ダークマイトとの戦いの直後、A組のメンバーとアンナは軽く自己紹介を交わし、今後の事について意見を交換し合った。仮にも財閥の令嬢とは言え、彼等に滅ぼされた当主である父を失った家の一人娘。しかも、今いる日本はインフラが壊滅的な状態だ。帰国するにしたってすぐにとはいかないだろう。
「一先ず、雄英の避難民キャンプに案内します。アンナさんの個性もまだ様子を見た方がいいと思いますし、ジュリオさんの怪我も・・・」
「そうですね・・・。私もその方がいいと思います。大変な所申し訳ありませんが、お邪魔させて頂いてもよろしいでしょうか?」
アンナの言葉にA組の面々はそれぞれらしい「OK」を返した。爆豪は反応こそしないものの拒否する気も無いようで、くるりと踵を返して先導するように先を歩いて行く。その意図を汲み取った切島がサムズアップを返した。
アンナはこの戦いの間殆ど自我が無かったため全てを知っている訳ではないが、少なからず手傷を負い、そして間違いなくダークマイトへ立ち向かっていった彼等の姿を僅かでも見ていた。だからこそ、彼等もまた自分の為に尽力してくれた事は想像に難くない。今だって。そんな彼らの気遣いや優しさに涙が零れそうになりながらも、歓喜の表情で後ろのジュリオを振り返る。
「それじゃあジュリオ、一先ず今は彼等の言葉に甘えて――」
だがその言葉は途中で途切れた。ジュリオの身体が音もなく横に大きく傾いていたからだ。——意識が無い。遅れて異変に気付いた出久らにも分かる程だ。最も傍に居たアンナにはそれが一瞬で分かった。
アンナの身体が反射的に動き、細腕を倒れようとする彼の身体と地面との間に滑り込ませる。無論、非力な彼女では筋肉質で且つ重い仕込み銃入りの義手がある彼の身体を支え切る事は出来ない。そのまま重みに腕が潰されそうになるのを阻止したのは、氷の柱を形成した轟だった。彼女の腕というよりジュリオの身体を支える形に形成した為、瞬間的にかかったアンナの腕の重みは直ぐに軽くなった。
「ジュリオ!」
「ジュリオさん!」
出久が慌てた様子で二人の元に駆け寄る。「何本か骨がイッている」事を本人から聞いているから猶更だ。それを知らないアンナも既に涙目で、腕の中で力無くぐったりと横たわるジュリオを揺すっている。
「あまり揺するな。多分骨がやられてる」
それに対して冷静に指摘をし、止めたのもまた轟だった。アンナは揺すっていた手を止め、ジュリオの身体から離す。その指先は震えていた。ジュリオが痛がって眉間に皺を寄せたのをきちんと見てしまったからだ。
「障子くん、あまり動かさないように運べそうか?」
「ああ」
飯田の質問に障子は短く答え、ジュリオを上手く抱え上げられるように腕を増やした。その様を震えながら見守る事しか出来ない無力感に、アンナはまた涙を零す。
「大丈夫です。雄英には医療設備もありますし、リカバリーガール・・・治癒の個性持ちもいます。ちゃんと助かりますよ」
「デクさん・・・」
「・・・貴女が今感じているそれ、きっとついさっきまでのジュリオさんと同じ気持ちですよ」
「え・・・?」
出久の意味深な台詞に思わず聞き返すが、彼はそれ以上の事は言わなかった。ここから先はジュリオ本人に聞け、と。その代わりに、人を安心させるような大人びた笑みを浮かべて、彼は言葉を続けた。
「貴女にしか出来ない救け方があるっていう話です。だから、落ち込まないで」
言葉を終えた出久はすぐ、障子の後を追って駆けて行った。エスコートをしないのはクソナードなりのジュリオへの配慮らしい。それを知っているお茶子が代わりにアンナの傍に跪き、胸の前で固く握られたままの手を取った。行こう、と促すように頷くお茶子の笑顔にアンナも頷き返し、恐怖に竦む足に鞭を打った。
ーーーーーーーーーー
出久達から連絡を受けた雄英側の判断は彼等と同じだったようで、雄英避難民キャンプは特に抵抗なく彼等を受け入れた。しかし、今日はリカバリーガールからドクターストップを食らってしまい、治療は出来ないとの事だ。
「あのお嬢さんには言い辛いんだけどね、個性の使い過ぎ。活性化してたとは言え苦痛が伴う個性行使を無限に湧く因子が完全に尽きるまで行ったんじゃ、体力も尽きて当然だよ。幸い致命傷じゃないから、一旦休ませて少しずつ治すのがベストさね」
