閑静な住宅街の中に存在するこのコンビニエンスストアは、店舗の規模としてはそこそこ、他の店舗よりも品揃えは生活雑貨が充実している。
駅からは少し歩くが、コンビニを中心に大学が複数存在しているため、この周辺で一人暮らしをする大学生が多いからだ。
去年からこのコンビニでバイトを始めた俺は、その近くのとある大学の二年生。
先程述べた通り、バイト先にここを選んだのは大学の近くであること、更に近くで一人暮らしをしている大学生の中の一人でもある。
家が近くであれば深夜のシフトを入れても終電を気にすることもなく、疲れていても直ぐにベッドへ直行できる上に、時給の高い時間帯で効率良く働くことが出来る。
ついでに同じコンビニでバイトをする女の子と、少しは仲良くなれたら良いかもなとど、邪な思考があることは否めない。
コンビニの客層は大学生が大半、残りは地元のジジババ若しくは通りがかりの一見客くらい。
駅から少し離れているからか、地域密着型なコンビニは治安が比較的良い方だろう。
今年になって新しい顔ぶれが常連になるようになって、一番に顔をバッチリ覚えたのは、派手な金髪の背の高い男。
頬に痣のような髭痕があり、一見ヤンキーの類かと思いきや、必ず挨拶をしてニカッと太陽のように笑う。
商品を買ってくれる客の中では、礼儀正しくナンバーワンの人懐っこさだ。
しかし俺は知ってしまった。
密かに狙っていたバイトの女の子が、ソイツと同じ大学で密かに憧れていることを。
背も高く人当たりも良い元気な男子が、女子に人気なことは分かっていた。
コンタクトでもなく眼鏡をして、少し長めの髪の毛を後ろで一つ結びしているようなオタク感満載の男なんて、余程の物好きでもなければ行為を寄せてはもらえないだろう。
クソッ!
ソイツの名はうずまきナルト。聞けば一楽のラーメンが大好きで、そこの常連らしい。
だからいつもコンビニで、カップラーメンばっかり買っていくのか。
一楽は俺も時々行くことのあるラーメン屋で、毎日とまではいかないが週に1回くらいは財布が許す限りは通いたいラーメン屋でもある。
毎日毎日、ラーメン、ラーメン、拉麺。
アイツ、他に喰うもんないのかよ? と思っていた矢先。
うずまきナルトは急に1リットルの牛乳や卵、ホットケーキミックスなんて洒落たものを買うようになっていた。
ずっとカップラーメンばっかりだったくせに、やっぱり自炊に目覚めたのか?
そうすると今度は、時々プリンだのアイスだの、シナモンロールだの買い始めた。
幾らなんでもカロリー摂り過ぎだろ。将来、高血圧、高脂血症、糖尿病のがっつり生活習慣病になるぞ!
なんて、俺がそう思ってしまうのも無理はない。
だって、それらのデザートはいつも必ず2個あったのだ。
うずまきナルトに密かなライバル心を燃やしていた頃、俺は同じバイトの女の子のことは早々に諦めて、いつもコンビニに来る清楚な女の子に心惹かれるようになっていた。
今時珍しく、ザ・お嬢様! と言った風貌の彼女は、長い髪をサラサラと背中に流して、きっと自炊している料理に少し足りなかったのだろう調味料や、食パンや果物なんかを買っていく。
やっぱ女の子はコンビニ飯やカップラーメンじゃなくて、手料理の一択だよな!!
ほかほかのご飯と、さっき買っていっていた数種類の野菜サラダにちよっとした副菜、メインはきっと肉料理か魚料理か。
豆腐とわかめの味噌汁と、デザートは林檎のうさぎ切り。
バイト帰りの俺に向かって優しく微笑んで、「おかえりなさい」なーんて、人生最高か!
この前コンビニに来た、金髪ロングのポニーテール美女には軽蔑の眼差しを向けられるし、珍しい桜色の髪色の美人にも、後ろにべったりくっついていた黒髪の男がむちゃくちゃ睨まれたし、この町は美人が多く眼福だがモブごときの俺が近寄ることは到底できない。
でもその中でも藍色がかった黒髪の彼女は、誰であっても包み込んでくれるような、まるで聖母のような佇まいがあった。
滑らかな白い頬を少し桃色に染め、いつも恥ずかしそうにふんわりと挨拶をされれば、男だったらちょっとは勘違いしても可笑しくないだろう?
