※大幅に変更される可能性があります。
天秤の星
「な、なんだよこれ~!?」
俺の叫び声が響いた。
洞窟を抜けた先は、白い建物が基調の綺麗な街並みの中だった。水を乾かす暇もなく、鎧を着た兵士に取り囲まれ、槍を突きつけられてるこの現状。どう説明すればいいんだ。
「牡羊の星2名。乙女の星1名。魚の星1名。蟹の星1名。牡羊の星アスクと罪人の照合合致。罪状、山羊の神殺し主犯としてお前を連行する」
白い服を身にまとった男が進み出てつらつらと罪状を読み上げる。山羊の神殺しって、なんでこの人たちが知ってるの!?
驚いているうちに兵士の一人が手錠を持って近づいてくる。
「ちょ、待って!?」
「アスク、こっちじゃ」
いきなり腕をとられた。引っ張られるがままに後ろに倒れこむ。とっさにヘレを抱えている腕に力が入った。引っ張る力は相当強くて、ヘレを抱きしめたまま世界が回転した。
上下反対になった視界に映ったのは少し古ぼけた白い部屋。ベッドが二つに小さな机と椅子が備え付けられている普通の部屋だけど、部屋の扉の先はさっきまでいたであろう外に繋がっていた。
マルフィクが駆け込んでくる。
「スピカもはようこっちに来るんじゃ!」
聞き覚えのある声がスピカを呼ぶ。この声は蠍の神――シャウラだ。けど、姿は見えない。
「大丈夫ですか?」
白いレースが目の前に入り、見たことがない灰色のおっとりとした垂れ目の瞳が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「えっと――……」
誰? と思っていると扉がバタンと閉められた音が耳に届いた。いままで騒然と聞こえていた兵士の声がなくなり、鳥の鳴く声が消えるほど静かになった。
スピカが近寄ってきて、固まった俺に手を差し出してくれる。彼女に助けられて状態を起こす。
灰色の瞳で覗き込んできた人を改めて見ると、余裕のある白い服を身にまとい、桃色の髪をレースのベールで覆っていた。初めて見る顔だ。
「安心してください。この場所なら警備も見つけられませんから。わたくし、エスカマリと申します。天秤の神の協会に務めるシスターです。さあ、その女性をベッドに寝かせましょう」
「心配はいらない。私が身元は保証しよう。彼女は乙女の星の同盟国天秤の加護を持つ聖女だ」
戸惑っていると、スピカが彼女の素性を教えてくれる。同盟国、そうか天秤の星は乙女の星と交流がある星のひとつか。スピカが言うなら信用できる。
ほっとして言われた通りヘレをベッドへと寝かせた。目を開けはしないけどヘレの顔色はだいぶいいし、安静にしてれば大丈夫だろう。
安堵したとたん、疑問が頭をよぎる。さっき聞こえた声は蠍の神シャウラの声だった。シャウラは乙女の神殺しをしたらしい扶翼の騎士に傷を負わされ、意識もなかった。牡羊の星でアリエス様が力を分け与えて回復に努めているはず。
俺は辺りをきょろきょろと見回す。
「あのさ、シャウラの声がしたと思うんだけど……」
「こっちじゃ、アスク」
近くで聞こえる声に慌てて下を見ると、一匹の蠍が机の上で両の手をあげてアピールしていた。
「蠍の神は、加護の蠍を通してお話ができるそうですよ」
「シャウラ、意識が戻ったんだね」
「ふむ。おかげさまで目を覚ませたわい。まだ少し体が言うことをきかないが、しっかりと動けるようになったら追いかけるからのう、楽しみに待っておるのじゃ」
「わかった。待ってるね」
無事でなによりだ。シャウラが来てくれるならとても心強い。
「うむ。して、アスク。なぜヘレはそんな状態なのじゃ?」
声色に怒りが滲み出ていて、後ろめたさから責められてるように感じてしまう。ヘレを突き刺した感覚がよみがえってきて、手が震えた。
「それは……」
「私が治療しました。命に別状はありません。すぐに意識は戻るかと」
スピカが横に来てヘレが大丈夫なことを伝えてくれた。そして、俺の背中を軽く叩き、無理をするなと、視線で訴えてくる。俺は頷いた。
今は話したくないと、正直に伝えよう。
「ごめんね、シャウラ……俺はまずヘレとちゃんと話をしたいんだ。その後にいろいろと話すから……」
「なるほどのぅ……二人の間のことならば仕方あるまい。今は聞かんでやるからありがたく思うのじゃ」
「はは……ありがとう」
シャウラはえらそうな物言いだけど、ちゃんとわかってくれてるのが伝わってくる。
と思ったのもつかの間、シャウラもとい蠍の加護はサッサッと動きヘレが寝ているところまで移動する。
「早く起きんか、ヘレ!」
そして、尻尾の針をヘレの額に突き刺した……!?
