最初は単なる野次馬根性だった。
皇天馬が出てたドラマでゲスト出演してたハンサム刑事の俳優が暴力動画で炎上したって聞いて、「あんなカッコいい人だったのにー」とがっかりしたのをよく覚えている。
友達も「やってる派」と「捏造派」で分かれて騒いでいたところ、所属劇団で本人が配信するからって興味本位で見た。
『――MANKAIカンパニーの摂津万里です』
画面の向こうの彼は、ドラマで見た時みたいなキラキラした気障な雰囲気はなく、真剣な顔をしてこちらを真っ直ぐ見ていた。
『でも、これは決して謝罪する為の配信じゃないってことも言っておきたい』
「え? 謝罪配信じゃないの?」
思わず呟いた。じゃあ何の為の配信なんだろ?捏造の証拠を晒すとか?なんか必死で可哀相……まあ本人の役者人生掛かってるしなー、そうしたくなるのもしょうがないか。
なんて思ってたら、画面の向こうで彼が言った。
『今日は“摂津万里”っていう人間について知ってほしくて、配信という形をとることになった。どうか俺の人生の今までと、これからについて聞いてほしい』
「んん?」
よく意味が分からなくて、私はもう一度画面の向こうの摂津万里を見つめる。誤解を解く為に人生語られてもなー……と思った私の目の前で、摂津万里は大きく息を吸い込んだ。
『マイポートレイトーー摂津万里』
そこからの彼は……あまりに美しかった。
私では親友にすら言えないようなことを、不特定多数の、ともすれば自分に敵意さえ向けている人たちの前で、生身の気持ちを――ううん、あれは魂と呼んでいいものを――曝け出して、吐き出して、息をすることさえ辛そうに、でも焼き切れそうなほど輝いていて……私は呼吸も瞬きも忘れてただただ摂津万里の魂を見つめ続けた。
『空っぽだった俺の中に、仲間たちの芝居が息づいたみたいに、誰かの人生を変えちまうくらいの芝居がしたい』
「――!」
その瞬間、摂津万里という存在が、私の空っぽな心の中に入ってきた。
周りに流され、不幸な誰かを笑うことで今の自分はマシなんだ、幸せなんだって無理やり自分を納得させている空っぽでダサい自分の真ん中で、その存在は輝き始めた。
『俺は芝居がしたい。この場所で、ずっと、今までも、これからも――!』
その魂の叫びに、私は気付いたら嗚咽を漏らし泣いていた。
画面の向こうで私と同じように嗚咽で声を詰まらせた摂津万里は、涙を浮かべながら苦笑いをした。
『はは、やっぱ俺だっせぇ……』
「そんなことない! 最高にカッコいいよ……!」
コメントに打ち込むことすらできず、伝わらない気持ちを画面越しに呟く。
『これが今の俺の全部っす……ありがとうございました』
そう言って深々と頭を下げる彼。配信の向こう側で恐らく同じ劇団の仲間たちが何かを言うのが聞こえ、そのまま配信が切れた。
「うう……っ!」
私は暗くなった画面の前で、いつまでも泣き続けた。泣きながら、二つのことを決意する。
一つは、摂津万里くんに手紙を書くこと。あなたのこの配信で、人生が変わった人間が一人はいるってことを、どうしても彼に伝えたっかった。
そして、もう一つは彼がずっといたいと願ったMANKAIカンパニーという劇団を観ること。それはきっと、これからの私の人生を大きく変えてくれるものになるだろうから……。
そうして、多分摂津万里に心揺さぶられたその他大勢の内の一人である私は、万里くんの、秋組の、そしてMANKAIカンパニーの大ファンになった。
配信や円盤で見返せる過去作は全部観たし、新作公演では全通も頑張った。私生活がどんなに大変でも、万里くんの姿を一目見るだけで元気になれたし、舞台の一瞬を見守るだけで天にも昇る気持ちになれた。
最初の手紙を出してから、ファンレターもなるべく書くようにした。文章を書くのはあまり得意じゃなかったけど、少しでもここに万里くんの芝居を観て人生が変わった人間がいるってことを、それだけ万里くんの芝居はすごいんだよってことを伝えたくて、何通も手紙を出した。
あれから幾分時が経ち――ある日、万里くんから返事が来た。
「え、え……ええっ?!」
私は二度見どころか百度見して、それが本物か確かめた。サインも本物っぽいし、中の字も時々見かける直筆の字と同じだから、間違いなく本物だ。え、嘘でしょ……そんな奇跡、ある?
比喩ではなく震えながら恐ろしく慎重に封を切り、紙に息がかからないように変な態勢になりながら手紙を読んだ。
その手紙は、私が最初に出したあのポートレイト配信の手紙への返事で、その中で私が手紙に書いたこれまでの人生について、共感してくれたり慰めてくれたり、本当に真剣に読んでくれたのが伝わる文章で返事が綴られていた。
私は溢れる涙が手紙に掛からないように更に変な態勢になりながら必死で読み進め、そして最後に記された一言を見て飛び上がった。
『もうすぐ俺の人生を変えた舞台が新たに幕を開けるから、絶対見届けてくれ』
――それは、つい先日情報解禁された『ピカレスク・リターンズ』のことに違いない。
私の人生で最大の後悔は万里くんの初舞台『なんて素敵にピカレスク』を生で観れなかったことだから、これは本当に嬉しい。
そして、その手紙を読んですぐ後で万里くんのブログが公開された。
そのブログには、あのポートレイト配信にも、返ってきた手紙にも負けない、万里くんの魂が込められていた。
『絶対後悔させねぇから、物語の続きを一緒に生きに来てくれ』
私はそこでまた号泣してしまった。
「うん、絶対に一緒に生きるよ……!」
彼が世界で一番輝く場所で、痛いくらいの熱を全身で受け止めて、また彼に伝えるんだ。
万里くんの芝居は、私の人生を変えてくれた――って。【終】
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【万里のブログを読んだモブ】痛いくらいの熱が
初公開日: 2024年08月17日
最終更新日: 2024年08月17日
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15幕開幕直前の万里のブログを読んだえすり世界線のオタクの話をさくっと書けるとこまで