「僕からも君にプレゼントがあるんだ」
類がそう言ったのは、そろそろ帰らないとって話になった時だった。
あれから類はぬいぐるみでも抱っこするようにボクを抱えて放してくれなくて、今もまだ片手をボクの体に回したまま、バッグの中をガサゴソしている。
「はい、これを君に」
類は後ろからボクをハグした体勢のまま、器用にボクの前に小ぶりな箱を差し出した。それは15センチ四方くらいの正方形の箱で、ピンク色のオーガンジーと水色のリボンでラッピングされていた。
「開けていい?」
「もちろん。先に言っておくけど、特に仕掛けはないよ」
その箱はお店で買ったままという雰囲気だったけれど、類のことだから何か仕掛けをしている可能性はある。ボクの警戒を察したのか、類の声は少し苦笑が混じりだった。
箱を開けると、中には色とりどりの何枚もの花びらを重ねた花が入っていた。どうやらその花びらの1枚1枚がチョコレートになっているらしい。
「すごい!キレイ!これって色ごとに味違ったりする?」
「そのようだね。六種類の味があると書かれていたから」
「ありがとう。食べるの楽しみだよ」
「うん」
プレゼントを渡し終わってもやっぱり類は同じ体勢のままで、そのまま沈黙が落ちる。何か言いたいことでもあるんだろうか。
「……類?」
「―― 実は僕もおまけのプレゼントがあるのだけど、受け取ってくれるかい?」
類の口調はなんだか歯切れが悪くて、迷うような間があった。
「もちろんだよ!なになに?」
体をねじ曲げて類の方を見ると、類はポケットから小さな紙袋を取り出した。簡易に包装されたそれは小さくて軽そうだった。
「たいしたものじゃないんだ」
躊躇いがちに差し出されたその袋を、ボクは受け取る。
「開けていい?」
「うん」
中にはやわらかいシフォン素材のシンプルなシュシュが入っていた。
「うわぁ!カワイイ!ありがとう」
「うん」
「類からシュシュをもらうなんて意外!・・・・・・それで、えっと。これって・・・」
ボクは類の顔をじっと見る。そのシュシュは類の髪によく似たきれいな紫色をしていた。
「ちょっと説明させてくれるかい?」
居心地悪そうにボクから目を逸らして、類は早口で言う。
「実は最初は違う色を買ったんだ。その、お店を見ていたら君の髪の色にとてもよく似たのがあったから、君に似合うかと思って」
「うん。それで?」
「後から気づいたのだけど、髪の色と同じ色だと目立たないから、あまり良くない選択だったんじゃないかと思って」
「うーん、ボクは使い方次第だと思うけど、そういう面もあるかもね。ボクはその色でもうれしいよ」
「ありがとう。それで、違う色の方がいいかと思ってまた見に行ったら、色違いでこの色があったから・・・・・・」
類はますます言いづらそうに言って、言葉を切る。
「それで、類の色のそのシュシュをボクにくれたの?」
類はなんだか気恥ずかしそうで、月明かりで良く見えないけれど、なんだか頬が赤く見える。ボクが照れるような臆面のない言葉をさらっと言うのに、珍しく恥ずかしそうな類がかわいく思えて、ボクはもっと照れた顔を見てみたくなってしまった。
「ボクに類の色のシュシュをつけて欲しくて?」
「・・・っ」
手を伸ばして類の耳たぶをつまむと、冬の夜なのにそこは明らかに熱を持っていた。
「るーい? 照れてる?」
居心地悪そうにしている類を見ていたらつい顔が笑ってしまって、類は気を取り直すように大きくため息をついた。
「――そうだよ。瑞希につけて欲しかったんだ」
まっすぐボクの目を見て、開き直ったようにきっぱり言われて、今度はボクの方が何を言ったらいいのかわからなくなってしまった。
「つけてもいいかい?」
「・・・・・・うん」
類はシュシュを手に取ってそれをつけようとして、タグの存在に気づいて一瞬動きを止めた。そして脇に置いていたカバンをごそごそ漁って、小ぶりなニッパーを取り出すと、タグを切った。
タグの糸を切るくらいハサミで十分だけど、ハサミは持っていなかったんだろう。そんなところが類らしくて、なんだかうれしくなってしまう。
帰宅して髪は下ろしてハーフアップにしていた。類がどうシュシュをつけようか迷っている気配を感じたけれど、ボクは類につけて欲しかったからそのままじっとしていた。だって、ボクは類の髪を結んだり整えてあげたりすることがあるけど、類にしてもらったことはない。こんな機会はレアだ。
類は少し考えてから、ハーフアップごとボクの髪を後ろでまとめ始めた。ゆっくりとていねいな手つきで髪を集める類の手が心地よくて、ボクは思わず目を閉じる。
「はい、できたよ」
穏やかな類の声に目を開ける。もっと時間がかかってもよかったのに、と少し惜しい気持ちで後ろに手をやると、ボクの髪はシュシュで低い位置にまとめられていた。
痛くないようにと思ったのかシュシュはゆるめだったし、結んでいる位置もだいぶ低い。きっとこれではすぐに抜け落ちてしまうだろう。でもそんなところがすごく類らしい気がして、器用なはずなのにそういうところは穴だらけなところに変に安心して、勝手に口元が緩んでしまう。
「ありがと。最初に買ってくれたピンクの方はどうするの?」
振り向いて聞いてみる。類は使わないだろうし、それなら両方貰えたらうれしい。類の色とボクの色と、2本使ったらカワイイし、幸せな気分になれそうだ。
「僕が使おうと思っているよ。試しに腕にはめてみたら、袖を留めるのにちょうど良さそうだったし、自宅で作業する時に使えそうだから」
類はそう答えると、次の言葉を躊躇うように視線を逸らした。
「それに、その・・・・・・君の色だしね」
「・・・っ」
視線を合わせて言われて、心臓が跳ねる。そうやって照れていても、肝心な言葉はちゃんと伝えてくるところが本当にずるいし、かなわないなぁと思ってしまう。でも、類の言葉にドキドキしてばかりなのはちょっと悔しい。
ボクはもぞもぞと体勢を変えて、類の正面に向き直った。類は相変わらずボクの体にゆるく両腕を回したまま、ボクを見ている。
「ねぇ、類」
「なんだい?」
「お揃いのプレゼントありがとう」
ボクがそう言うと、類は戸惑ったように瞬きした。たぶん類は、自分の色のシュシュをボクにプレゼントした認識はあっても、結果的にお揃いの、しかもお互いの色の色違いなどというベタなプレゼントをしてしまっている自覚はないだろう。
「・・・・・・どう・・・いたしまして?」
動揺したように視線をさ迷わせる類の顔に、ボクは満足した。
「ふっふっふ」
ご機嫌で類の顔を覗き込んだら、照れ隠しのように引き寄せられて、抱きしめられてしまった。
今がせめて三時間くらい前だったら、もっと一緒にいられるのに。
そう思いながら、ボクは類の背中に腕を回した。
<FIN>