「いったぁい!!」
ヘレががばっと起き上がる。
「着付け薬じゃ」
すごく誇らしげに言われても……みんなあまりに突飛な行動に固まってるし。
「うぅ……あれ? ここどこ……?」
しばらく額を抑えていたヘレが目を瞬いて辺りを見回す。
「天秤の星じゃ。詳しくはアスクから聞くんじゃな」
シャウラはヘレが目覚めたことに満足したのかまたさっさと移動する。
「ではヘレの面倒はアスクに任せるとしようかのう。現状と、今後について他の者は別の部屋で話すのじゃ」
そう言って、他の人たちを連れて部屋を出て行く。さっきまで外につながっていたはずの扉は建物の廊下に繋がっていた。扉はすぐに閉まってしまった。
「……え、あれ? シャウラ……?」
困惑したヘレの視線が扉と俺をしきりに往復している。
「蠍の加護を通して話せるんだって。シャウラは目が覚めて牡羊の星で休養中。身体が良くなったら追ってくるってさ」
「そっか……よかった……」
ぎこちないヘレの様子にどうにか話を切り出そうと、とりあえず近くでしゃべりやすいようにベッドの端に腰を下ろす。きっと俺も緊張でぎこちない動きをしてしまっているにちがいない。
「あの、さ……」
「う、うん……」
沈黙。まともにヘレの顔が見れない。
何から話すべき? ヘレの態度に怒ってたこと? 助けてくれたことのお礼? 謝らなきゃいけないこと? たくさんありすぎる……。
「…………」
でも、話さなきゃ。このまま黙ってちゃダメだっ。
「ヘレ、ごめん!」「アスク、ごめんね!」
ばっと振り返って、謝ったのは同時だった。お互い鳩が豆鉄砲を食ったよう。目を瞬いてから、何度かおかしくなって笑ってしまった。
「はは……」
「ふふ……なんでアスクが謝るの? 私が勝手に落ち込んで八つ当たりしちゃったのに」
ひとしきり笑ってから、ヘレは眉尻を下げて困ったように言葉を紡ぐ。知ってる。うっすらだけどマルフィクの師匠の加護によって強制的に見せられたヘレの過去を断片的に俺は覚えてる。
「俺が強くなるの、嫌?」
「――! ……イヤ、だった」
これ以上話を拗らせたくなくて、俺ははっきりと核心について聞いた。ヘレは目を大きく揺らしてから俯く。
「私、アスクが牡羊の星から出て、どんどん私から離れてく気がしてた。でも、私はアリエス様に選んでもらって、牡羊の加護があって、神様たちに私は他のみんなより抜きんでてるって言われて、どこかほっとした。私はアスクを守れるんだって……私は存在しててもいいんだって安心してたの。アスクにしてきたことは私が安心したいためだったんだって、気づいて……なんて嫌な子なんだろうって自己嫌悪した」
ひっと喉を鳴らすヘレの背中をそっと撫でた。
誰かに認めてもらいたい。自分の存在意義があると実感したい。その気持ちは痛いほどわかった。
「ごめんね……アスクに置いてかれて初めて気づいた。私は、強くありたかった。でも、私は強くなんかなかった。強くない私なのに、アスクのが強いのに、私を強いっていうから、もう頭がぐちゃぐちゃで……」
とめどなく話すヘレは顔を落としていて表情は見えない。けど、ぽたぽたと服を濡らす涙が彼女の苦しさを教えてくれる。
良く知る感情に昔のことが頭をよぎる。俺はヘレが羨ましかった。一生懸命に努力ができて、牡羊の加護を受け取った彼女が遠くに感じた。強くありたかった。でも理想が高ければ高いほど自分の力のなさに嫌悪していた。いっそ力がないことを認められたら楽だったのに。
俺は牡羊の星でずっとヘレを避けることで、ヘレは山羊の星で俺に怒りをぶつけて逃げることで――自分の気持ちをどうにかしようと足掻いたんだ。
ヘレが小さく身体を震わせてからぎゅっと服の裾を握る。
「私はアスクにひどいことしたの。ごめんね……」
