・休みの日にカフェオレを一緒に淹れる話
・光世がドリップ、水心子が牛乳温める
・マグカップはお揃い
 
 ガスコンロの火にかけて程なく、薬缶から静かな音が上がり始める。沸騰まではまだかかるが他の鍋とは違う独特な音は、水心子にとって朝の音色だ。
 口の細いすらりとした形状の薬缶は、一緒に暮らす時に大典太が自分の家から持ち込んだものだ。
 水心子の実家にあったものとは幾分か異なるが、熱せられた水が中で対流して容れ物を鳴らす音は変わらない。同じステンレス製でも、これが鍋ではほとんどしないのだからつくづく不思議なものだと思う。
 喫茶道具一式はラックにまとめてある。ドリッパーに二人分が入るサイズのペーパーフィルターを広げ今朝はどれにしようかとコーヒー豆の入った瓶を眺めていると、後ろからにゅっと手が伸びてきた。
「カフェオレでいいか?」
「ああ。おはよう」
「ん」
 まだ眠そうな気配を残す大典太の体温を背中に感じながら、薬缶の火を少し弱める。元々コーヒーに凝っていたのは大典太の方だったが、一緒に暮らすようになってから水心子もだいぶ詳しくなった。
 豆の産地やローストの加減、挽き方淹れ方で味も香りも様々に変化するコーヒーの特性は、水心子の研究家気質を大いに刺激した。
 さすがにストレートは刺激が強すぎて飲めないが、出かけた先で見つけたコーヒー店に立ち寄っては味の分布図を眺め、気になったものを買って帰る。そのおかげで家には常に何種類かのコーヒー豆がストックされている状態になっていた。
 大典太の手が取ったのはローストが強く、酸味と苦味のバランスが半々の豆だった。受け取った水心子は計量スプーン三杯分を取ると、電動ミルのスイッチを入れる。モーター音とともに豆を挽く音が落ち着くまで約五秒、挽き終えた粉をフィルターに入れたところでマグカップを持った大典太が戻ってきた。
「牛乳、温めておいてくれるか」
「量は?」
「ハーフ&ハーフ」
「わかった」
 豆を挽き終えたら次は大典太の番だ。手早くピッチャーを電子レンジに送り込んで、ついでにトースターに食パンも放りこんで、水心子はそそくさとカウンターの向かい側に陣取る。
 薬缶の細い口からまずは一筆分、さっと撫でるようにお湯を注ぐ。蒸気から伝わる熱が粉を刺激し、香りがふんわりと昇ってきたら今度は円を描くようにぐるりと。水分を含んで盛り上がった粉の形を崩さないように数回に分けてお湯を注げば濃い色のコーヒーがサーバーに少しずつたまっていく。その一連の流れを水心子は夢中になって眺めていた。
 豆の種類と同様に淹れ方も教わってはいるが、自分でやるとどうもうまくいかない。大典太は美味しいと言ってくれるが、自分で淹れたものはどうも味気なかったり、雑味があったりと納得のいく味にはまだほど遠く、今のところは彼に任せることが多い。
 ……自分で淹れた味に納得がいかないのもあるが、粉からコーヒーに変化する流れや、それを生み出す大典太を見ているのが好きというのが主な理由ではあるが。
 二人分のコーヒーの抽出を確認して、大典太はドリッパーをサーバーから降ろした。サーバーを軽く揺らして濃度を整えると、カウンター越しに水心子に手渡す。
 二つのマグカップにきっちり二等分、牛乳も同じ量注いで完成。
 
 
 
 
 
 
 
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柑味処
光世は社宅(借り上げ賃貸)暮らしなんだけど水心子は一人暮らしか実家か悩む
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柑味処
都内or近郊のベッドタウン生まれ&育ちの根っからの関東民だと思ってる
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柑味処
???
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???
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