「大変だったな、ゆっくり聞くよ」
エルヴィンがハンジの背中にそっと手を添える。ハンジは笑顔でエルヴィンに促されるまま歩いた。
テーブルにつき、紅茶が振る舞われた。
ハンジは話す。
「エレンのバカが…」
「ミカサは…」
「そしたらアルミンが…」
「みんなと協力して…」
ハンジの話す速度がゆっくりになってきたと思ったら、ついに黙ってしまった。噛み締めた薄い唇が震えて、頬を伝ったのは…涙。
「うっ…」
溢れる透明な感情を抑えることができなくて、それでも流出するそれを止めなければと頬に手を持っていく。もう喋れなくて、というか口を開くとまた溢れるから涙を止めることに集中を…。
「ハンジ、ハンジ。泣きたいのなら、泣くといい。思い切り泣きなさい」
そう言ってハンジの背中をエルヴィンは優しくさすってやる。
抵抗虚しく、ハンジの抑制の糸が切れた瞬間だった。溢れる涙をどうすることもできなくて、声を上げて泣いた。エルヴィンの胸に縋って。
「ほ、本当は…壁の外に出て海を渡れるようになった後は…戦争じゃなくて…目新しい技術の研究をしたかったんだ…」
そう言って子供のように泣きじゃくるハンジの震える背中をあやすように撫でる。
「すまなかったな、ハンジ。重すぎる荷を背負わせてしまった…」
泣き止む気配の全くないハンジを、ひたすらあやすエルヴィンの穏やかな表情。
♢♢♢
たくさん泣いて、泣き疲れて寝てしまったハンジに、エルヴィンは労うように毛布をかける。頬を濡らしたまま、現世での疲れをとるために眠り続けるハンジの髪を愛おしそうに撫でる。
「ハンジ、苦労かけたな…。しばらくは眠るといい。彼岸に来たばかりの者は最初はひたすら眠るものだ。それがキミは…来て早々、話したいことが抑えきれないくらいあったんだろ? 抱えているにはあまりに辛い感情があったんだろ? ここでその荷を降ろして今はゆっくり休むといい」
♢♢♢
彼岸での時間の進みは物理ではないから、ハンジの目が覚めてからはエレンやミカサ、アルミンの決断の行く末も、きっと静かに見届けるのだろう。――ここから、彼らと共に。