「―――あの!」
いまでも。
どうしてそんな行動をしたのか、俺には思い出せない。
「ハンカチ、落としましたよ。」
哭くものメロウ
いまとなってはもはや笑い話にもならないことだが、俺はかつて大学生デビューに失敗した。
垢ぬけた服装、一部染めた髪色。最初はうまくいっているように見えたが、だんだんと、俺の近くに人は来なくなっていた。
陽キャと言われるものに必要なのは、考えない頭と最低限の良識と|世界周囲へのぼんやりとした愛と現状維持のための努力なのだと、俺はその時初めて知った。
俺はそのどれもが無かった。だから失敗した。当たり前のことだった。
人が変わるには、外見とかそれ以前に、まず内面―――というか、生き方を変えなくてはいけない。
自分というものを丸っと全部、それこそ根本に至るまでごそっと、変えなくては人は変われない。
それは当たり前のことだった。自省とか反省とかは、そういう意味の言葉だったのだ。
俺は反省した。そして自省した。人生を丸ごと変えることはできなかった。
なので俺はまず、一回もやったことのないことをすることにした。
それは例えば深夜のバイト、それは例えば一見隣の駅のカフェに行くこと。
友人…と言っても、ただ同じ講義を毎週とっているだけの仮の友達だが…に誘われたバンドも、その一環だった。
どうせ暇だし、大学生デビュー失敗の落ちこぼれ生としては、それこそ跡がなかった。
人と人とのかかわりあいを大事にしないここでは、誰とも話さなければそれこそ痕が残せない。
誰もかれもにぼんやりと向けられる親愛は、ただその程度でしかないのだ。
だから、というわけではないが、言ってみれば俺がそれをしたのも、ただのその一環だったのかもしれない。
少なくとも小学生までの俺だったなら、こんなことは一生かかってもできないと断言するだろう。
だが、今日はできたのだ。
振り返ったその人は、人魚姫のような人だった。
何を言ってるのかと言われそうだが、事実なんだから、仕方がない。
■。
「すいません、ぼうっとしちゃって…」
「いえ、いいんですよ。俺の方こそすいません、あの、日傘とかって…」
「それがー‥・忘れちゃって。えへへ、少しくらいなら大丈夫かなあって思ったんですけど。」
それは自殺行為だ。と突っ込もうとしてやめた。
何をどこをどう言っても、俺ではしょせんセクハラにしかなりえない。
「ああ、今日はいい天気ですもんね(皮肉)、そりゃかさなしで出かけたくなるわけだ。」くらいしか言えないし、いい用によってはそれもただの皮肉だろう。
だがまあ、言わないよりかはましかと、口を開いたところ。
「………………ああ、まあ、そうですね…?」
と、ぽかんとされた。
ッスーーーーーーーーーーーー…
しくじった。
早く紅茶取りに来てくださいという呼び出しが来ないかな、と思いながら必死でとりえ会えずただ押し黙っていると、ちょうどよく呼び出しが来た。
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向き
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ナクめろ
初公開日: 2023年08月04日
最終更新日: 2023年08月05日
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陰キャ男子大学生と人魚の歌姫の出会い。