「あ……しまったな……」
小さく聞こえた類の声に、ボクは振り向いた。
「どしたの?」
「あ、いや」
類は困ったように言って目を泳がせる。
「足りないものでもあった?」
ボクは重ねて聞いてみる。
類は明日から地方公演があり、今日は前乗りで現地入りする予定だった。これから一緒にお昼を食べて、そうしたら類はもう出発だ。今は荷物の確認をしているところで、手には最後に入れるつもりだったのだろう衣装がきれいに畳まれている。
「そういうわけではないけれど……」
類の口調は歯切れが悪い。迷うようなその表情は、ボクに何か遠慮しているような気がした。類はそんなに表情豊かな方じゃないけど、類とはけっこう長い付き合いだ。類の表情を読むのにはわりと自信がある。
「それってもしかして、ボクに手伝えること?」
カマをかけてみると、類は驚いたようにボクを見た。ビンゴだ。
「瑞希には敵わないな」
類は困ったように苦笑する。でもその表情はどことなくうれしそうに見えた。
「ふっふっふ。そうでしょうそうでしょう。で、ボクに何をして欲しいのかな?」
「実はこの衣装の肩周りが少しきつくなってしまってね……」
類は手に持っていた衣装を袋から取り出した。
「え、それって明日着るんだよね?しかも13時半には出るって言ってなかった?」
「そうだね」
「あと二時間しかないじゃん!」
「着られないわけじゃないから、無理にとは言わないよ」
「そんなのダメだよ!」
ボクが泊まりに来てたのに、衣装の調整もせずに送り出すなんて、そんなのは嫌だ。類は多少きつくても気にしないかもしれないけれど、ボクは類には些細なことに煩わされずにショーをして欲しい。
「昨日言ってくれてたら時間あったのに」
「ごめんよ。一昨日のリハで気づいたのだけど、その時はショーの演出の修正のことで頭がいっぱいだったんだ」
類は申し訳なさそうに言う。類は記憶力はとてもいいのに、一つのことに夢中になると他に意識が向かなくなるようなところがある。ボクはため息をついた。とにかく出発までに出来るところまでやるしかない。
「確認したいから、ちょっと着てみて」
「うん」
類は衣装を羽織った。見た目はきつそうに見えない。けれど。
「うーーん。ちょっと腕上げてみて」
ボクは肩のあたりに触ってみた。確かにみっちり詰まってる感がある。腕も上げづらそうだ。無理に動いて破らないようにだろう、腕を上げる動きがぎこちない。
――これは修正しないとダメだ。
ボクは顔には出さないように、買ってきたばかりのフライドポテトにさよならを告げた。これから食べようとしてたけど、類が出発するまで食べられそうにない。その頃には冷めてしまっているだろう。
「直すから脱いで。ついでに下に着てるのも脱いじゃって。サイズ測るから」