空に溺れる (酸素・摩擦・詰める)
雲一つなく、晴れ渡る青い空は。小さな頃から憧れていた、澄んだ瞳を思い起こさせて。
澄んだ空気にたっぷりと含まれる酸素を吸い込むように、肺に息を取り込んだ。
里の英雄と謳われる彼は、最近羨むような視線で見つめられることが多く、蔑まされていた冷たい眼差しは感じられることはない。
その多くは、まるでアイドルを見つめるような熱い視線が大部分を占め、黄色い声援に慄くのは本人のみならず、同期の仲間たちも眉間に皺を寄せてしまうものだった。
その生い立ちから、忌み嫌われていた彼が、里の人々に認められていく様子は、自分のことのように嬉しく思うのは驕りなのだろうが。
少し照れたように頬を掻く仕草が可愛らしいと思うのと同時に、ちくりと小さな針が胸を刺した。
身体に取り込んだ空気が僅かに抜けていくように、息苦しく胸が詰まる。
彼の笑顔は嬉しいはずなのに。
心の摩擦で火花が零れそうな感覚に、思わず頭を振った。
同期だからと言って、ほんの少しでも近くに居られたのは、今となっては幸運だったのだと思うべきか。
僅かな運命の擦れ違いで、知らぬ他人となって遠くから彼の姿を眺めるだけの、通りすがりの通行人となっているのは変わらず。
広い背をただ眺めるだけの、意気地なしが顔を覗かせて。
私はくるりと踵を返した。
風に揺られる片腕は、もう直ぐ義手が着けられる。
寂しそうに袖の先が空を切ることも。体幹を揺るがされることも。生活の不自由を強いられることもなくなるのだろう。
彼を支える人は、周囲には沢山いる。
空はこんなにも澄み渡っていると言うのに、私の心はどうして薄雲が掛かっているのだろうか。
突風が長い髪を巻き上げ、前進していた視界を塞ぐ。
こつん、と。ぶつかった先には、明るい橙色の襟元で。喉元に浮かんだ鎖骨に額を擦り合わせたのだと気づいたときには、眺めていた空に捕まった後だった。
「なんで、逃げるんだってばよ」
ムッと下口唇を尖らせたナルトくんは、つい先ほどまで他里の訪問者に捕まっていたと言うのに。
何故、反対方向へと逃げた私の目の前に、居るのだろうか。
「……逃げて、なんか」
「嘘つけ。目を見れば、分かるってばよ」
本当は。目を合わせてなんかいない癖に。
俯いた旋毛に瞳があるかのように、私のことをお見通しなのだと語る。
「……久しぶりに、外出したってのに。なんか知らねぇ奴ばっか話しかけてくるしさ。お前は、オレのこと避けるし」
「ご、めん、なさい」
ナルトくんの義手が着くまでは。介助のお手伝いをするように任命されている責任として、傍に居られる権利があるけれど。
それ以降は、足りない人手に復興任務が山ほど待機しているのを知っている。
能力の違いから、きっと同じ任務に就くことは滅多にないだろう。
どんなに努力したとしても、また、近づいた背は大きく離れて。
そのうち、もっと先に進んで。
私の知らない空へと、変わっていってしまうのだろうか。
そう思うと、掴めもしない青空を、この瞳に詰め込んで。
その色を映し込みたいとすら、思うのに。
息苦しく感じるのは、まるで空の中が拾い海の中のように感じられて、空に溺れてしまいそうになる。
「折角だから、……なんか甘いもんでも、食いに行こうぜ」
残された左腕が差し出されて、恐る恐る、指先を触れさせると。
太陽の熱がチリリと、熱伝導した。
中途半端な感じですが、有難うございました。
また校正してリクエストとしてTwitterにアップします。
人に見られて書くのって凄い緊張しますね(笑)
またライブするときはお付き合いください。
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空に溺れる (酸素・摩擦・詰める)
初公開日: 2020年06月15日
最終更新日: 2020年06月15日
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