天候など関係ない。俺たちは雷雨の中、泥だらけになりながら魔獣と戦っている。聖女の神聖魔法や雷だけが周囲を照らす。戦いの場としては最悪極まりないが、魔獣は待ってはくれないのだから戦うしかない。
 普段は背中を合わせ、互いに剣を構え、小刻みに神聖魔法を使って……と地道な戦いをすることが多い。今回は悪天候だから、多少無理をしてでも俺が一気に片を付けた方が良い。
「ヴァルト!」
 俺の声に合わせ、魔獣に向かう騎士。彼が囮になっている間に俺が詠唱する。ジークヴァルトが相対するのは本命ではない。本命は、もっと奥にいるデカいのだ。俺は彼が剣を振りかぶり、魔獣の前腕を切り落とす姿を見守りながら詠唱を続けていた。
 その横顔は凛々しく、また雄々しい。だが、獰猛な動物というよりは――淡々と弱者をひねり潰す強者の顔をしている。俺の鼓舞を受けて能力を最大に引き上げられている彼は、まさに負けることなど知らないとでも言うかのようだ。
 頼もしい。雷に照らされた男の横顔を見ながら、こんな状況下なのに頬をゆるませる。
「聖なる御旗のもとに集まりし者に加護を与えん!」
 俺はジークヴァルトにダメ押しの加護を与えた。目立ちすぎたジークヴァルトに魔獣が群がり始めたのが見えたからだ。詠唱の中断は手痛いが、彼が動けなくなれば結局同じだ。ジークヴァルトの背後から飛びかかった魔獣を出迎えるべく、器用に剣を翻し、襲撃者の勢いを利用してそのまま切り伏せる。
 俺たち聖女の神聖魔法は人間を犠牲にはしない。それを分かっているからこそ、彼は俺の目の前で魔獣の興味を引き続ける。ジークヴァルトは次の獲物に襲いかかり、かの者らの敵対心を煽り、集中的に攻撃される的になる、ということを効率よく行っていた。
 わざと大立ち回りをして目立っている。背後の俺の存在を隠す為とはいえ、よく動く。疲れを知らぬかのように大剣を振り回す姿は、数多の騎士の中でもダントツに目立っている。
 ジークヴァルトがいるならば、彼にすべてを任せても大丈夫だ。彼の陰に隠れ、俺は大技を成功させる為だけに集中した。
「――女神の代行者たる聖女が命ず。正義の雷よ、断罪の鉄槌よ、邪悪なるものへ(もうちょっと良い感じの考えましょう)」
 俺の祈りの声が力となり、極大の雷を生み出した。それらは大きな地響きを伴って落下する。カッと眩い光が周囲を焼く。薄目でそれを見ていると、ジークヴァルトがちょうど目の前の魔獣を仕留めているところだった。
 彼の大剣が魔獣の首筋に埋まっている。神の雷は奥にいる大きな魔獣へ。それに気を取られた魔獣はジークヴァルトやその他の騎士によって刈り取られていた。力なく大地へと倒れ込むそれらを確認し、俺はほっと息を吐いた。
「負傷者は……やっぱいるな。聖なる息吹よ、安らぎの風よ、勇猛なる者へ癒しを与えん」
 気合を入れ、意識的に神聖魔法の範囲を広げていく。祈るように、いや、これは祈りだ。俺は命を繋ぐ為、広範囲の癒しを行った。
 ジークヴァルトが雨に打たれながら詠唱している。魔獣を倒しきった今、俺たちを照らすのは雷の光と、ラウルの生み出す神聖魔法の光だけだ。
 雷の光とは違い、ラウルの神聖魔法は柔らかな光を生み出している。見るからに癒しそのものといった光に照らされる彼の横顔は、美しかった。女性らしい、という意味ではない。慈愛を感じさせる表情でもなく、自信――いや、覚悟だろうか――のある表情だ。
 きっと、目を閉じていなければ生気にあふれ、大多数の人間の心を鼓舞させるような力強さを感じたに違いない。
「ん? どうした?」
「いや……」
 目を閉じ、祈るように手を組んでいたラウルがそっと頭を上げる。その瞳に自分が映り込んでいるのが見え、ようやくふらふらと彼に接近してしまっていたのだと気づく。
「急に近づいてきたから、何かあったのかと思ったんだけど」
「……そういうつもりはなかったんだが」
 ラウルの疑問を正直に答えると、小さく見開いてから笑い出す。
「きみね、本当に俺のことを大切にしてくれるんだなぁ」
「当たり前だろう。お前は俺の聖女で、相棒なんだ」
 背景に雷を添えた男は、そのおどろおどろしさとは真逆に優し気な笑みを浮かべる。雨に濡れ、ぐちゃぐちゃになった髪に手を伸ばす。指が髪に引っかからないよう、慎重に触れるとラウルはそっと目を閉じた。
「きみが相棒で良かったよ」
 濡れて邪魔そうな長い前髪を後ろに撫で、普段は隠れている額をあらわにする。年相応、というよりは若作りで瑞々しい肌が濡れているのを拭うが、雨の中でやったところでまったくの無意味だった。
「ラウル」
「ん?」
 俺に肌を撫でられるがままになっている男が口元をゆるめながら反応する。
「もう、戻ろう。これ以上はお前が風邪をひいてしまう」
 長時間雨にさらされていたからか、あれだけ動き回っていたというのにも関わらず、彼の肌は冷え切っていた。
「他のやつらは撤退したか?」
 目を閉じたままの彼に聞かれ、俺は周囲を見渡す。魔法を使う余裕が生まれた騎士たちが生み出した松明替わりの魔法が引いていく様子が見える。自分たちの位置からだいぶ離れているそれに、彼らの撤退が順調であることを理解した。
「ああ。もうそろそろ拠点につきそうだ」
「そっか。じゃあ、良いな。戻ろう」
 ラウルの目が開き、俺と視線が交わる。前髪がない分、さっきよりもしっかりと彼の顔が見えた。
「ヴァルトこそ、びっしょりじゃない?」
「そんなことは……いや、同じくらいだろう」
「あー、まあ。同じ時間外にいるんだもんなぁ……そりゃそうか」
 何が楽しいのか、彼はへらりと笑って片手を伸ばしてきた。何の疑問もなく、差し出された手を握って引き上げる。
「雷に打たれる前に、早く戻ろっか」
 握った手を放すタイミングを失った俺は、そのまま彼に手を引かれて拠点へと足を向けるのだった。
(字数調整で情景描写追加しようね)
魅力的な相棒の横顔
半分ずつラウルとジークヴァルト視点に分ける
カット
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62:09
魚野れん
1時間経つので、このあたりで終了にします!
62:32
魚野れん
お付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m
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向き
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ノート小説部3日執筆「雷」 書くよぉ~ん(おっさん聖女の婚約)
初公開日: 2024年07月26日
最終更新日: 2024年07月26日
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コメント
ほんのりBLなので苦手な方はお気をつけあそばせ。