「おでかけー、おでかけー、まりさとおでかけー」
 魔理沙と手をつないだルーミアは上機嫌でふにゃふにゃ笑っている。
 ルーミアとよく遊んでやっている魔理沙だが、今日は人里で開かれている夜市に来ている。本来なら妖怪が人里に来ることはルール的にはあまりよろしくないのだが、ルーミアは羽や角などのいかにも妖怪っぽい外見的特徴がないタイプだし、なによりやってることが完全にそこら辺の子供と同じなのであまり警戒されていないのだ。
「まりさー、あっちの屋台おいしそうー」
「いちおう聞くが、それって屋台の焼きそばのこと言ってるんだよな? 店員じゃなくて」
「どっちもおいしそうー」
「焼きそばだけにしとけよ……おっちゃん焼きそばふたつ、あーやっぱりみっつくれ」
 ふたりは川に沿って設えられた長椅子に腰を下ろした。
 焼きそばを受け取ったルーミアは口の周りをソースまみれにしながら焼きそばふたつを瞬く間に平らげて満足顔。魔理沙が口元を拭いてやると、ルーミアは頭を撫でられた子猫みたいに目を細めてふにゃふにゃと笑った。
「焼きそばおいしいー」
「お前ほんとそのちっこい体のどこにそんなに詰まってるんだよ……」
「るーみゃ、今度はお肉食べたいなー」
「お前まだ食うつもりかよ……その調子だと屋台が全滅するぞ」
 呆れ顔で言いながら、魔理沙は屋台が集まっている方になんとなく視線を向ける。
 最近は魔法の森の自宅にこもりきりだったので気分転換に人里に出てきたのだが、こうやって初夏の涼しい夜風に体をさらしていると凝り固まった体がほぐれていくようだ。
 それに――。
 隣に視線をやる。
 長椅子にちょこんと腰掛けて両足をぷらぷらさせているルーミアののんきな顔を見ていると、不思議と気分が楽になる。
 長椅子でしばらく休んでから、ふたりは再び屋台に向かった。
 夜市はなかなかのにぎわいだ。焼きそばの屋台からは香ばしい香りがただよい、射的の屋台には大人も子供も並んでおり、必死に景品に狙いを定めている。そして、たくさんの屋台の間に老若男女が行き交っているのを見ていると、魔理沙は久しぶりに――。
 久しぶりに感じた、この感覚はなんだろう。
 懐かしさのような、寂しさのような、暖かさのような、輪郭のはっきりしない感情が胸の中にぼんやりと灯っているのを魔理沙は自覚するともなく感じていた。
 昔。
 そう、もう忘れてしまったくらい昔に、こんな気持ちになった気がする。
「たくさんひとがいるなー」
「お前、[[rb:つまみ食い > ・・・・・]]とかするなよ」
「わかってるよー」
 と、道を行き交う人々の中から、か細い泣き声が聞こえてきた。視線を向けると、屋台の端のほうで泣いている女の子がいた。迷子だろうか。
「ちょっと行ってくる。ここにいろよ。勝手にどっか行くんじゃないぞ」
「うんー」
 そう言い置いて、魔理沙は迷子の方へ駆けていった。その後ろ姿を、ルーミアはぼんやりと眺めていた。
 魔理沙が明るい調子で話しかけてやると、女の子は泣きながらも顔をあげて事情を話しているようだった。魔理沙はそれを、女の子の小さな手を握りながら聞いてあげている。ひと通り話を聞き終わった魔理沙は、大声で女の子の親に呼びかけ始めた。
 ややあって、女の子の母親らしき人がぜいぜい言いながら駆け寄ってきた。女の子は嬉しそうに母親に駆け寄り、母親は何度も魔理沙に頭を下げている。女の子は安心からか、泣きじゃくりながら母親の胸に顔をこすりつけていた。
 母娘に手を振りながら、魔理沙は上機嫌でもどってきた。
「よう、待たせたな。いやー、いいことしたあとは気分がいいぜ。……どしたんだルーミア?」
「んー……」
 いつもふにゃふにゃのんきにしているルーミアは、珍しくつまらなさそうな、すねているような顔をしている。
「なんだよー、待たせられてすねてるのか?」
「んー……わかんないー……んー……」
 ルーミアはなんだかむずかしそうな顔でむにゃむにゃ言っていたが、長椅子からぴょんと飛び降りて魔理沙の胸に飛び込んできた。
