近年の少子化影響で山間に猪や熊が大量発生し、山から街に降りてきて獣による被害が起きている。政府はこれに対して山間の獣を頭数制限するため、ドローンマタギと後に呼称される、ドローンを利用したマタギへの援助策を打ち出した。この政策は現代の流れであるドローン開発に対抗するためでもあった。援助が行われるのは、伝統的なマタギ猟をしていた2世までとし、そのマタギ猟を行っていた人間の下で3年間指導を受け、マタギ信仰を引き継いだと認可された猟師に限られた。
山中、陽が昇りきっていない頃。二人の人間が山間を歩いていた。どちらも軽装で身軽な服装をしている。片方は猟銃を手にしており、もう片方はVRゴーグルを被りコントローラを握りしめていた。言葉は発さず、音を鳴らさないように慎重に動いている。
VRゴーグルを付けた方が指をさす。猟銃の男はそれに頷き、猟銃を草むらに構える。
サワサワ サワサワ サワサワ
パンッ パンッ パンッ
山中に猟銃の発砲音が響いた。二人は緊張が解けて笑顔になり頷いた。
「今日はこれくらいにしましょう。」
「そうだな。」
二人は倒れた猪に祝詞を唱えて、その肢体を担ぎ上げて山の中腹まで下山する。そして作業小屋へと入っていき、火をおこして獅子鍋を作り、また祝詞を唱えてから食事をする。余った猪は後で山下で取引を行うために、真空パックに詰められてアイスボックスへと納められる。
二人はこの暮らしを5年と続けていた。ドローンマタギと呼ばれるブームが去ってから随分と立つ。あの時は画期的だのマタギがテクノロジーに甘えて信仰の精神性はどうなるんだの言われたが、それは現地に暮らしてから特に変わっていない。狩りをして捕られる獲物に感謝して生きているだけである。おそらくは豚を屠殺するような養豚場と代り映えはしないのではないだろうか。代り映えがしないと言えば、このマタギの仕事では祝日が存在しないのというのはあるか。平地文化では人間が協働するため、人間同士での不和があり、それを定期的にガス抜きしてやらないと爆発してしまうから、祝日であったり、祭りであったりをして円滑な人間関係を作ろうとする習慣がある。しかし、こちらは少数の仲間と狩りをして、たまに必要な日常品がなくなれば下山しきって街に買い行くような生活なのだ。仲間とは毎日のようにお喋りをして遊びをしての日々である。そもそもお互いに信頼関係が無ければ狩りなど成立しないし、これほどにも近く集まって共同生活をするということ自体が難しいのだ。集団でマタギを行う場合もある。獲物を追い立てる「勢子」と、待ち伏せて仕留める「ブチ(射手)」に分かれて行う伝統的な方法を行う。現代で変わった点は、「勢子」をドローンが代わりに行う点だ。勢子ドローンは録音された犬の鳴き声を使って、イノシシを山上へと追い上げていく。そして山上には猟銃を構えて待つという手合いだ。こういう場合には、狩りの成功を祈って仲間と宴会を楽しむという日を積極的に取り合っているという話をよく聞くだろう。
「様子はどうだった。」
獅子鍋を食べながら、PCの画面を覗いている者に聞く。画面には、今朝に自己管理型ドローンが収集した山の情報が載っていた。自己管理型ドローンというのは、ドローン自体に太陽発電機能が備わっている。山の開けた場所に点在してあるハブへと移動して、太陽による充電活動を行い、時には雨風をしのぐようにしている。夜間には赤外線レーザーによる探知を行いながら、山に棲んでいる生物の頭数管理をざっと行う。山にいる生命が増え過ぎていないか、減り過ぎていないか、異常は見られないのかについての情報を収集するのである。マタギと言うのは自然に感謝して自然と共に生きる信仰を持っている。それは山の均衡を保ちながら、山の命を確認する行為とも相反しないという思想の下で合致が取られている訳である。
「様子は、、、」
「問題なさそうですね。先週から気にはなっている熊の動きも特に異常は見られませんし、イノシシの頭数管理もこの調子でいけば問題なさそうです。罠の設置については今月はプラス2入れて、来月はマイナス3くらいでバランスを取りますか。狩り過ぎて均衡が崩れるのも難しいですからね。」
「あれはどうだ。焼いていた地帯の植生は。」
「あそこはワラビが芽吹きだしてて丁度良いかもしれないですね。ツクシとかも見られますし。明日採りに行って佃煮でも作りますか。近くにある筌(うけ)も見ときますか。魚たくさん入っているといいですね。」
山焼きは基本的に禁止されているが、認可を受けてドローンを利用した焼きだけでは許可された地域は存在する。ドローン技術の発達によって、火災検知が容易になったためである。焼きを行うときは区画をドローン搭載のAIの指導の下に決定し、場合によっては木を倒して、火が必要以上に広がらないように工夫をする。区画に火を放つときも、上空にドローンを飛ばして赤外線カメラによって火が必要以上に燃え広がっていないかを確認するのである。この山焼きは山菜を取りやすくするためのものである。焼きを入れた場所には灰ができ、それによって肥沃な土地へと変わるのである。