がたんがたん。
がたんがたん。
小気味のいい音が鳴り響き、穏やかな空気が周囲を埋め尽くす。
そんな、通常の車両とは違う、暖かな明かりの中で、■は目を覚ました。
『…???』
混乱の極みである。
無理もない。
ただ普段の微睡から目を覚ましたら知らない場所にいた。
これが混乱せずして何であろう。
周囲を見渡す。
そこには誰もいない。
周囲には、誰もいない。
それにほっとするべきか、
それとも心細く思うかはさておいて、
■は周囲を観察した。
まっさきに目に入るのは、大きな窓だ。
小ぢんまりとしたスペース特有の、だけれど見知ったそれよりずいぶんと大きく湾曲しているそれは、風景のための縁取りであるとさすがに■も知っている。
だけれどなぜ、それが自分の前にあるのか不思議でならなかった。
不思議でならないと言えば座っている場所もそうだった。
身じろぎすると後ろにも窓があり、■はそこに備え付けられた、いわばカウンター席のような椅子に座っていたのだった。
そこはあくまでもくつろいだり、もっと言うのなら洒落つけたりするための物であって、眠るための物とは到底いいがたい。座り方が悪いのかもしくは仕様か、どうにも尻が痛い。
さすりながらもう一度、今度は注意深く周囲を見渡す。
やはり人はいない。それこそ、気配すらない。
ただ暖色系の明かりが、周囲を暖かく夜のとばりから守っているのみだ。
――――ここは、どこだろうか。
わからない。
というかそもそも、ここに来るまでの前後の記憶がない。
■は、自分は、今までどこで何をしていたのだろうか。
否。
何をしていたか、なら知っている。
自分は確か、眠っていたはずだ。
夜の微睡とは少し違う、水面近くの海中で揺蕩っているような、そんな眠りの中にいたことを、今でも覚えている。
不快感など何もない。恐怖などどこにもない。
静かで、だけどただそれ以外、|何もない《満たされた》空洞のことを、今でもはっきりと覚えている。
――――だけれど、それはここでのことではなかったはずだ。
まるで10秒スキップでもしたかのように、前後の記憶がない。
どうしてこうなったのか、皆目見当もつかない。
寝ている間に運ばれた?その線もあるが…
否。それはない。
だってこことあそこでは、あまりにも違いすぎる。
充ちている香りの種類も、車窓を流れる景色も。
そして何よりも、あそこにはーーー
そこまで考えたところで。
ぷししゅー…
と、間抜けな音が響き渡った。
空気が抜けたような、特有の音。
それが何なのかを、■はもう知っている。
音が鳴った方向に目をやれば、
そこには、通路への扉が満開に開いていた。
片方だけではない。両側・フルオープンである。
まるで招くかのように。
もう一度、自分の周囲を見る。
そこには誰もいない。
眠りの中、漂う意識のさなか。
確かに感じていたはずの体温も、未だ遠い。
■はそっと椅子を降りる。
太ももの後ろを通り過ぎる固めの感覚。
左右を振り向いて、左の扉へと向かった。
車窓の景色から察するに、つまり進行状況の方へ。
結論から言うと、その体温たちにはすぐに出会った。
どこにでもあるような、というのは少し違う、いわば|長距離走行旅客用の列車。
特有の、通路脇に設置されているトイレを通り過ぎ、小窓向こうの暗闇に目を凝らし――なぜか、おぞましいものを見てしまうような気がしてやめてしまったが――一息に通り過ぎた
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寝台列車
初公開日: 2023年12月21日
最終更新日: 2023年12月21日
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