その日、いつものように彼女はコンビニの入り口で小さな買い物カゴを手に取り、飲料水が置いてある奥のコーナーへと向かって行った。
次に駆け足でコンビニに駆け込んで来たのは、例のにっくき相手であるうずまきナルト!
折角彼女の微笑みに癒されそうと思った矢先に、嫌なヤツに遭遇してしまった。
会計客が居ないことを幸いに、チッと舌打ちをした俺の気持ちなんか知る由もないアイツは、真っ直ぐカップラーメン売り場に向かうかと思いきや、生活用品が置いてある一角へと姿を消した。
あんなに急いで、トイレットペーパーでも切れたのかよ。
そう思い、うずまきナルトの様子を伺うべく防犯カメラをチェックすると、あろうことかヤツは禁断の小さな箱を手に取りやがった。
はぁ!? クッソめが!!
ソレは、俺でさえコンビニで買ったことがない幻の商品だぞッ!?
お前はッ!!
それを!!
使えると言うのかッ!?
怒りのあまり防犯カメラから目を離した瞬間、うずまきナルトは不埒な品物を手にしたまま、あろうことか聖女が佇む飲料水売り場の方へと向かって行ってしまった。
咄嗟にレジを離れようとしたところに、運悪くマスクをした気怠そうなサラリーマンがお会計に来てしまった。
コイツもなにコンビニで、エロ本なんか買ってんだよ。
イチャイチャパラダイスを袋も要らないからと、平然と手に持つおっさんに、この周辺の客層に羞恥心と言うものはないのかと軽く絶望する。
そんなことより、可愛らしい聖女を女たらしのエロ大学生から守るべく拳を握りしめようとすると、突如、目の前に大きな影が現れた。
「お会計、お願いしますー!」
「……い、いらっしゃい、ま、せ」
眩いほどの太陽のような笑顔でレジへと買い物カゴをもって現れたのは、今から成敗してやろうと戦闘態勢に入っていた天敵だった。
不意打ちを食らった俺は、悲しきバイト根性を発揮してしまい、商品バーコードをスキャンする。
あんみつと、プリンと、牛乳、総菜のごぼうのサラダと、シナモンロールと、6枚切り食パン。
そして、俺がコンビニで今まで買ったことのない、コンドーム。
「袋は有料になりますが、如何なさいますか」
すらすらと定型文が口から滑り出す中、俺はふと違和感に気がついた。
うずまきナルトは入店時、店の買い物カゴは手に取らなかったはずだ。
「あの……っ! 袋はあるので大丈夫です」
大きな狐のようなアイツの身体の横から、ちょこんと顔を覗かせたのは、憧れの彼女だった。
「ヒナタ、悪ぃな。家にあったマイバック置いてきちまった」
「ううん。私いつも持ち歩いてるから、平気だよ」
今まで俺が見たこともないような笑顔で彼女が微笑むと、ヤツも蕩けるような視線で彼女を見つめる。
その場が一気にお花畑になったかのように、一面に花びらが舞ったような幻覚が見えた。
「……じゃ、あ、こちらで袋に、お入れします、ね」
手渡された薄紫色のマイバックを広げ、重い牛乳から下へと品物を順に詰めていくと、最後に手に取ったコンドームの箱に気づいた彼女が、顔を真っ赤に染め上げた。
こういった生理用品は、中身が分からないように紙袋に入れるのだが、そうすると余計何を買ったのか分かりそうなもんだが、何故かそうなっているのでマイバックの中にそっと仕舞ってやっておいた。
「……や、やだっ、もお、ナルトくんったら……!」
「だって昨日で全部無くなっちまったしよ……」
ボソボソと小さな声で会話するバカップルを前に、賢者タイムに入ってしまった俺は無敵だ。
「有難うございっしたー」
いつもの会計後の独特の挨拶に、恥ずかしそうな彼女がペコリと頭を下げると、ヤツは商品が入ったバックを手に取り、彼女の肩を抱いて仲良くコンビニから仲良く出て行った。
さよなら俺の憧れの聖女。ちくしょう、うずまきナルト。
せいぜい、幸せになってくれ……!
ちょっぴり傷心に浸っていた俺は、明日もうずまきナルトがコンビニにコンドームを買いに来ることを、今はまだ知らない。
おわり