「うん。俺もさ、ヘレと一緒だよ。俺でも力があるんだって思って、ヘレを守れるんだって思ったら浮かれてた。居場所が俺にもあるんだって、嬉しかったんだ」
ヘレが顔を上げた。目元が赤くて、涙がとめどなく溢れている。
「ねえヘレ。どっちかが守るんじゃなくて、お互いに守りあうって駄目なのかな? 俺はヘレを守るのも、助けてもらうのもどっちもあって対等でいられたら。って……そうしたらヘレとずっと一緒にいられるから……俺は一緒にいたい」
「……うん。一緒にいたい、アスクの隣に立ち続けられるように頑張る」
表情が綻んで、いつものヘレの笑顔に暖かい気持ちがこみ上げる。そうだ、ヘレは努力ができる人だ。劣等感になんか負けるわけがない。
「オフィウクスの星に行って、それで一緒に牡羊の星に帰ろう」
「うん。私、アスクと一緒にいる」「俺、ヘレと一緒にいる」
言葉が自然と重なって、二人して笑いあう。
「ひゃー! ごちそうさまですぅ!」
甲高い奇声に近い叫び声が聞こえて、体が跳ねた。
廊下に続く扉を開けて立っているのはエスカマリだった。興奮してるのかよだれをじゅるりと拭っていて、聖女と言われているのに大丈夫か? と心配になる。
「はあはあ、同じ星出身の甘酸っぱい幼馴染の恋いただきましたぁ! お互いがお互いを思いあう、純朴な愛! お二人の出会いはいつから? 一緒にいたいって思ったのはいつから? 二人の素敵なエピソードをいっぱい聞かせてくださ~い!!」
エスカマリは紙片手にガサガサ何か書きながら迫ってきた。え、こわっ。なんかめっちゃ早口で何言ってるかわからないんだけど?
「恋人同士のあま~いエピソード聞かせてくださいよ~!」
「恋人じゃない!」「恋人じゃないです!」
俺とヘレの大きな声が響いた。
エスカマリさん強烈すぎる。なんで俺とヘレが恋人同士って話になるの?
同じ星出身だから一緒にいるのが当たり前っていうか家族っていうか、そんなこと考えたこともなかった……。
「おい、話聞いてンのか?」
「ご、ごめん。いろいろ強烈すぎて……タルフが捕まっちゃったって話だよね」
そうだ、恋人同士とかいう話なんかよりももっと大変なことがあったんだ。タルフを見ないと思ったら、この家に避難する時に扉の先に置いてきちゃったっぽいんだよね。
シャウラ曰くあの扉は閉めた瞬間に外のあの場所から消えちゃってるらしくて、エスカマリさん曰く、タルフは十中八九捕まっちゃってるらしい。どうやって連れ戻そう……。
「わしの力は扉を一定時間別の場所に繋げることができるだけじゃ」
「タルフさんのことでしたら私の方でお迎えをお願いしたので大丈夫です」
エスカマリさんがにこっと笑う。
俺とヘレの話が終わったので、みんなと現状をすり合わせて今後の方針を決めている。粗方話終えてるみたいで、タルフのことは心配なさそうだ。
「天秤の加護を持つヤツがいンなら、別の星に行けばイイだろ」
「エスカマリは天秤の星の聖女だ。以前同盟国の会合があったが、その時に顔を合わせた。その場に出席していたのだ、取り纏めの立ち位置だろう。役職柄、勝手に星を出るわけにもいくまい」
「そうですね~。ですが天秤の神に会うには向こういっぱい予約が埋まってますのでだいぶ待っていただくことになってしまいますし……」
と、どうやら天秤の星に残るべきか、別の星に行くべきかを揉めているようだ。
「加護についてどうするかは任せるよ。俺としては天秤の神の図書館に行きたいんだけど」
俺は天秤の星でやらなきゃいけないことを伝える。
「あら! 図書館のことをよくご存じですね。天秤の星でも知っている方はそれほど多くないのですが……」
エスカマリさんの困ったような訝し気な視線が突き刺さる。
