俺の一つ年上で幼馴染みのアオイは食品バイヤーをしている。その為、出張が多く滅多に会えない。俺はマメなアオイと違って程度よくメッセージを返したり、見たりもしないのでラインは苦手だし、その上、幼馴染みという間柄。特に会話を続けることもない。素っ気ないように感じるが、それが俺たちの通常運転である。だから久しぶりに会って、幼馴染みの豹変ぶりに戸惑ったのだ。急に呼び出され、言われた通りの店に向かえば、一升瓶を抱えた女と遭遇する。始めはどこかの知らない女だと素通りすれば、酔いつぶれた女が大声で「酒もっれこーい」と呂律がまわらぬ舌で叫んだ。知りすぎた声に夢でも見ているのかと思った。とろとろに酔いつぶれ、目が据わっているアオイの姿など見たことがないからだ。いつもはびしっと背筋を伸ばしているのに、スカートが捲れて白い太股が見え隠れしている。
「なにやってんだよ!」
咄嗟にスカートを直せば、あれれ?と青い瞳が熱でゆらゆらと揺れて俺を見定めようと目を細めた。
「あれーーーーいのしゅけしゃんじゃらいですかーーどーしてここにいるのかなー?」
「アオイが呼んだんだろーがよ。どーしたはこっちが聞きてえ。一年ぶりに会えたかと思えば、なんだこの様」
俺の小言が聞いているのか聞いていないのか、アオイは上機嫌で鼻唄を口ずさみだした。
「あいつ、なんつったっけ?アオイの婚約者はどうした?」
こんな状態のアオイを放ったらかしにしやがってと怒りが込み上げて婚約者に文句を言おうと自身のスマホを取り出したら、先程までご機嫌だったアオイが俺の服の端を掴んだ。
「うぉぉぉぉぉん!!」
「な!?なんだぁ!?」
いきなり泣き叫ぶアオイに既に集まっていた視線が更に好奇の目が一層強くなって、居づらい状況になった。
「あいつ、呼ぶからな」
とホーム画面を開き、そこで気付く。
そうだった。アオイの婚約者の連絡先知らないんだった。泣きわめき続けるアオイにあいつの顔が浮かんできて胃がねじ曲がる。
「アオイ、スマホ貸せ」
怒りが溢れないようにぐっと喉の筋肉を引き締めて言うと、アオイはブンブンを頭を振り、涙を溜めて拒否してきた。まるで子供の我が儘のような仕草に婚約者を呼びたくないのが伝わってくる。
「とりあえず、おちつけ」
座敷にちょこんと座るアオイの目線に合わせてしゃがんだ。固く口を結んでいるが泣くのをぐっと我慢している。
「…」
気が利かない俺が、どう言葉をかけていいのか。そのまま見つめ合ったままの状態で後の言葉が出てこない。そんな沈黙を破ったのはぷっと吹き出したアオイだった。
「やらー!いのしゅけさんの困ってる顔、面白ーい!」
むっとしながらアオイを睨んだが、ほっと胸を撫で下ろす。靴を脱ぎ、やっと座敷へと上がる。
「すんませーん!水、二つー!」
店員に向けて声をかける。
「婚約者に夜逃げされちゃいました」
「は……?」
『水、飲んだら帰るぞ』とかけるつもりだった俺を10トントラックに轢かれるかのごとく衝撃を受けた。酔いが抜けたのか、すんと冷静に戻ったアオイはいつものアオイけど、辛そうに笑う姿が痛々しい。
「一年前に婚約しますって報告したのに恥ずかしい…」
あの、真面目そうなガリガリの目細野郎の顔が浮かぶ。初彼氏でもあり、長い期間付き合っていた相手だ。俺にとっては憎たらしい相手である。
彼氏が出来た。と報告がアオイからあり、「よかったじゃん」と軽くあしらった高校んときの記憶がある。その頃俺は女をとっかえひっかえで付き合っていた。ただの性欲の捌け口として、身体だけの関係で付き合っていたつもりなのに彼女面して、やたらと纏わりつくだけは嫌いだった。それを側で咎めていたのはアオイだった。女としては見れず、姉のように感じていた事もあり、うるさい小言だと鬱陶しく感じていた。
