「このチーズタルトも美味かった。はちみつを掛けたらもっと美味かった」
「はちみつを掛けると結構味わい変わるよなあ。特に、このはちみつはシトロンがマダムから貰ってきたクローバーはちみつだったから、余計美味しかったな」
「この信玄餅風あんみつパフェも美味かった。求肥が柔らかくて美味かった」
「この時は東さんが色んな黒蜜をもらって来てたから、黒蜜を使ったデザートばかり作ってたな。十座はこのパフェが気に入ってくれたから、これもよく作ったっけ」
臣と十座は、深夜の談話室で現像したばかりの写真を眺めながら、その時を懐かしむように話していた。十座のトイカメラの写真が色々溜まったので、臣と現像してアルバムを作っていたのだが、写真の半分は臣が十座に作った甘味ばかりで、自然と甘味の話になってしまう。
「……甘味の話ばかりしてたら、腹減ってきた」
「はは、俺もちょっと減ったな。それに、十座が何度も美味い美味いと言うもんだから、今もまた作りたくなってきちまった」
腹を押さえる十座の隣で、臣はにこにことそう言う。その言葉に、十座はキラリと目を輝かせた。
その視線だけで十座の言いたいことが伝わり、臣はくすりと笑いながら十座の頬を指で撫でた。
「……十座は、何が食べたい?」
蜂蜜のようにとろけた臣の甘い視線に、十座はつい「――臣さん」と呟いて、ハッと自分の口を塞ぐ。
「俺?」
臣は一瞬きょとんとし、それから「ははっ」と笑って十座の顎を取って己の方を向かせる。
「じゃあ、俺も十座をもらおうかな?」
2人は見つめ合い、ゆっくりと互いを味わうようにキスをする。唇を啄み、温かく湿った舌を絡ませ、互いの呼吸を貪る。お互い心ゆくまで堪能して、離れる。お腹は満たされなかったが、心は満たされて、食欲は一瞬消えた。
と、互いが動いた拍子に、アルバムが当たって落ちてしまった。まだアルバムに貼っていない写真がパラパラと落ち、その一番上にひらりと乗った写真を見て、十座の顔が曇る。
それにいち早く気付いた臣が、「どうした? 十座。そんな悲しそうな顔をして」と眉をへの字に下げた。臣の悲しそうな顔に、今度は十座が慌てる。
「いや、大したことじゃないんすけど……この時のブッシュドノエル、美味かったな、と思って」
十座の視線を辿って、臣はその時のことを思い出す。
「ああ……クリスマスが終わって残念がってた十座に作ってやった小さいやつか。こんなのも撮ってたんだな」
「あの時、もうクリスマスケーキがなくなっちまって悲しかった俺に、臣さんが作ってくれたやつっすから……嬉しくて、つい……」
そう口元を綻ばせる十座が可愛くて、臣は十座の頬にキスをする。
「これくらい、いつでも作るよ」
「……この時も、そう言って作ってくれたっす」
嬉しそうに目を細めた十座に臣もつられて微笑み……元の疑問に戻る。
「でも、だったらどうして今悲しい顔したんだ?」
「それは……」
十座は少し言い淀み、しかし結局白状した。
「……あの時と一緒っす。臣さんのブッシュドノエル、すげえ美味かったのに……年に一回しか食べられないのが、残念で……」
「十座……」
臣は悲しげな十座の横顔を見、それからにっこりと笑って提案した。
「じゃあ、今から作るか! ブッシュドノエル」
「! いいんすか?」
驚く十座に、臣は笑って頷く。
「ああ。ブッシュドノエルをクリスマス時期以外に作ってはいけないなんて法律はないからな。これ以上暖かくなるとチョコ系は作りにくくなるから、今がいい時期だろうし」
「臣さん……!」
十座がきらきらと目を輝かせ、嬉しそうな顔をする。そんな顔を見るだけで、臣は満たされたような、でももっと喜ばせてやりたいような、不思議で温かな気持ちになる。
「そうと決まれば、さっそく作るか。材料は多分あったはずだし」
