<企画概要>
・30分の間に即興で、「お題ガチャ~執筆」までして行こうかと思います!
・お題は、ランダムに「単語がちゃ」してくれるサイトを利用してます。
それでは、よ~い、どん!
<お題>
①ドブネズミ
②アゲハ蝶
<小説>
俺たちの生まれた田舎はとにかくひどい。
子供がいなくて小学校は廃校になったばかりだし、
中学校に通うには、毎日バスで山を二つ越えないといけない。
高校になれば、隣の町で下宿をする。
実家の柱はシロアリに喰われっぱなして、
それを直そうともしない呑気な両親も両親だ。
貧乏なくせに、畑だけはバカでかくて、野菜の伸びと新鮮さだけが自慢できるような場所だ。
そんなお爺か、お婆か、大お爺か、大お婆かしかいないような田舎で、
同い歳のクラマが隣の家に住んでいるのは、俺の人生の一番の奇跡だ。
クラマは、そんな変な名前の癖に女だ。
でも、それをいじると、イノシシを撃退したことがあるという飛び蹴りを食らうことになる。
僕は小中学校で既に3回はくらっているし、
高校でそれなりに美人だと噂されたクラマに、男が寄り付かなくなったのも、
大勢人がいる食堂で、クラマをからかった男(きっとそいつはクラマが好きだったのだろう)を、
グーの手で股間に鉄拳を入れたのが原因だ。
正直、クラマのいいところは俺だけが知っていればいいと思っていた。
だから、常識が通じないクラマを俺は一度も咎めたことがなかった。
「あんたさ、”都会のネズミと田舎のネズミ”って知ってる?」
下宿までの帰り道、女友達だっていないクラマが俺に言った。
「なんだそれ」
と俺が尋ねると、クラマはこう説明した。
「都会のネズミは、命の危険ばかりだけど、高級レストランの美味しいご飯にありつける。田舎のネズミは、命の危険はないけれど、都会ほどの美味しいご飯は食べられない。あんたはどっちになりたい?」
「もちろん田舎のネズミ。死にたくないじゃん」
俺がそう返すとクラマは大きな溜息をついた。
クラマの大きな溜息というのは、肺いっぱいに空気を取り込んで、松明の火を吹き飛ばすくらいの吐息を空に吐くってことだ。
大きく空に吐き出される息を、僕も見上げた。
その時は、この会話に何かの意味があるなんて思っちゃいなかった。
高校二年生の冬が始まるの頃のことだった。
それから一年後、クラマが東京で就職するつもりだと言うことを、俺は知った。
同時に、どれだけいままで呑気に、クラマがいつまでも俺の隣にいると思っていたのかを知った。
俺は無意識に、クラマに話しかけなくなっていった。
クラマが嫌いだとすら思った。
俺は田舎に戻って、知り合いの林業を手伝う予定だった。
クラマの就職先が決まった時、クラマはわざわざ俺の下宿先までやってきた。
おめでとうだって素直に言えない俺は、とにかく皮肉な野郎で、クラマにこんな話をした。
「都会のアゲハ蝶と、田舎のアゲハ蝶の話をしってるか?」
「なにそれ」とクラマは訊いた。
「都会の蝶は、綺麗だっていろんな奴にもてはやされるけど、危ないやつに収集されて標本にされるかもしれない。田舎の蝶は、綺麗なんて言われることもない。有象無象に生きていくしかないけど、綺麗な水を啜って長く生きていける」
その頃のクラマは、綺麗さに昔より磨きが掛かっていて、外見では俺では手に届かないようなやつになっていた。
俺の想いを知らないクラマは、笑っていた。
次の月には、クラマは遠くの都会へ行ってしまった。
家の畑には、アゲハ蝶が何匹も飛んでいて、捕まえてやろうとも思うのに、俺にそういう勇気はない。
頭の中では、都会に向かうアゲハ蝶が、あの低くて下品で落ち着く声で笑っている。
(了)