プロの医者、もとい治癒個性の使い手にそう言われてはどうしようもない。ただ重傷者である事に変わりはないので、暫くリカバリーガールがすぐに対応できる部屋で休養させる、という結論になった。アンナは雄英生達の勧めで、その部屋に留まってジュリオの看病をしている。
散々動き回って出力されていたアドレナリンはとうに尽きたようで、痛みを訴えだした身体の悲鳴に絶えず呻いたり歯ぎしりしたりしている。熱も酷く、髪紐が切れて下ろしたままになった髪は汗でしっとりと湿っていた。時間経過的に鎮痛剤と解熱剤がもう少しで効いて来る筈だと自分に言い聞かせながら、少しでも楽になれるようにと額の汗を拭い続ける。
そうして汗と格闘し続ける事1時間と少し。ようやっと薬が効いて来たようで寝息が穏やかになりつつある事に、アンナは一人安堵する。ふうと大きく溜息をつくと、それを見計らったかのようにドアが控えめにノックされた。
「は、はい」
ジュリオを起こさないように、アンナは小声で返事をする。防音はしっかりなされているが耳郎にはしっかり聞こえていたようで、お茶子と葉隠と芦戸が入って来た。残りもいるようだが、扉の外から様子を窺っている。
「お邪魔してごめんなさい。これ、今日のご飯。ジュリオさんはダメだって言われてるけど、アンナさんも食べへんとしんどいから」
「ありがとう、ございます」
「敬語とかいいよ、あたし達のが年下だもん」
「・・・ありがとう」
気遣いに笑顔を返すと、彼女らは心の底から嬉しそうに笑った(葉隠は全然見えないが)。扉の外の3人も安心したように息をついている。彼女らはA組の男性陣に頼まれて様子を見に来たのだが、皆で来たのは同性のアンナを心配してだ。特に、誰かの為にボロボロになってしまう男の子を好きになったお茶子からすると、大分結構心配だった。まあ多少無理にでも笑顔は見せてくれたから、一先ずは好転したらしいと判断して皆安心していた。
「ジュリオさん、どんな感じ?」
「一先ず、処方して頂いた薬が効いたみたいで、少し楽になったと思うわ」
「良かった~。デク君が結構心配してたから、結構引っ張られちゃって」
「デクさん・・・後で彼にも言わなきゃなんだけど、皆さん、私を救ってくれてありがとうございました」
「トーゼン!余計なお世話はヒーローの本質だよ!ま、緑谷の受け売りだけどねー」
芦戸がサムズアップと共に繰り出した台詞に、アンナはまた微笑みを浮かべた。しかしその表情はすぐ少し曇った物になり、視線がジュリオの方へ向けられる。来た時よりは大分よく見えるが、まだ苦しそうに早い呼吸を繰り返し、鍛えられた胸が大きく上下していた。
「本当に、感謝しているの。皆さんに力を貸して貰えなかったら、私この人に一生消えない傷をつけるところだったわ」
誰かに使い潰されたり、傷つけ続けたりするよりはマシと信じて選んだ最期。恐怖が無かったと言えばそれは嘘になってしまうけれども、でも後悔したのはあの時離れて行こうとする彼の背中にしがみついた時だった。ボロボロになりながら自分の元へ辿り着いて来た彼が為したかったのは自分を救う事だと気付いてから、呆気なく命を投げ出そうとした事を本気で申し訳なく思った。
「だから・・・ありがとう。私、この恩は一生忘れないわ」
改めて告げられた礼の言葉に、芦戸は照れくさそうに頬を掻く。緑谷に言った方がいいよ、というのは精一杯の照れ隠しだというのはほぼ初対面のアンナにも伝わって、何だかおかしくなって笑いが込み上げてきた。そのリアクションにも最初照れていた芦戸だったが、釣られて笑いだした他の女子達に更に釣られ、小声で笑った。
「・・・う」
だが、直後聞こえて来た低い唸り声に場が一斉に静まり返った。やばい、起こしたかもと女子達は冷や汗をだらだらとかく。とはいえ今更慌てて部屋を出たんでは本末転倒と黙っているしかない。戦場での判断はできてもこういう時の対応には慣れない彼女達が目線での相談を始めるより先に、ジュリオの目がゆるりと開いた。
「ジュリオ・・・?」
同じく起こしたかもしれない、と焦っていたアンナが遠慮がちに呼び掛ける。正直な所安心したかったから起きて欲しくはあったが、今はどちらかというと休んで欲しい気持ちの方が強い。だから起こす事は完全に不本意で滅茶苦茶申し訳なかった。だがジュリオはアンナの声に反応しない。小さく細い声で、何らかの短い言葉を紡いでいる。
「・・・ぉ・・・さま・・・」
「な、何?ジュリオ・・・」
