煽り煽ってどこまでも
──パシャン、と、雨が撥ねる。
雨が多い惑星柄、いつ雨が降っても良いように傘は持ち歩いているし、靴は防水だったり濡れても乾きやすい服だったりしているが、これは不可抗力だろう。
喧嘩慣れしているが、今は妹が一緒にいるのだ。自分一人ではないのがこんなにも不便で不利なのかと改めて思い知らされた。
殴られた拍子に盾とした傘は折られ、神威は妹を庇って立ち塞がるのがやっとだった。
ぎゅっと、服の裾を妹が掴んでいる。素肌が露出し、雨に濡れてしまっている妹の手はとても小さい。レインコートを着ているとはいえ、濡れ続けたら体が冷え切ってしまうので早く家へと帰らなければいけないのに。
解ってはいるが、そんな神威の杞憂を配慮してくれる相手だとは思えない。だって傘を折り、更に神威を殴ろうとしている相手だから。
失敗したなぁ、と神威がぼやく。心配そうに見上げてくる妹は半泣きで、涙なんだか雨なんだか解らないほど顔が濡れてしまっている。ぐちゃっとなった首元のレインコートのフードを頭にかぶせ、これ以上は濡れてしまわないよう、悲しい光景を見せないように瞼を覆うほど深くフードの中へ頭を押し込む。
「逆恨みはやめてくれない? 弱いのが悪いんだから」
「煽ってどうすンだよ……」
「えー、本当のこと言っただけじゃん」
神威は珍しく一人ではなかった。それは間違いではないが少し訂正があり、妹の神楽の他にもうひとり、──見知らぬ男が間に割って入り、なぜか庇ってくれている。
治安が悪いので誰かが止めたり、庇ってくれることなどは勿論ない。喧嘩や諍いは強者が勝って弱者の負けで勝敗がついて終わる。それが当たり前なのに、奇特な人がいたもんだ。
ちなみに普段の神威なら一方的にやられたりなどしない。多勢に無勢で勝ち目がないとはいえ、一矢報いてニ、三人は倒してやるのに。妹がいるので分が悪く、逃げることもできずに防戦一方になってしまい状況を打破できないでいた。
「……おじさんって、強いの?」
「オイ、訂正しろ。おじさんって年じゃねェ」
「十代から見たら、二十代も三十代もおじさんだよ」
厄介なのに絡まれた。
以前、神威が返り討ちにしたタチの悪いと噂の輩で。
「──…神威? あの子供ながら強くて狂暴で手が付けられないとかいう、問題児の神威か」
「否定はしないけど、妹の前で貶(けな)すの止めてくれない?」
「あの鬼兵隊の高杉と生意気な神威だ! やっちまえ!」
「さっさと片付けンぞ」
「え、俺とばっちりじゃん? 帰っていい?」
「元はと言えば、お前の客だろ」
「んー、妹がいるから穏便にいきたいんだけど」
「もう遅ェ」
「──…確かに」
おにいちゃん、とか細い声が背後から聞こえる。
二人が背中合わせに女児を庇うよう構えたときだった。
──視界の隅から、白いモノが飛んできたような気がした。
それは勢いよく宙へと飛び上がる。パシャン! と、軽やかながらも大きな水の撥ねる音を出したと思ったら、すでに神威の頭上にそれはいた。
白いと思ったのは、どうやら髪の色だ。それほど長くはないが、結ばれた三つ編みがしっぽのように靡いている。外套も服も黒いというのに、白い髪のせいか、はたまた逆境的な状況のせいか、突然やってきたそれは白く輝いた救世主のような存在に感じた。
音のした方向を視線で追えば、跳ねる白い躯体の赤い瞳と視線が合う。──神威の背を悠々と飛び越えて見せた白い影は、そのまま高杉の前にいた大男へ蹴りかかった。
自分の倍はある大男を蹴り倒したというのに。それの体幹はブレることなく、悠々と三人の前に着地してみせた。
「……え、」
「待ってろって言ったのに、なんでてめーも来てンだよ」
遅かったから、と答えているので、どうやらおじさんの知り合いらしい。
大男を蹴り倒して降り立ったそれは、神威よりも背が低い子供だった。毅然
「俺の高杉を傷付けたのは、誰?」
「白いおにーさん、強いんだね」
「おにーさん? 俺の方が背低いけど、おにーさんなの?」
「うん。俺より強い年下の子供がいるとは思えないし、おにーさんでいいでしょ? 名前教えてよ」
「別にいいけど。なんで高杉はずっと睨んでるの?」
神威を射殺す勢いで睨んでくる
「駄目だ」
「だめ? なにが?」
「──…名前、教えンな」
「相変わらず心が狭いのね」
「てめー限定だ」