――オリンピック。それは、四年に一度の世界的イベントだ。普段はスポーツにあまり興味のない祥順ですら、この熱狂に巻き込まれる。
会社の人間がこの期間にその話題で盛り上がるから、ある程度は把握しておかないといけないという義務感が半分。残りは、こういう時でないとなかなか観戦する機会のない競技が見られるからという好奇心である。
今年はパリだ。時差が大きいせいで全てリアタイで参加する、というは厳しいが、それでも見たい競技はある。それは馬術であった。サッカーなどはルールがあって、見ているだけでも忙しい。
それに、普段からあちこちで試合があるし、その放送もある観れるから希少感がない。
それに比べて、馬術は観ているだけで楽しい。軽やかに駆ける馬を見るだけでも良い。騎手と馬が一体となって動くさまは、気持ちが良いものだからだ。そういえば、祥順はドッグスポーツを観るのも好きだ。犬を飼ったりはしていないから、こちらも観ているだけだが。
もしかしたら、ルールなどを細かく確認することがなくても何も考えずに観る事ができる競技が好きなのかもしれなかった。
だが、浩和は違うらしい。一緒に生活するようになって知ったが、体操競技が好きらしい。確かに、祥順も嫌いではない。これもあまりルールを調べずとも何となく良し悪しが分かるからだ。
馬術は日本時間で夕方から夜がほとんどで、体操は夕方もあるが、深夜帯がほとんどだ。そして奇跡的に、時間が被っていない。素晴らしい。
最悪それぞれ観戦すれば良いと思っているが、せっかくなのだ。一緒に恋人と楽しみたいと思うのは、祥順の中では当然の流れだった。
しかし、である。祥順の目の前には、恋人である浩和の他に、千誠と寛茂だけではなく紗彩と明寧までいる。それぞれ思い思いに酒のグラスまで持って、観戦の準備万端である。
「全員集合、だな……」
「あ。カジくんはタキくんと二人きりで観戦したかった……と」
千誠がにやにやと意地悪い笑みを浮かべてハイボールを飲んでいる。彼は酒のつまみを大量に持参――それを全部寛茂に持たせていたが、彼は千誠にこき使われて幸せそうにしていた――して、さも訪問する予定があったかのように振る舞っていた。もちろん突然の訪問だ。
「当たり前だろう?」
「ありがとう」
「夏で暑いんだから、暑苦しい真似すんなよなぁ」
祥順がむっとした表情を作って当然だと言えば、すぐ横にいた浩和の唇が頬に軽く触れる。さらっといちゃついた二人を見て、千誠がけっと悪態を吐く。
「まあまあ、良いじゃない。邪魔してるのは私たちなんだもの」
「紗彩……そう言うなら、来なきゃ良かっただろ」
「え? だって、この方がおもし、楽しそうだもん」
紗彩は「もうすぐそっちに行くね」と浩和に連絡を寄越した数十分後に白ワインを手に現れた。その隣にはもちろん明寧が。ドアを開けた祥順は、中途半端な笑みを浮かべながらひんやりとしている白ワイン――わざわざ冷やしてから持参したらしい――を受け取った。
明寧の方はと言えば、きっと甘い系のつまみがないだろうからと言ってチョコレートなどを持ってきていた。この暑い中にも関わらず、溶けていなかったそれに驚くと、チョコレートの隣にはボックスサイズのアイスクリームが入っていた。やりすぎだろ、と思ったが白ワインを持っていない方の手でその大きな保冷バッグを受け取ったのだった。
本当は浩和と二人きりで、のんびりと観戦したかったのに。にぎやかな雰囲気の部屋に、ため息を吐いてしまいそうになる。
「ねえ、もう馬術始まっちゃうよ!」
「あ! 観る!」
紗彩の声に我に返った祥順は、慌てて画面へと視線を向けるのだった。
(後でこれが土曜日の話だと分かるように前提条件書いておいてください)
周囲の状況など気にならないくらい馬術に集中していた祥順は、いつの間にか千誠がキッチンを借りて早めの夕食を作り始めていたのにも気付かなかった。
千誠は馬術にはまったく興味がなかったらしい。観終わる頃には、テーブルにたくさんの料理が並んでいた。冷蔵庫の中身がどんな状態になっているか、知りたくないなと祥順はちょっとだけ気を遠くしたくらいである。
浩和がそのあたりは監視していただろうし、きっと大丈夫なはずだ。そう思う事で気を取り直す。
「今日はフランス料理だぞ!」
「……何でも作れるなぁ」
突然乱入してきたのは困ったが、彼の調理技術はすごい。和菓子屋の息子で、修行もしていた時期があったらしいのだから、元々の能力は高いのだろう。いわゆる素養がある、という事だ。
「あっ! これ、この前俺が試食させてもらったやつ!」
「おい、それは言うなって」
祥順が感心していると、寛茂が自慢げな声を上げた。焦る千誠の様子から、祥順と浩和の家に乱入してフランス料理を振る舞う計画を立てていた――という事だろうか。そういえば、寛茂に渡す為の試作品を食べさせられた事があった。
彼は一見、誰の事も考えずに行動しているように見えるが、人一倍に外面を気にする男である。祥順が千誠の事を「理想の上司」だとか「完璧な男」だとか思っていたくらいである。オフでは自由に振る舞うとか言っている割に、そういうところがいじらしい。
彼の焦る姿を見てすべてを覚った祥順は、完全に機嫌を持ち直すのだった。
そうしている内に18時になり、体操競技の時間になった。男子の予選である。体格の良い男たちが並んでいるのを見ながら千誠の料理を口に運ぶ。レモンが添えられた鮭のムニエルは、ほどよい酸味が最高にマッチしている。
筋肉を讃えよ
祥順たち3カップルが集まってオリンピックを観戦している
筋肉の話題になり、仕上がっている度合いを比べ始める男性陣
そんな彼らをあきれながら見守る女性陣
オリンピックのスケジュールを確認しながら書いてるので時々動きが止まります!