甘いだけの僕じゃない
ふわりと揺れる、フェミニンなスカート。
白いスカートは少し膨らんでおり、二重になっているのでボリュームがある。大きなリボンは重いのか垂れ気味だが、それを支えるように白いレースがこれでもかとふんだんに使われていた。スリットがないので中は一切見えず、想像するしかないが、裾から伸びる足はほっそりとしていた。──…まさか、このスカートの下には鍛え抜かれて引き締まった大殿筋や大腿二頭筋が隠れているとは誰も思うまい。
(……蹴られたら、どうなるんですかねィ?)
壁まで吹っ飛んでしまうのだろうか? はたまた良くて骨折か? 入院、なんてこともあり得なくはないだろう。
もちろん沖田は蹴られたことなど今まで一度もない。が、手合わせしたことは何度もある。
幼いころから剣道の道場に通っているらしく、腕前は相当で。土方と互角、──いや、それ以上かもしれない。非公式で行った練習試合で、土方が何度打ち込んでも余裕で躱していた。それどころかあしらうように軽く返されて、大きな大会で優勝している土方はメンツ丸つぶれだった。ざまーみろ。
土方を相手にしても本気を出している様子はなく、逆に土方を煽って楽しんでいる余裕まであった。沖田も勝てた例(ためし)がない。
大きな大会は面倒だと出場せず、賞など取ったことないくせに。
目が、……離せない。
ちなみに後輩や年下には優しく、沖田の頼み事は嫌な顔せず了承してくれる。今日のお願いはちょっと特殊で渋られたが。押しに弱いのは相変わらずだ。
沖田くんだし特別だよ、って言われて、悪い気はしなかった。
「綺麗ですねィ……」
深く息を吐き出して、ため息をひとつ。
ちょっかいを出したらタダでは済まないと沖田も悟っているので、伸ばし掛けた手を引っ込める。
そんな様子に相手──、女装系地下アイドルをしている坂田銀時は、不思議そうに沖田の顔を覗き込む。
「スカート触りたい? 俺ならセクハラにならないから構わないよ?」
「……いや、まあ。そのうち」
「どっちなの?」
スカートを持ち上げてひらひら誘惑してくる銀時はタチが悪い。──自分はスカートよりも、その中身である銀時にしか興味がないというのに。罪な人だ。
短い銀髪に、ツインテールのウィッグを付けて。うっすらとだが化粧もしているらしく、目元がはっきりしているし、キラキラ光っている。口紅は柔らかそうな桃色で、舐めたら甘そうだ。
銀時は見かけるといつも甘い物を食べているので、きっと甘いに違いない。汗臭い野郎どもとは違うんだ、……だって天使だから。
いろんな誘惑を振り切って、顎に両手を当てしげしげと見つめる。
真っ白なゴスロリ風のワンピースの衣装は、純白で眩しい。
「よく似合ってますねィ」
「……ほんと?」
嬉しそうに、にっこり微笑む銀時はやっぱり天使だった。
こんな人が地下アイドルをやっていて、無事でいられるのだろうか。──いや、無理だ。無理に決まっている。誰かに汚されたり手籠めにされる前に、銀時の純潔を守るためにも今すぐ辞めさせたほうがいい。
そう、沖田は今日、銀時が身を粉にして働いているこの不純な地下アイドルのバイトに、いちゃもんをつけて辞めさせるために来たのだ。
本人にはもちろん言ってない。言ったら連れて来てくれなかっただろうし、怒って絶交でもされたらこちらのメンタルがしんでしまう。ドSは打たれ弱いのだ。
「沖田くんも着てみる? 俺より似合うんじゃね⁇」
ひらりと銀時が出してきたのは、今着ているゴスロリ服とはテイストが違う、深くスリットが入ったチャイナ服だった。
色は赤。──銀時の瞳のような、真っ赤で深い紅。
スカートの長さは今のゴスロリ服より長いとはいえ、スリットの合わせからいろいろと見えてしまいそうで。これはさすがに看過できない。
「この衣装、着たことあるんですかィ?」
「うん? そりゃ俺の衣装だから、着たことあるよ」
「……阿婆擦れ」
「アバズレ?」
「…………」
むすっと、沖田が唇を尖らせて。解りやすく、ぷっくりむくれる。
そんな膨らんだ頬を、銀時は楽しそうにつんつん突っつく。……この状況を楽しんでいるようで何よりだが、沖田が想定していた銀時の反応と違う。
蔑まれたのだから、もっと怒ると思っていたのに。
「──…旦那、」
「沖田くんが可愛くお願いしてきたら、銀さん女装しないし、潔く地下アイドルを辞めてあげるよ?」
ちゅ、っと触れるだけのキスをして銀時が離れていく。
にっこり微笑んでいる、……笑顔は先程と同じはずなのに。背筋がぶるっと寒くなる妖艶な微笑み。
見た目は天使のままだが、今は悪魔のように見える。
「──訂正します。阿婆擦れじゃなくて、旦那は性悪でしたねィ」
「性悪? 銀さん一途なんだけど、気付いてないの?」
ぺろりと唇をひと舐めした銀時は、優しい先輩でも地下アイドルでも天使でもなくて。
狡猾な捕食者の顔をして、沖田を易々と押し倒した。