「えっと、山羊の神カプリコルヌス様に教えてもらったんだ」
正確には、山羊の加護に教えてもらったんだけど。俺は図書館で調べたいことがある。
「そうでしたか。して、どのようなご用件なのでしょうか?」
「カプリコルヌス様の遺言で――」
俺は、プリコルヌス様は自分が死ぬことを知っていて、優秀者への報酬については先手を打っていたことを話す。優秀者を選抜できないから参加者全員にそれぞれ一度だけ山羊の神の力を使う権利を与えるって。ただ力を使うのは俺が受け取ってる山羊の加護だから制限があって、見たい過去か未来の時期を明確にしないといけないと。
「天秤の図書館は、天秤の神が記した記録が保管されております。たしかに過去を調べるのであれば適任の場所になりますね」
エスカマリさんが納得したように頷く。
「なら、その図書館ッてのに行くぞ」
マルフィクの食いつきが半端ない。早くしろと言わんばかりだ。でも、それが出来たら苦労しないんだよなぁ……。
「お待ちください。図書館にはどのように訪れるつもりですか? 天秤の神の記録が保管されている場所です。一般の方はもちろん、指名手配されているアスクさんが行けるような場所ではないですよ……?」
エスカマリさんの言う通りだ。指名手配がなければ天秤の星の聖女と言われているエスカマリさんにお願いすればなんとかなりそうだったけど。神殺しとして指名手配されてるんじゃ、顔見られただけで捕まっちゃいそう。
「ならオレひとりで行く」
「いやいやいや、山羊の加護の力がないとダメなんだから、俺も行くよ!?」
「どうやッてだ?」
「うーんと……変装、とか?」
「いいですね! 衣装でしたら私にお任せください!!」
マルフィクとの会話に目を輝かせてエスカマリさんが割って入ってきた。彼女の勢いに既視感、イヤな予感がする。
「変装したぐらいで入れンのか?」
「普通にしたくらいではダメですね。ですから、女装しましょう!」
「じょそう……?」
「はい! 性別を偽ればそれなりに騙しやすいはずです! ね! 性別が違えばすぐにアスクさんと結びつけるということもありません! それに私と同じ神殿の服であれば体のラインは出ないのでごまかしもしやすいですし、これは完璧な案!」
ばーっと話が止まらないエスカマリさんの圧に俺は、そうなのかな? っと一瞬納得しかけた。
「アンタはこッち側だッてバレてねェんだろうな?」
「もちろんです! 扉からは見えない位置に待機しておりましたので、私は見られておりませんよ。ですから、私の従者として連れていけば問題なく図書館に入れると思います」
胸を張るエスカマリを値踏みするようにマルフィクはじっと見つめた。
「……変装以外でもう一つ陽動ができンならそれでいく」
「え、女装はするの決定なの!?」
「姿を変えるッてのは有効だろ。逃亡する時にも服や髪形を変えることはママある」
マルフィクの経験則だろうか。女装してでも図書館に行く。は彼の中では決定事項のようだ。
俺は女装してでも図書館に行く理由はあるのだろうか。たしかに双子の神殺しの過去をしっかりと知りたい。それに、他の神についての記述もちゃんと見たかった。過去の記述であればオフィウクスのことも、アリエス様のことも記載がどこかにあるだろう。
俺は神殺しはよくないと思うけど、マルフィクの過去を聞いてしまった手前、神々が正しいのかはわからない。それにそれぞれが話す内容は嚙み合わないことが多くて、本当のことを知りたい。オフィウクスの神は本当に双子の神殺しに関わっていたのか。
思考を凝らしても結局答えは出ないのだから、図書館で調べるべきだ。じゃなきゃオフィウクスの星に行って俺は結論がしっかり出せない気がするから。女装は仕方ないんだ、うん。
