ぼんやりとかすれる視界の中、ゆったりと息をつく。
大体の人にとって、ゆったりと過ごせる場所であるはずのベッドですら、彼女にとっては新たな緊張の一端でしかない。
気を紛らわせるためのエロい妄想は、「窓」の不調により寄りにもよってモデル(というか当の本人)に流されそうであるので却下、
体をほぐすための呼吸は逆にこわばらせるための雷にしかならず、
静かな空気感は首を絞めるための真綿に過ぎない。
そんな中で奇跡的に息ができているのは、簡潔に言ってしまえば視覚聴覚味覚触覚以外の「気を取られる」事象が起きたからだ。
酸欠同然に気を失ってから以降、理解していなかった真白の塊が視界に入る。
ーーーそれは、少女の姿をした機械だった。
否、厳密にいえば機械ですらない。
本来ならば肉体としての物理的構造物すら持たないはずの存在。
0と1でできた|流動的個体によってできた精神の殻のみを持つ、ソフトウェアで動く声。
それに関してのあれこれは、今は言うまい。
今はただ、目の前に起こっている事実のみを語るべきだが。
「――――――――――。」
何が起こっているのかは、彼女にすらわからない。ただ視覚情報を無理やり言語情報に起こすのなら、それはこんな風。
つまりーーー自分の隣で、少女が寝ている。
白い髪、白い肌。特徴的な、|元の魔性から引き継がれた瞳は、今はレースに縁どられた瞼に覆い隠されている。
さらさらと流れる長めの前髪に、うるむ唇は年相応の少女性を醸し出していて、見目麗しい。
何よりも、シンプル近未来系デザインの限りを尽くされていながらしっかりと、はしたなくない程度の少女性を保証されている寝巻は、彼女の白さをより強調している。
窓からは、月が見えていた。
そんな情景を目の前に、彼女の頭の中は?????で埋め尽くされていた。
無理もない。
何もピンと来てない頭のままで、ぼんやりと目の前の光景を眺めていた。
月光の元の純白の少女は、ただそこにあるだけでまぶしいくらいに美しく。
めがつぶれるんではないだろうか、なんて馬鹿みたいなことすら、おそらく大げさではないと本気で思える。
彼女からは、いいにおいがしていた。
フシギなにおいだ。香水とも体臭とも違う。
あらゆるにおいがバラバラに香ってきていて、それが不思議とひとまとまりになっている。そんな感覚を覚えさせる。
ほんの少し、一mmでもズレたなら、おそらく悪臭になるだろう。
そう思えるのに、不思議なぐらい、目の前の少女から薫る香りは彼女によく似合っていた。
恐らく、シャンプー、服の柔軟剤や洗剤。そういったものが混ざり合っているのだろう。
彼女には、体臭というものはない。
そういった香りたちが、ありのままに香り立っているが故のものなのだろう。多分。
それがいい匂いと呼ぶべきかどうかはさておき、それは、彼女にしか出せない物であることは確かだ。
皮脂も汗もなにもない。それに少しさびしさのようなものを覚えるのはさておき。