デビルズパレスの夕食時。…といっても、1階の執事以外が全員食べ終わったあとのこと。調理係とその補佐係であるロノとバスティンはみんなの後に食事をとるため、1階室長のベリアンもその時に一緒に食べる。
今日も、いつものように1階組だけで夕食をたしなんでいた。
「なんだ、バスティン? 珍しく食事の手が止まっ…寝てやがる…」
バスティンの両手の動きがないことに気づいたロノが見上げると、バスティンはなんと椅子にもたれてうつむき加減に睡眠をとっていた。
「すぅ…すぅ…」
唇は引き結んでいるが気持ちよさそうに閉じられた双眸。やっていることは幼い子供のようだけど、整った顔をしているのでこれだけで絵になる。
「あらあら、ナイフとフォークを持ったままですね。危ないので置いておきましょう」
バスティンの居眠りを認めたベリアンが、彼の両手からカトラリー類をそっと抜き取る。ふと、彼の口元に、本日のメニューである肉のトマト煮込みの出汁が少し付いていたので、ナプキンで優しく拭ってやる。
「…厨房でオレの手伝いしてる時からフラフラしてたんだよなぁ…」
ため息と同時にロノが言う。
「フフ、限界だったんですね」
バスティンの口元を綺麗にしたベリアンが、自分の手を顎の近くに持っていき上品に苦笑した。
「食べてる最中に寝る子供ならいっぱい見たことありましたけど…こいつ、本当に22歳ですかぁ?」
自分の目の前に腰掛けて、食事途中に寝こけている、同室のライバル視しているバスティンを見て呆れ顔でロノが言う。
「フフ、かわいいじゃありませんか」
同じく同室の室長であるベリアンが、バスティンのつやつやの髪を梳るように撫でる。たまに、寝ているバスティンに触れると寝ぼけた彼に大剣を向けられることがあるのだが、今夜はそんな気配はなく、思いのほか深く眠っているようだ。
それからしばらくは、食事中に寝落ちてしまったバスティンを囲んで、ベリアンとロノの静かな夕食を嗜んだ。
「こいつ、起きねぇなぁ…。まだ食事途中じゃねぇか」
夕食を食べ終わったロノが改めてバスティンを見やる。ベリアンがそっと彼の胸から膝にかけた毛布にうずまるようにしてバスティンは寝続けている。
「きっと、起きたら食べたくなるでしょうね…」
目を覚ました時、食べかけていた自分の食事がないことに気づいたバスティンを想像してベリアンが心配げに言う。
「いいですよ。もう片付けちゃいましょ!?」
サバサバとロノが食器の片付けに入る。
「う〜ん…」
ベリアンが顎の近くに手をやり、少し困ったような考える仕草をした。
やがて食器の片付けを始めたベリアンとロノ。テーブルの食器は全て流しに持っていき、布巾でテーブルの上を拭く。その間もバスティンはすやすやと眠り続けている。
「ベリアンさん、本当、バスティンに甘いですよねぇ。バスティンの食事、取ってあるでしょ!?」
ロノが食器を洗い、ベリアンがそれを受け取って水滴を拭いて行く流れ作業。いつもはバスティンと皿洗いをするのだが、今彼は夢の中だ。
「そんなこと言って、ロノくんもメインディッシュを取っておいてあげてるじゃないですか」
見られていたのかと、ロノはバツの悪そうな表情になる。
「そ、それは…あとでまたアイツがうるさいからで…///」
赤面した顔を隠すように腕を頬まで持ち上げた。
「ふわぁ…ん…?」
一方、ようやく目覚めたバスティンがうっすら目を開き、あくびをして左手で目をこする。腕からずり落ちた生地で毛布が自分に掛けられていることに気づく。手触りのいい毛布だ。
そして、綺麗に片付いたテーブルに気づく。
「………」
きっと、獣耳があればわかりやすくシュンと垂れていただろうが、あいにくバスティンの頭に獣耳はない。それでも、目に見えて元気がなく俯いているのがわかる。
そこへ、食器洗いの手伝いを終えたベリアンがドアを開けてやって来た。テーブルの席でわかりやすくシュンとしているバスティンに気づく。
「あ、バスティンくん、目が覚めたのですね!」
そう言うとまた扉の外へ行き、次戻ってきた時にバスティンが食べかけていた食事を手にしていた。
「はい。ここに食事、取ってありますよ」
「………‼︎」
これぞ執事の鏡とも言うべきベリアンの計らいに、バスティンは感動して目をキラキラ輝かせた。