一瞬悲しそうな顔を浮かべたように見えたアオイだけど、それからは煩い小言がめっきり減り、二人並ぶ後ろ姿も見かけるようになり、胸がざわざわと騒がしい。周りがアオイたちの事をお似合いのカップルだと囃し立てている中、俺だけは胸のうちで爪を立ててが広がっていく。
自分の気持ちに気付くのが遅すぎた。アオイが高校を卒業して去った後で、大好きだったんだと答えが出ると同時に、ささくれだった気持ちを引き抜くと痛みが残った。二人は別々の大学へと進学したようだったが、関係は続いていて、俺はただ見ているだけで傷がどんどんと化膿していく。
一年前に婚約すると報告された時は人生詰んだと思った。幸せならそれでいいなんて綺麗事で納得するような気持ちにはなれなかった。出来るならば、過去に戻って俺を殴り倒したい。
そう、地獄の一年を鬼のように仕事をし、紛らわした。それがどうだ?夜逃げとは?なぜ、どうして?聞きたいことはあるのに、アオイからの言葉を待つほかない。
「結婚資金貯めてたのに…出張だって、支度金が浮くようにいつもエコノミーにして節約してたのに…」
「うん…」
真面目なアオイが倹約している姿は容易に想像できる。
「なのに、他の女に私たちが貯めたお金を駆け落ちに使われた!」
「うん…」
タイミングよく、水が運ばれ一気に煽り、コップを机に叩きつけた。
「更に最悪なのは、私が大切にしていたうり坊の貯金箱まで割られたこと!」
「うん…ん?うり坊?」
「うぅぅっ」
机に突っ伏して寝ながら泣くアオイ。記憶が正しければ、俺が小学の時に授業で作った紙粘土で作ったものだろうか。それを問いただすには今がタイミングじゃないとは見て分かる。
「伊之助さんと唯一の繋がりだったのに…」
「え」
寝言のように呟くアオイ。実際半分夢うつつなのだろう。丸い瞳が長い睫で隠れてしまっている。
「大事にしてくれたんか」
つい嬉しくて本音がでる。ホワホワと胸が暖かい。
「悲しい…悲しいよお…あの日みたいに悲しい」
「あの日、って?」
「私に彼氏が出来たって伊之助さんに報告したことです」
「は?なんで」
思い出したくもない記憶がよみがえり、眉間にシワを寄せた。が、アオイは俺のことは露知らず、止まりそうもない。
「良かったじゃんって好きな人に言われたのがショックで。好きでもないのになあなあに告白してきた人と付き合ったのと、あの人を当て馬にして伊之助さんの反応を見たバチが当たったのね…」
「好きって、え?俺?」
「…」
「おい!アオイ?!寝んな!くそっ」
すっかり眠りに落ちたアオイ。肩を揺すっても、すうすうと寝息が聞こえてきた。ああ、どうしてくれよう。嬉しいんだか、かなしいんだか、怒ってるんだか。気持ちがおちつかないのをコイツは一ミリとも分かっていない。
この後、実家に送り届けようと思ったけど。俺んちで予定変更だ。
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ATEUMA
初公開日: 2024年04月28日
最終更新日: 2024年04月28日
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伊アオ版深夜の文字書き60分一本勝負
お題「当て馬/駆ける」
ゲリラワンライ 「甘酸っぱい」
ゲリラワンライ30分位で仕上げたい(挿し絵の30分合わせて1時間にしたい)タイマーもつけよう
ルハサブたもシャン
ゲリラワンライ お題 年号
伊アオ版ゲリラワンドロワンライ60分一本勝負時間は60分から90分まで切りの良いところで辞めようかな…
ルハサブたもシャン
ワンライ#3
30でりだつしちった
きょむい〜ぬ