まねえ?」
いつもの飲み会のメンバーがわたしに声を掛けてくる。
「もちろん」
わたしに、頑張るだとか、エリートとか、そういう言葉は似合わないのだ。
ついにぐにゃぐにゃさんの頭が、ロッカーの天井に着いた。
ぐにゃぐにゃさんは、文句も言わずに、ロッカーの中で蠢いている。
そもそも、一か月くらいこのロッカーに入れているけれど、
餌とかは要らないのかと、今更気になってくる。
水だってあげたことはない。
ロッカーの前で腕を組み、悩んだ後、わたしはついにロッカーからぐにゃぐにゃさんを連れ出した。
ぐにゃぐにゃさんを植える場所には悩んだけど、
結局キャンパスのグラウンドに埋めることにした。
久しぶりの陽の下に晒されて、
喜んでいるのか、怒っているのか、ぐにゃぐにゃさんの心情は読めない。
心配になって、毎日ぐにゃぐにゃさんをグラウンドに見に行くと、
順調に少しずつ背が伸びているように感じる。
ロッカーで飼うことなんてせずに、早く外に返してあげればよかったのだ。
窮屈な場所で過ごさせてしまって、可哀想なことをしたのだ。
その夜、目を覚ますと、わたしはグラウンドに三角座りをしていた。
目を擦って、そういえば今日もキャンパスでたらふく飲んだのだと気が付いた。
お酒を覚ますために、散歩に出て、そのまま眠りについてしまったようだ。
隣を見ると、ぐにゃぐにゃさんがこちらを見ながら身体を捩じらせていた。
またさらに大きくなった気がする。
前は小枝くらいの細さだったのに、今は小さな蛇のようになっていた。
「ぐにゃぐにゃさんって、大人になったらどんな見た目になるんだろう・・・」
そう呟いたとき、
全身に電気が走ったみたいな感覚がして、脳にある夜の映像が浮かんだ。
——大人になりたくないんだ。
それは、ぐにゃぐにゃさんを拾った日、
夜の道でぐにゃぐにゃさんと出会った時のことだった。
ぐにゃぐにゃさんは、たしかにわたしに「大人になりたくない」って言ったのだ。
ーーわたしが隠してあげるよ。
わたしはそう言って、ぐにゃぐにゃさんをロッカーに隠した。
世界からぐにゃぐにゃさんを隠すために。
ぐにゃぐにゃさんが大人にならなくていいように。
わたしは、ぐにゃぐにゃさんに謝ろうとした。
ぐにゃぐにゃさんは、外になんて出たくなかったんだ!
でも、隣を見下ろすと、地面からすぽんと抜けたぐにゃぐにゃさんがいた。
その胴体には、小さな羽が生えていて、
<30分経過>間に合わず・・・!!
<延長戦 10分>
ぐにゃぐにゃさんは、
地面を蹴って、月の上る空を駆け上がっていく。
まるで小さな竜のように思ったけれど、
どちらかと言えば、蛇の方が似ているのかもしれない。
わたしの目の高さまで飛んできた、
ぐにゃぐにゃさんと、一瞬目が合ったように思った。
ーー隠してくれて、ありがとう。
そう、ぐにゃぐにゃさんの声が聞こえた。
ぐにゃぐにゃさんは、そのまま夜に消えていった。
ぐにゃぐにゃさんがいなくなって、
やけに寂しくなったロッカーの中を眺める。
「どうかしたの?」
矢野くんがわたしに声を掛ける。
わたしは首を振って、それから矢野くんに、インターンのことを少し聞いてみたりした。
ーー次は君の番だよ。
あの夜、ぐにゃぐにゃさんにそう言われた気がしたから。
<了>