「陽動なら、街で騒ぎでも起こしてもらえれば十分だ」
「貴様、私たちに天秤の星で事件を起こせというのか?」
俺がなんとか自分を納得させているうちにマルフィクが話を進めていた。
マルフィクの言葉にスピカが牽制をする。しかし、マルフィクは鼻を鳴らして肩をすくめる。
「別に。騒ぎじゃなくてもイイ。兵士どもの目を引き付けてくれればそれで」
「それならヘレさんにアスクさんとして表に出てもらうのはどうですか?」
「へっ? 私?」
「アスクさんとヘレさんはそこまで身長に差はありませんし、同じ星の出身ですから雰囲気も似てます。ですから、アスクさんの服を着て街に出れば勘違いしてくれますよ」
「でも髪の色が違いすぎるかな……」
俺は赤毛で、ヘレは淡いクリーム色だ。どう考えてもこの濃さの違いで印象はだいぶ違うと思う。
「髪の色でしたら、私の加護で変えてあげますのでご心配なく! さあ、アスクさん、マルフィクさんは先に着替えましょう!」
「待て、なンでオレまで」
「私の従者ならば女性のが違和感ありませんから、もちろんマルフィクさんもですよ! ほら、急ぐんですよね、早く行きましょう!」
誰もかれもエスカマリさんの圧に押されるのだった。
エスカマリさんがアスクとマルフィクさんを連れて出て行った。
「ふぅ、エスカマリさんってすごいですね」
「あんなに押しが強いとは思わなかった。前に会合で集まった時には笑顔を絶やさない穏やかな人物だったと記憶していたのだが……」
スピカさんも唖然としていたようで、戸惑ったような声色だ。
「ふむ。エスカマリはわしと意気投合できるすばらしいオナゴじゃ。してヘレとアスクは恋人同士ではなかったのか?」
「シャウラまで何言ってるの!?」
「違ったのかのぅ? ずいぶんと仲が良いように見えるうえ、二人して牡羊の星に一緒に帰りたいと言っておったしのぅ?」
「ち、違うよっ! 仲が良いのはずっと一緒に育ってきたんだから当たり前だし、兄弟みたいなもんだもんっ」
そうだ、そうだよ。アスクのことはずっと心配だったし、家族みたいなもんだし!
「ほぉ、ならばわしがもらっても良いわけじゃな」
「え!?」
心臓が一瞬跳ねた。ドキドキしてる。なんでか胸の奥が濁ったような、気持ち悪さがあった。
「ヘレはアスクのことは兄弟と思っておるんじゃろ? ならば、アスクの嫁にわしがなっても良いじゃろう」
「それは、そう……アスクの気持ち次第だし? シャウラはアスクがいいの?」
ドキドキする胸を押さえて、私はシャウラに聞き返す。シャウラは本当にアスクが好きなの? なぜか気になってしまう。
「もちろんじゃ。わしを外に出してくれたのはアスクとお前たちなのだからな。皆愛しておる!」
シャウラの笑顔がはっきりと思い浮かべられるほど、嬉しそうな声だった。シャウラの『好き』を聞いて、さっきまで忙しなく渦巻いていた違和感が消えた。
「そっか、私もシャウラのこと好きだよ」
「うむ、わしはお前たちなら誰でも大歓迎じゃぞ。ヘレのことも気に入っておるしな、いっそわしの星で暮らすのはどうじゃ?」
「ありがとう。でも、私は牡羊の星に戻るつもりだから、遊びには行くね」
「ふむ、残念じゃなぁ。しかしヘレが牡羊の星に戻るならばアスクが別の星に婿入りしても問題ないじゃろ。わしはアスクは良きパートナーになると思うぞ。優しいところも実直なところも良い」
「私もアスクはとてもいい旦那になると思うぞ」
「スピカさん!? スピカさんも、アスクのこと……そのす、好きなんですか?」
「好感を持っているのは否定しないな。信頼している」
「そう、ですか……」
また心臓がドッドッと早くなって、重い。さっきからなんでこんなに動揺してるの……?
