単なるコンクリートの塊だと揶揄されるタイタンは、がま口を開けて蠢いて成長して行き来している。わたしはあの生態圏で生きている。あれは時間が経てば朽ち果てるし、さらに時間が経てば補修されて寿命が延びる。新陳代謝だ。あれも生きている。生きているかは実感の問題なのだ。動いているものが見えているのか、見えていないのか。それだけの違い。
ある日、別の地域から移り住んできたAさんが居た。Aさんは手紙を渡してきた。そこには絵なのか文字なのか分からない記号が書かれていた。他の人から聞いた話では、ここには前に住んでいた町の思い出が書かれているのだと言った。
ポンプ式の脚が地面を蹴り上げる。砂埃が宙を舞う。水分量が少ない地形なのかレイリー散乱の影響で上空は青い。ここは標高4000mの山脈である。軽い点検装備を携えて山脈を超えた先にはこじんまりとした街がある。そこを目指して脚を動かして先へと進んでいった。近づいていくと、街の中央にある見慣れたタイタンの塔が目についた。塔は自己改修をしてはいるものの、すこし寂れた外壁が見えた。
「あ。来た来た。管理人さんだ。」
そう言って無邪気そうな子供たちが私を取り囲む。それを一目見て、タイタンから教えられたことを思い出して手を振って歩調を緩める。どこから来たのか。他の街はどんな風なのか。疲れないのか。肉体の素材が丈夫そうだとか。かっこいいだとか。可愛いだとか。色々なことを矢継ぎ早に投げかけてくる。それに飽きると好きなことを披露したり喋ったりして、こちらの様子を伺ってくる。それに対してたまにおどけて見せるのはお決まりの通りで、中央のタイタンの塔へと向かう。タイタンの塔は遠くから見ると街のシンボルのように静かにこちらをじっと見つめているが、近づいてみると他の建物と変わらないと感じる。大きなものは近づいてみると存外そんなものだ。
タイタンの入り口に立つ。するとそれを感知したのか、入り口はおずおずとお久しぶりですと言わんばかりに開き。わたしを内部へと案内する。「ここって開くんだ。」という驚きの声を背に中へと入っていく。ここで子供たちとはお別れだ。子供たちが内部に入ろうとする前に扉は閉まった。内部に入ると、下へと階段が続いている。しばらく降りていくと内部が液体に満たされた地点で立ち止まった。ここがわたしの仕事をする場所だ。手を液体に突っ込んで濃度を確認する。液体の中へとさらに降りていく。ここにあるのは静かな神殿だ。この奥にこの街の豊かさを維持するための頭脳と祈りが詰まっている。身体の濃度を調整したことで、身体とここの液体が自然と融和していく。それと同時に意識は手放されていく。
気づけば目の前には、みすぼらしい布を纏った老人がこちらに足を投げて座っていた。
「はじめまして、旅の記録をしっかりと見させてもらったよ。」
老人の手元には、わたしが書いた旅の記録があった。老人は口を開いてこの町について教えてもらったように思うが、それからのことは覚えていない。目が覚めて、液体に満たされた塔の深部にいたことに気づく。これで点検は終わりだ。塔内部の液体に満たされた場所から上へと登っていく。ちらりと目に移った神殿の水は来た時よりも澄んでいるように見えた。
塔を出ると大人たちが出迎えてくれていた。
「ようこそおいで下さいました。寄り合いはこちらにあります。」
そういって案内されて着席する。
「こんな辺鄙な場所にようこそおいで下さいました。それでタイタンの様子はどうでしょうか。」
そう言う大人たちは興味本位で笑顔を作ってわたしに聞いてくる。
「彼はそうですね。元気とは言えませんでしたが、彼なりに町の事をよくしたいと聞きましたよ。」
「本当にそうでしたか?彼はもっと水と電気を欲していたりしませんでしたか?」
心配そうな顔で聞いてくる。
「ええっと。それについてはどうだったかな。」
こういう時はタイタンに教えられた通りに手で後ろ頭を掻く仕草をする。
「この街について知って欲しいので、どうか案内に付き合ってください。」
ビシッとした目つきで迫られて街を案内してもらうことにする。
それに納得せず不満そうに大人たちは詰め寄ってくる。
「このままだと私たちの街は
自然を加工してインフラとするのではなくて、自然のシステムの中に住むという感覚のほうが近い。
大人たちは資源が不足する事で、水が不足することがあって、それによって栽培物に水が満足に上げられなくて、栽培物が枯れたり、電気の生産が間に合わずに、停電になることを何度も経験している。それは、この町で取れる資源に限界があるからである。水は基本的には雨水を蓄えるようにしているし、
おそらくはタイタンが資源を消費していることを疎ましく思っている人たちもいるらしい。
老人の伝言
「ここににも仲間たちが望んでいるような未来がくるように計算したいのだが、どうにも資源が足りなくてな。その幹線道路とやらの建設を急いでもらいたい。未来を占うにも資源がいる。道中で子供たちを見ただろう。あの子たちの未来を守ってやりたいのだ。けれど、それは中々難しいという事が分かってきている。わしの機能も年々と衰えてきている。わしの維持のために街が廃れていくなど見たくはない。もっと言うならば、わしの寿命を使ってでも彼ら彼女らの生活が末永く続いてくれることを祈っている。」