一人暮らしだと聞いていたのに、どういうことだと水木に問うたら「あ、うん。まぁ……」と曖昧に流されたのがつい先程。この状況はどういうことなのだろうか?
森島はただ唖然としていた。飲み会で終電がなくなった。近くに水木という同僚の家があった事を思い出し、ダメ元で家の戸を叩いて一晩泊めてくれないかと頼んだ。そうしたら、その水木の後ろからのっそりと白い頭の大男がこちらを見てきたのだ。
「一晩くらい泊めてやっていいだろ?」
「……。」
大男の瞳はどう見ても「いやだ」と言っていた。しかし、今会ったばかりの森島でも解るその抗議の視線を水木はどうやらするりと無視するつもりのようだった。
「入れよ。風呂、入るか?」
「いい、のか?」
「どうせ俺とこいつと子供しかいない家だ。部屋は余ってる」
「……。」
森島としては、白髪の男の刺すような視線が気になって仕方がない。風呂だけささっと入れてもらって歩いてでも無理に帰ろうかと思ったが、予想以上に千鳥足で水木に大変心配された。残念ながら歩いて帰るのは無理なようであった。
風呂から上がると、2階の6畳間に布団が敷かれていた。その隣の部屋、障子で仕切れる6畳間の方に先程の大男と水木、それから3歳ぐらいになりそうな栗毛の子供が寝るらしい。三人分の布団を並べて寝る用意をしていた。
「そっちに三人だと狭くないか?」
厄介になる手前、少しくらい水木に気を遣おうと思った森島の一言はどうにも逆効果だったようであった。寝間着に着替えた水木の後ろから先程の白髪の男が水木を後ろ抱きにする。
「良いんじゃ。水木はこちらで鬼太郎と共に寝るんじゃ」
「はいはい。解ってるから離れろ」
「のこのこ上がり込んできおって。サッサと寝るが良い」
「なに怒ってんだよ、お前」
「今日は水木とま……ぐっぇ」
何か言おうとした男の口を水木が摘まんでしまう。男はそのせいでそれ以上何も言えないようであった。
森島はなんとなく理解する。もう今後、水木の家に突然訪問するのはやめておいた方が良いだろう事を。それから、もし、夜中に何事かの声やら音やらがしても知らんぷりを決め込まなければならないだろう事を。
「とにかく早く寝るよ。泊めてくれてありがとう」
「あぁ、そうか? おやすみ」
男の威圧感をも心地よさげにしている水木はどこか色気があるなと思ったが、森島はそんなことを想ってしまったことをも頭から振り払ってサッサと寝ることにした。もちろん、次の日はなるべく早めに家を出て、眠気眼のまま家路に着いたのであった。
カット
Latest / 20:37
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知