ブッシュドノエルの材料はありふれたものばかりだ。キッチンでそれらを確認し、手際よく準備し計量し卵から混ぜていく。十座も、卵白を泡立てるのを手伝った。そして、卵と小麦粉、砂糖とココアをふんわりと混ぜて生地が出来上がったタイミングで、臣は徐に玉子焼き器を取り出した。
「玉子焼き器?」
確か、前回作ってくれた時はオーブンで焼いていたはずだ。首を傾げた十座に、臣は人差し指を立てて微笑む。
「今日は二人とも腹が減ってるから時短だ。これで、生地を焼くんだ」
「! そんな方法もあるんすか!」
三白眼を丸くする十座を可愛く思いながら、臣はクッキングシートをひいた玉子焼き器の上にゆっくりと生地を流しいれ、アルミホイルで蓋をしつつ焼き上げる。焼き上がった生地の粗熱を取る間に、チョコクリームをすごい勢いで泡立てていく。
そして焼き上がったスポンジの形を整え、切り込みを入れて巻きやすいように細工すると、そこにクリームを塗って巻く。ロールを少しだけ切り取り、外側にもクリームを塗って丸太らしい筋をつけていく。その丸太の上にちょこんと切ったロールを置いて、クリームを整え、冷凍フルーツを盛りつけたら、あっという間にブッシュドノエルの完成だ。
「すげえ……! 魔法みてえだ!」
十座は目の前でとろとろの液体だった生地がスポンジになり、ケーキになっていく行程に目を丸くする。こんな風に、最初から最後まで臣の調理過程を眺めることは滅多になく、臣への尊敬を更に深めた瞬間だった。
「はは、そう言ってもらえて嬉しいよ。でも、まだ完成には一歩足りないんだ」
「?」
十座は臣の言葉に不思議そうな顔をする。十座の目からはもう立派なブッシュドノエルだが、一体何が足りないというのだろうか。
そう思っていると、臣はふふっと微笑みながら、小さな袋を取り出した。そこで、十座はハッと気付く。
「粉糖っすか……!」
「正解だ」
臣は微笑んで、網を取り出して粉糖をブッシュドノエルに振りかける。
丸太のような茶色の肌にほんのりと白い粉がつく様子は幻想的ですらあり、十座は無言で見惚れた。
「……ケーキの上に、雪が降ってるみてえだ」
「まあ、そういう見立てだからな。もう3月だから、ちょっと季節外れの雪か?」
臣がそう言いながら振りかけてると、十座は無言で指を網の下に差し入れた。
十座の指先に粉糖がつき、十座はそれをぺろりと舐めとる。臣はその舌の赤さにドキリとしたが、その後臣を振り見上げた十座の柔らかな笑みに更に鼓動を高鳴らせた。
十座は嬉しそうに目を細めながら、うっとりと呟く。
「臣さんは、甘い雪を降らせることもできんだな」
「――十座!」
その発想の可愛らしさに、臣は堪らず十座を抱き締めた。
「……十座の為なら、いつでも甘い雪でも雨でも降らせてやる」
「……嬉しいっす。やっぱ臣さんは、魔法使いみてえだ」
臣と十座は、甘い雪を被った甘い切り株にも負けない、とびきり甘いキスをした。【終】
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【臣十のお菓子】季節外れに降る雪はあなたの手で甘くなりき【3/10はおみじゅの日】
初公開日: 2024年03月09日
最終更新日: 2024年03月09日
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コメント
明日のおみじゅの日の為に頑張って書こうと思います。
ブッシュドノエルが食べたくて、食べれなくて、落ち込む十座の話。
【万里と芝居】
摂津万里BDに投稿した、万里と芝居についてのあれこれ妄想
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『シケモクとクズと花火と』@横浜シネマ・ジャック&ベティ 備忘録
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