「あら~、とっても楽しいそうなお話で盛り上がってますわね~」
「!?」
聞いたことのある間延びした高い声。さらなる衝撃に口から心臓が飛び出るかと思った。
声の方をおそるおそる見れば、窓枠に腰を下ろして私たちを見ているのは紛れもなくアルディさんだった。
「アルディ、来たか。ずいぶんと早い帰還だが、大丈夫だったのか?」
以外にもスピカさんが落ち着いた様子でアルディさんに話しかけた。アルディさんはレーピオスさんの味方をしてスピカさんを攻撃したのに、どうして……?
「ふふっ、レグルスに身代わりをしてもらってますから~、問題ありませんわ~」
「え、えっと。どういうこと……?」
「あらあら~、ヘレさんは純粋なのですね~。わたくしが裏切者だと思っておりますの~?」
「すまないヘレ。元々アルディとは話をつけていてな。向こう側に入り込んで事情を探ってもらっているのだ」
「まあ~、向こうの条件が良ければ寝返ることもやぶさかではないですわ~」
にこにこ笑うアルディさんと、すまなそうの頭を掻くスピカさんに、私は茫然とするしかなかった。
「アルディさんは向こうにスパイに行ったってこと……?」
「そうだ。バレないように敵対する時は徹底的に行うことになっている」
「では~向こうで仕入れたお話はこちらのレポートにまとめておきましたので~、恋バナのお話の続きでもいたしましょうか~」
「え゛」
「ヘレさんが~、アスクさんのことを家族と思ってらっしゃるなら~、わたくしがいただいてもよろしいんですの~?」
「え、でもアルディさんにはレグルスさんが……?」
「あら~、あれは所有物ですもの対等に扱うわけありませんわ~。それに~あんな借金まみれの男お断りでしてよ~。その点ー、アスクさんは加護を増幅する稀な力をお持ちでしょ~? 手に入れれば我が星の最大のメリットですもの~!」
「これは恋バナなのかのぅ?」
「アルディは政略結婚という手段も厭わないからな。利益が出るなら実際手を回す可能性はあるぞ」
「アルディさんは好きな人と結婚したいと思わないんですか……?」
「ええ~、牡牛の利益が一番ですもの~。ヘレさんはアスクさんのこと家族と思ってますから構いませんわよね~?」
「そ、それは……」
アルディさんが笑顔の圧に言葉が出てこない。
「アルディ。あまりヘレをいじめてやるな」
「でも~、客観的に考えるのは大切ですわ~。アスクさんのことを星を出てまで迎えに来てましたし~」
「それは心配で――!」
「うむ、絶対に一緒に帰ると豪語もしておったな」
「だって、同じ星出身だし――!」
「一緒にいたいんですもんね~?」
「だって、だって……」
私ってアスクのこと星を飛び出してまで追っかけてきちゃって、一緒に牡羊の星に戻るものだと思い込んで、ずっと一緒にいようって約束して――
「うぅ~っ」
それってなんか……
「身近にいる人が一番大切なことってありますわよね~」
「アルディがそれを言うのか?」
「ということは、そのあの傷のある男がやはりそうなのじゃな?」
「どうでしょう~?」
扉がバンっと音を立てて空いた。
「おねえさまああああ!」
熱くなった頭が揺さぶられるほど大きい声で、意識が戻される。
「あら~、ヒアがこんなところにいるなんて驚きですわ~」
アルディさんに抱き着いたのは可愛いフリフリの服を着た女の子だった。二つに結んだ髪が靡いていて勢いが良かったのがよくわかる。
「おねえさまお会いしたかったのです! おねえさまの好きな人はボクですよね!!」
「ふふー、わたくしはそろそろ戻らないといけませんのでー、失礼しますわー」
ヒアと呼ばれた女の子の手から簡単に抜け出すと、アルディさんは窓からふわっと外に飛び出た。
「おねえさまあああ」
