・雨が止むまで帰れない典水
・帰りたくない典水。もう少しだけ二人きり
ぬるい強風が背後から吹き付ける。雨交じりのそれに急き立てられ、ふたりは手近なあばら家に駆け込んだ。勝手に中に入るのは申し訳なく、せめて軒先でと思ったがそれでやり過ごせる程生易しくはなくて、人気のないその場所に一言断って上がらせてもらった。
「だいぶ降られたな」
「ああ、通り雨と思って油断した」
二人とも頭からずぶ濡れだ。水心子は手早く帽子と外套を脱いで壁にかける。大典太はジャケットだけ脱いで髪を絞っている。
しばらく使われていなかったのだろう室内は締め切った匂いと土間のひんやりした空気が漂っているが、表の見た目の割には荒れていなくてほっとした。勝手に上がっている身で文句を言う気は毛頭ないが、それでも荒れているよりは綺麗な方がありがたい。可能性は低いとはいえ、誰かからの何かしらの襲撃を受けることだってゼロではないのだから。
「水心子」
狭い室内をぐるりと見回し、危険がないことを確認した大典太が三和土に腰を下ろした。視線の手招きを受けて水心子もその隣に腰を下ろす。
「しばらく止みそうにないな」
「ああ」
大粒の雨が暴風の悲鳴を伴って壁に体当たりしている。一層強く吹き付ける風が板戸を揺らして、まるで姿のない巨人がとびらを掴んで揺らしているかのようだ。
「怖いか?」
「まさか」
「では、寒いか」
言われて自分の手に目をやる。ぐ、と広げると指先がかすかに震えていた。
外套と帽子が防いでくれたおかげで中まで濡れることはなかったが、防寒を兼ねたそれらを脱いだことで気づかないうちに冷えていたのだろう。自覚してぞくりと背筋を震わせた水心子の肩を大典太が抱き寄せる。
「あなたのほうが濡れたのではないか?」
「生憎と頑丈な方でな。この程度大したことはない」
「それは羨ましい」