「お嬢、様・・・」
ぴくりと、点滴が刺さったままの腕が動く。腕はアンナの方であって、しかし”彼女”を目指してはない方に伸ばされる。それすらもボロボロの身体にはかなり堪えるらしく、呼吸が荒くなっていく。
「行くな・・・連れて、行くな・・・」
「・・・!」
「お嬢様・・・お嬢、様・・・!」
義眼ではない、涙を零している方の瞳は確かにアンナの方を見ている。だが、彼は今そこにいる”彼女”を見ていない。囚われている。あの小物な女幹部などどこにもいないというのに、世界の全てを失ったあの日の夢に。あの日の事をこの場でただ一人共有する彼女だけが、僅かな言葉の中でその事実に行きついていた。
ふらふらと、夢の中で届かない場所にいる”彼女”を求め、まだ生身の腕が彷徨う。救えなかった悔しさと、救う為の力を失った無力感。そして、殺したくないのに殺さなければならないという葛藤。それが滲み出た雫が溢れて止まらなかった。片方からしか出ない分、それは絶える事を知らないようだとアンナには思えた。
――貴女にしか出来ない救け方があるっていう話です。
出久の言葉が不意に脳裏を過った。ゴリーニファミリーなどいなければこうはならなかったとしても、ジュリオを苦痛の海に突き落としたのは他でもない自分。——でも。否、だからこそ。その自分にしか出来ない救い方がある。自分が突き落としたのなら、掬い上げるのもまた自分しかいない。
空を彷徨っていた手を、アンナの細いそれが柔く握った。そのままそれを優しく自分の胸元へ導き、指先に己の心臓を当てる。夢と現の狭間にいる彼に、どのくらい届いてくれるかなんてわからない。それでも、どうしても伝えたかった。
「大丈夫よ、ジュリオ。私、貴方とヒーローの皆のお陰でここにいるわ。こうして生きてる」
「お嬢・・・」
「手を伸ばしてくれてありがとう。私、ずっと貴方の傍に居るわ。だから今は、安心して眠って」
「・・・アン、ナ」
ジュリオの瞳を覆っていた暗い色が和らぎ、静かに閉じられる。腕からは急速に力が失われカクンと肘が落ちたが、アンナは変わらずその手を握り続けた。動かなくなったからか呼吸も安定し始め、先程までより少しだけ穏やかな寝息だけが部屋の中でしていた。
「愛だ!!!」
これら一連の流れを見ていた芦戸が、超絶小声且つどこかで聞いたような感じに叫んだ。当然、二度の失敗を許容できない他の女子に揃って「シー」のハンドサインを食らう。どうも咄嗟に言ってしまったらしい芦戸は慌てて口を塞ぐが、アンナはふわりと微笑んで大丈夫だ、と告げた。
「さっきのも起きた訳じゃないもの。暫く起きないわ」
「よ、よかった~・・・」
「それより、さっきのジュリオには黙っててね?きっと覚えてないだろうけど、知ったら恥ずかしがって逃げちゃうわ」
そうアンナは妖艶に、しかし子供らしい笑みを浮かべながら、「シー」のハンドサインを返す。逃がす気なんてこれっぽっちもない、という気迫を含んだそれに、女子達は示し合わせるまでもなくこくこくと頷いた。クールな蛙吹を除いた全員が、これが大人の恋愛という奴か、とどぎまぎキャッキャしているのを微笑ましく思いながら、アンナはすっかり夢の中へ落ちていった愛しい人の頬を撫でた。
本日ここまでです!
一旦休憩挟んで文庫ジェネレータ?だっけ?に纏めてからTwitterに上げ直します。
あと今週末にはPixivにも掲載予定です。
お付き合い頂きましてありがとうございました!
追記:リクエスト、感想などマシュマロの方に下さいますと大変喜びます。
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映画後ジュリアンジュリ妄想①
初公開日: 2024年08月12日
最終更新日: 2024年08月13日
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コメント
今日はアンジュリ書くわよ!!!!
第一次連休最後に書きまくるわよ!!!!
アンジュリDom/Subバース③
結局全然出来てないアフター第二弾!開始がだいぶ遅くなったので、日付変わる手前までは出来たらいいな。
ゆっくりゆきねこ
アンジュリDom/Subバース②
女攻めオンリーアフター第一弾!本日は予告通りアンジュリDom/Subユニバースを書きます!
ゆっくりゆきねこ