涙を浮かべて手を伸ばすヒアさんは窓に駆け寄り、すぐにアルディさんを追って消えていった。
「……何だったんだろう……?」
「さてなぁ……見事なまでの逃げ足じゃったなぁ」
「あのアルディが逃げるとは、相当訳ありなのだろうな」
でも、おかげであの感情がいったんどっかに飛んでって助かった。
考えたくなくて、気づいた気持ちは頭の隅に追いやる。だって、もし本当にそうだったら、アスクとはどう接すればいいの。
「アルディのことは心配だが、彼女ならば自分でどうにかするだろう。アスクたちが戻ってくる前に報告書を拝読しよう」
私もそれ以上恋バナには触れずに、スピカさんが持つ報告書を覗き込んだ。
※ここまで書き検討中
「では、今後について話し合うとするかのう」
「で? ナンでもう山羊の神の話がこの星にまで届いてンだ?」
マルフィクが壁に背を預けなら、シャウラとエスカマリさんに問いかける。
「それはわたくしからお話いたしましょう。先刻、天秤の神から御触れが出たのです。アスク様によって山羊の神の命が果たされたのを目撃したと」
「目撃だと? 天秤の神がそこに居たとでも言うッてェのか?」
「天秤の神はすべてを見通す力をお持ちです。また、元々山羊の神の予知でも天秤の星にオフィウクスの加護を持つ者が現れたのであれば、自分の命は無いのだと伺っていたようです」
「ですから、目撃した情報と前からいただいていた情報で、罪状ができあがってしまったのです」
「……たしかに俺の手はカプリコルヌス様を貫いていた」
耳元で聞いた「生きたい」という言葉を思い出して拳に力が入る。
「だが、実際アスクの身体はレーピオスの加護に操られていた。アスクが殺したのではない」
ーーー
こっからは天秤の神にあった時に話す内容にしようかな
「存じ上げております。しかし、そうは取らない者たちもいるのです」
「言い回しが気に食わねェな。天秤の神がそう思ッてねェってことだろ?」
「いいえ、違います。天秤の神はそういう思考は持ち合わせておりません」
「……?」
「天秤の神は裁きを公正に行うモノ。事実の羅列しかしないのです」
「聞いたことがあるのじゃ。古き神天秤の神リーブラは膨大な情報を書き留める代わりに、自我を持たず、力を行使し続けていると」
「天秤の神は他の星とは異なります。神は人間に口を挟まず、事実を書き留めた情報を提供するに留めているのです。そしてそれを判断するのは人間です」
「は? 神だろ? なんで自分で決めねェんだ?」
「
「さ、殿方は別のお部屋で身体を休めてください」
「一緒に旅をしてきたのですね……それで! みなさんはどの殿方をお慕いしてるんですか!?」
目がきらきらしている
「私、コイバナに目がないんですぅ!」
魚の星から天秤の星に到着した直後、兵士に囲まれる。
蠍の神が扉を出現させて助けてくれる。そこにいたのは天秤の星の加護持ち。聖女と呼ばれる女性とアルディを追いかけてきた牡牛の星の女の子だった。
タルフは不憫属性から取り残されてしまっていた。そのため牡牛の女の子が迎えにいってくれる。
聖女は献身的にヘレの世話をしてくれる。
アスクは山羊の神殺しの容疑がかけられていた。神への反逆者として指名手配されているという。
聖女はスピカやタルフとは一度あっており、同盟星の加護持ちたちが一緒にいるのだからきっと何か理由があるにちがいない。と、隠れ家を用意してくれてたという。
蠍の神がヘレのことを叩き起こす。
ヘレはしばらく茫然としていたが、アスクにだきついて謝る。アスクも謝ってそこはハピエン。
よかったといっている中、安心したのか蠍の神はいままでどうしていたのかと話を聞く。
※ネタばれ
脚本のタイトル:天秤の星
テーマ:アスクが神のことを信じていいのか揺らぐ心を、はっきりと神を守る方向に決める。