俺は昔から、何をやってもすぐに褒められるレベルまで出来てしまっていた。
そんな俺を、周りは羨んだり妬んだり僻んだり、とにかくうざったい負の感情を向けてきた。
それが、劇団に入ってからは不思議と殆ど感じなかった。
咲也や椋は、俺が何しても本当に純粋無垢に感心し、尊敬してくれる。
真澄は俺と同類だからか、特になんの驚きもない。まあ、そもそも監督ちゃん絡まなきゃ、興味も示さないが。
綴と一成は、なんとなく態度が兄っぽい。それから幸と三角も。4人とも自分に絶対の自信があるものがあるからか、俺が何が出来ようといい意味で無関心に喜んでくれる。
至さんと天馬はマジのダチって感じ。至さんとはゲームで、天馬とは芝居やショッピングで、同じか向こうの方が上のレベルで張り合えるから、普通に楽しい。
冬組はまあ、ちょっと個性的な人がそろい踏みだから一度置いておく。
そして秋組は――正直、負の感情は感じねえが互いに競い合う精神が強いからか、正面から褒めてくるのは太一と臣くらい。そして、その中でも掛け値なしに全力で褒めてくるのが……臣だ。
「……おら、これで完成っと」
「すごいな、このヴィシソワーズも丁寧に裏ごしされててすごくなめらかだ。盛り付けも綺麗だし、やっぱり万里にお願いして正解だったな。ありがとう」
とある日のキッチン。俺は気まぐれに臣の手伝いを申し出、「それじゃあ、ちょっと大変だろうけど」とヴィシソワーズ作りを頼まれた。料理も数えるほどしかしたことがないし、ヴィシソワーズなんて勿論初めてだったが、ちょっとネットで調べて理解すれば、あとは下処理から盛り付けまで一度も手を止めることなく完成した。
「こんなの、楽勝だろ」
俺がそう言うと、臣は「さすがは万里。頼りになるよ」とまた微笑んだ。
「……」
そんな臣を、俺はじっと見つめる。どれだけ見ても、臣の表情から負の感情を読み取れない。
臣は、不思議だ。
正直、俺は臣よりも芝居はうまいと思っている。臣はタッパはあるけど穏かな気性のせいかイマイチ活かしきれていないし、アドリブもそんなに上手くない。声はよく通るがまさかの音痴だし、料理だってこの通り数えきれないほどやってきた臣と片手で足りる程度の経験で張り合えている。手芸だって臣よりうまく作れる自信があるし、カメラも勉強すればすぐに追いつけると思う。
喧嘩だけはちょっと自信がないが、それでも結構な部分で臣には勝ててると思うのだが……臣からはそんな俺に対する嫉妬も羨望も感じない。褒める時も嫌味ではなく本気で褒めてくれている。
かといって負け犬根性な訳でもない。本当に、よく分からない。
「? どうした? 俺の顔になんかついてるか?」
俺があまりにじっと見つめるので、臣が不思議そうな顔をして首を傾げた。その顔になんとなくムッとして、俺は少し臣に噛みついてしまった。
「なあ……悔しくねえの?」
「え?」
臣は驚いたように目を瞬かせる。それに益々イラっとして、俺は要らない言葉を重ねた。
「お前が毎日頑張って作ってる料理、俺は殆どしたことがねえのにこんな簡単に出来ちまうんだぜ? ムカつかねえ? 腹立たねえ? お前にとって、料理ってそんなもん?」
「万里……」
臣は目を丸くして俺を見つめ、それからふっと笑った。
「!」
その笑顔は綴や一成の浮かべる兄の笑顔にも似ていたが……それより更に、なんつーか、俺の内側に入ってきた。
「ムカつかないよ。万里のその勘の良さも、手先の器用さも、生まれ持っただけの才能じゃない。日頃から周りをよく観察して、自分でも色んなところで実践してみて、地道に身に着けたものだから」
「……は?」
臣の言葉に、俺は一瞬視界がチカチカと光ったかのように見えた。兵頭に負けたあの日の空のように、やけに眩しかった。
何も言えない俺に、臣は優しい笑顔のまま言葉を続ける。
「俺は、万里は努力家だと思ってるよ。勿論、普通の人より勘が良くて何でもできる器用さはあると思うけど、それでも出来るまでちゃんと頑張る万里を尊敬してる。万里自身がその努力を努力と思ってないところもな」
誰も……俺自身すら顧みなかったその部分を、臣は認めて光を当ててくれた。それがくすぐったくてかあっと体温が上がっていく。
「……別に、努力なんて……」
俺はなんとなく臣から視線を逸らして反論するが、その声が弱弱しく、顔が熱くなっているのが自分でも分かる。そんな俺を臣は変わらず微笑んで見つめ、それから少し口調を変えて言葉を続ける。
「それに、万里が料理できるようになったら、もっとみんなが美味しい料理を食べれる機会が増えるだろ? それなら俺は嫉妬するより喜ぶよ」
心からそう笑う臣に、俺は絞り出すように言う。
「……はっ! 臣はホント、誰に対してもアメ係だな」
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【ACT1臣と万里】褒めると静かになる子
初公開日: 2024年03月22日
最終更新日: 2024年03月22日
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コメント
3/22は臣万の日。ということにして、『よゆーマウント取る万里を相手しない臣』の話です。