20.
宿題か。
端末のメッセージアプリを閉じた星は、銀狼に勧められたゲームを起動した。ログインボーナスを回収し、惰性のうちに作業を繰り返す。無意識でもできそうな手慣れた作業を進めながら、ぼうっと考える。
わざわざ宿題にするくらいなんだから、そんなに素直な答えでもないんだろう。二、三回ひねってからあっちの答えと合わせて効率化を図りました、みたいな手段を取る人だ。よくよく考える必要がある。
面倒をみてくれなくなる、というか。
星はソファの背からずるずると身体を滑り落とした。なおもタップを続ける画面の向こうでは、VIPルームに相応しい凝った意匠のライトが、やわらかい光をふりまいている。
面倒をみるというのは軽口の一種だ。星は、レイシオが指導を止める日が来るなんて思ってもいなかった。凡人たちの学びの機会を見落とさないようにする人だから、星が望む限り、それは当然のように続くものだと思っていた。
たしかに、すこし考えてみれば、レイシオは非常に忙しい。今回みたいに他の先生がつくこともあるだろうし、明るい未来を展望するなら、星が免許皆伝を受ける日もあるかもしれない。まあ、その確率は非常に低いだろうが、可能性のひとつとして。
でも、無期限の課題だと言っていた。それって、ずっと面倒を見てくれるってことと、何が違うの? それとも、焦点はそこじゃないのかも。
星は端末ごと、手を横に投げ出した。しばらくして、腕の先から派手な音が上がる。クエスト失敗を告げる物悲しげなメロディーが響くが、それを星はどこか遠くに聞いていた。
メッセージだと、なにが言いたいのかピンとこない。会って顔を見たい。そうすれば、少なくともどんな表情で言っているのかがわかる。すこしはヒントになりそうだ。あのシニカルな冷笑か、やわらかい笑みか。それとも、もしくは、まだ見たことのない表情かも?
だめだ。
集中しきれずに、星は端末を放り投げた。そのまま自分の身体を、べしゃりと横に倒す。革張りのソファは問題なく身体を受け止めて、星はぼんやりと宙を見つめる。
ゆるく手を伸ばす。虚空に指先で『?』を書いてみた。
ここは頼れる天才・スクリューガムに聞いてみる? まずは列車のみんなに相談したほうがいいのかな。いろんな人の顔が脳裏をかすめて、すこし考えて、星はその幻をおいやった。
目を閉じて、星は身体を縮こませた。つめたい皮の触感が頬を冷やす。
でも、ひとりで考えてみたい。
記憶の結晶を手にとって眺めてみる。ひとつとして似るもののない輝きを見比べて、星は思考に沈む。
時間はまだ、たくさんある。
降り積もっていく。その先で、彼が答えを待っている。
〆