「わぁびっくりした! ど、どしたんだよほんとに……」
「んー、んー……」
 困惑する魔理沙をよそに、ルーミアは魔理沙の胸にぐりぐり顔を押し付けている。と思ったら、魔理沙の手を取ってあぐあぐあぐ。
「わーこらバカ! 腹減ってるならそこの牛串でも買ってやるから食うなって!」
「もがもがもが」
 とかやっているうちに夜市の時間も終わり、屋台からはひとつふたつと灯りが消えていく。その様子を、魔理沙はぼんやりと眺めていた。たまにはこういう空気に浸るのも悪くない。
「さて、そろそろ帰るか……おい、ルーミア?」
「すかぴー……」
 ルーミアはと言うと、これからは妖怪の本領である真夜中だというのに満腹になったせいか呑気に寝息を立てている。
「まったく、のんきなやつだなー……」
 言いつつも、魔理沙はルーミアの小さな身体を抱え上げておんぶしてやった。
「仕方ないから、今夜はうちに泊めてやるか。まあ、しょっちゅう泊まってるけどな……」
 そのままだといつものようにほうきでひとっ飛びというわけにも行かない。それに、なんとなく祭りの後の静けさを味わいたくて、魔理沙はルーミアを背負って歩き始めた。
 田んぼのあぜ道にさしかかると、カエルの鳴き声が聞こえてくる。いつもは人里と魔法の森の自宅との間は飛んでいるので、こうして人里の外れを歩くのは久しぶりだ。人気のないあぜ道の柔らかい土の感触が、足の裏に心地いい。
 それに、背中に背負ったルーミアの体温。なぜかひどく、懐かしい気分になる。
 なにか、大切なことを思い出しそうな、そんな気分。
 と、半分目を覚ましたらしいルーミアが、耳元でむにゃむにゃと寝言をもらした。
「むにゃ……まりさー……?」
「ああ、寝てていいぞ。今日はうちに泊めてやるから」
「んー……そーなのかー……」
 ルーミアはまだしばらく夢うつつでむにゃむにゃ言っていたが、顔を魔理沙の背中にぐりぐりしながらぽつりと言った。
「ねーまりさー……あの女の子……」
「あー? ああ、あの迷子の子か。あの子がどうした?」
「あの子といっしょにいた女のひと……」
「ああ、あの子のお母さんだな。迷子になったあの子をずっと探してたんだ」
「おかーさん……」
 まるでその言葉を生まれて初めて聞いたかのように、ルーミアはおうむ返しにその言葉を繰り返した。小さな手が、意識してかしないでか、魔理沙にぎゅっとしがみついた。
「にんげんはー、おかーさんから生まれるんだよねー……?」
「ああ、そうだぞ。まあたいていの生き物は母親から生まれるもんだが」
「まりさにもー、おかーさんいるのー……?」
 ぴたり、と魔理沙の歩みが止まった。が、すぐにふたたび歩き出した。
「あたりまえだろ。木の股から生まれてきたわけじゃないんだぞ」
「まりさのおかーさんて、どんなひとー……?」
 今度は歩みは止まらなかった。
「それはぷらいべーとな話題だからな。おいそれと話してやるわけにゃいかないな。もっと好感度を稼いだら話してやらんこともない」
「そーなのかー……むにゃむにゃ」
 またむにゃりはじめたルーミアを抱え直して、魔理沙は歩き始める。
「まりさがー……」
「んー?」
「まりさがー……るーみゃのおかーさんなのかー……」
 今度こそ、足が止まった。
「お前……」
 言いかけて背中を振り向いたときには、ルーミアはすでにまた呑気な寝息を立てていた。
 魔理沙はため息ひとつ、ずり落ちそうになった小さな体を抱え直してやる。
「……そんなわけ、ないだろ」
 月はもう高く、その淡い光を地上に投げかけている。
 二人の影が、長く伸びていた。
 
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そー七日SSを書いていきます。
初公開日: 2026年07月06日
最終更新日: 2026年07月07日
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そー七日SSを書いていきます。