雨の結晶 (粋む・燻る・体温)
しとしと雨は、この季節にはよくあることで。
折角のデートが台無しになることも、まぁ、仕方ない。
そんなときには、やっぱりお家デートに限るわけで。
慣れたように、オレの部屋にと、招待した。
婚約まで一気に進んだものの、月から帰還したときに交わしたキスは一回きりで、それからは純真健全なお付き合い。
もっと先に進みたいと思う不純な気持ちと、まだそこに辿り着くまでには早いと思う気持ちとが相俟って、燻る気持ちのまま平然を装って。
昂る体温を誤魔化すように、アパートの屋根を叩きつける雨の結晶を、恨めしくさえ思う。
何も知らないヒナタは、幸せそうにオレの横でニコニコ無邪気に微笑んで。
粋がってみせても、野暮ったいと思っていた彼女の色気は、日を増す毎にどうしようもなく感じられて。
思わず雑念を振り解くようにガシガシと掻き抱いた頭に、長い髪が不思議そうに横でサラリと揺れた。
「……どう、したの? ナルトくん」
鈴を転がすような小さな声も、オレを心配してくれているだけだとは、頭の中では分かってはいるけれど。
誘うような小さな口唇に。
無機質に流れる小さなテレビの雑音も、激しさを増す雨音も、全部全部。
ただオレを煽るだけの、材料となっているような気がする。
「……なんでも、ねぇよ」
無理して笑って見せても、瞳を見て誤魔化しているだけなのは、きっとバレている。
梅雨の湿気なのか、ジトッとした部屋の室温は、嫌がおうにも体温を更に上昇させて。
はぁ、と。ついたオレの溜め息に、とうとうヒナタは手に持っていたマグカップをテーブルに置いた。
「わ、わた、し……」
む。と、引き結んだ真面目な顔ですら、食べてしまいたいだなんて、きっとヒナタは気づいていない。
「……お、オゥ」
寛いでいた足元を正座して、キッと見据えたヒナタの瞳の中には、黄金と今は見えない青い空。
思わず自身も正座して、二人正面を向き合った。
「あ、あのね。……あの、わたしも、一緒なの」
「へ?」
「……だ、だから、……その」
「……う、ん?」
白い瞳を彷徨わせるヒナタは、頬を真っ赤に染め上げて。
一つ一つ、言葉を選びながら懸命に伝える。
ギュッと掴んだスカートの裾は、折角のアイロンが台無しになるほど皺になって。
細い指先が痛々しく握り込まれていた。
「だから……っ」
「……ヒナタ」
オレは勢い良く上げたヒナタの顔を、両掌で優しく包み込むと。
その可愛らしい口元に触れるだけの、キスをした。
「……!!」
目を見れば分かるなんて、無自覚なときから良く言えたものだと思ったけれど。
言葉にできずにいたオレに、懸命に伝えようとしてくれていたヒナタ。
やっぱり、目を見れば可愛い恋人の考えていることは、分かってしまうものなんだ。
オレの瞳の奥に隠された想いを、これからは隠さずに言葉で伝えよう。
「……なぁ、ヒナタ。……キスして良い?」
ヒナタの瞳は「はい」と語ってはいたけれど。優しく微笑む月の光は、太陽を反射して美しく輝いた。
「……は、い」
なかなか進めなかった、セカンドキスも飛び越えて。
その先何処まで飛び越えて行ってしまったのかは、オレたちだけの秘密。
ありがとうございました。